空と海とカウベルと。【島小#17】/離島の小学校編 17
遠足の朝は船に乗ることから始まり、週末には本土で買った『炎のゴブレット』を船の揺れに耐えながら読むことになりました。
島に戻れば、今度は音楽会や作品展の準備が押し寄せます。
気づけば空と海のあいだで、秋の行事に追い立てられていました。
前回の話👇
離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。
今から約20年以上前の2002年(平成14年)10月頃のお話です。
※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。
赴任したのは,こんな島です。👇👇
【目次挿入】
1.五時半と船で始まる遠足
10月のまだ暗い朝、目覚ましが鳴ったのは5時半でした。
遠足の集合が「船に間に合わせること」だったのが、離島の学校らしいところだと思いました。
港の空気はひんやりしていましたが、子どもたちの表情には眠気よりも期待のほうが勝っていました。
まずは連絡船で本土へ渡ります。遠足は、船に乗る瞬間から始まっていました。
到着した本土の港にはバスが待っており、県都へのコースは「県警→県庁→NHK→科学センター」という王道の社会見学ツアーでした。
県警本部では、110番通報の流れや交通情報システムの仕組みについて説明を受けました。
「島から110番したら、どれくらいで来ますか?」 という質問には、子どもたちも私も耳を澄ませました。
重大事件ならヘリで約15分。
しかし軽い案件は……
「連絡船で来ます」
とのことでした。
「その頃には犯人も船で逃げてるんじゃ…」という空気を、全員が心の中でうっすら共有したのはきっと私だけではなかったはずです。

続く交通情報センターでは、本土の信号機の制御システムについて熱心に説明していただきましたが……
こちらには信号が1つもありません。
我々の学校の子どもたちには、ややファンタジー寄りの内容となってしまいました。
2.県庁見学とカメラの視線
県庁では議場や知事室などを案内していただきました。
丁寧な説明ではあるのですが、案内係のお姉さんが紙を棒読みしていて、妙な間合いが続きました。
しかも名札もありませんでした。
「市役所でも名札は義務なのだが……」と、島教師の頭に疑問符が残りました。
(あくまで当時の話なので。でも当時からカスハラ対策してたとしたらすごい。笑)
続くNHKの見学ではスタジオや番組制作の仕組みに加え、技術機材の紹介もありました。
ただ、我々の見学風景をずっと撮影しているカメラマンが1人いて、少し落ち着きませんでした。
帰りのバスで「放送されるのかな」「映ってたらどうしよう」と子どもたちと少しざわつきました。
3.驚きの昼間の星空体験
昼食を公園でとったあと、県内中心街のアーケード街を歩きながら「島にはない風景」を目に焼き付けました。
そして,子どもたちは、午後の科学センターで再び目を輝かせました。
液体窒素を使ったサイエンスショーでは、バナナで釘が打てる実験にどよめきが起こりました。
さらに天体望遠鏡で、夏の大三角形の一つの星を昼間に観察させてもらえると聞いて、半信半疑だった子どもたちがレンズを覗いて息をのんでいました。
「見えるんだ……」という驚きは、教室の理科では得られない実感でした。

そのまま帰りの船に間に合うように港へ戻り、全員でどっと疲れた体をベンチに預けました。
4.空と海が交互に迫る船
週末、本土に帰った貴重な時間には『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を求めて書店巡りをしました。
行きつけのチェーン店は売り切れ。
結局、駅前の紀伊國屋まで足を伸ばすことになりました。
駐車場に車を入れるのが面倒だったのです。
予約をしていなかった自分を少し悔やみながらも、「この週を逃すと次は無理だ」と思い、迷わず購入しました。
島へ戻る船で『炎のゴブレット』を読み始めたものの、冬型の気圧配置で波が高く、文字が目の前を逃げていくような状態でした。
船が傾くたび、窓の向こうには「空 → 海 → 空 → 海」の映像が規則正しく切り替わります。
そのうち、なぜか「今の傾きは何度だろう」と角度を推測し始めている自分に気づき、そこで読書を完全にあきらめました。
頭の中では,中島みゆきの「空と君とのあいだには」がリフレインして, 「空と海の間には,今日も苦しい船酔いが来る」などと考えていました。
5.市音楽会、教師もステージ
研究授業の振り返りが終わったと思った矢先、「来週の市音楽会」がすぐに待っていました。(※注 総合的な学習の時間編では,研究授業はまだ終わっていません。)
参加校は20校ほど。
音楽主任の先生から当然のように,
「先生方も出演お願いします。」
少人数校なので、教員も全員ステージに上がるらしいのです。
曲目は「島唄」と「風になりたい」。
後半、「島唄」の途中から校長先生を含めた教員全員が加わる演出です。
私が手渡されたのはカウベル。
音の存在感が強く、「失敗すれば、全員がこちらを見る」という恐怖がつきまといます。
さらに衣装は黄色いバンダナに赤いTシャツ。
「子どもたちのほうが落ち着いている気がするな」と思いながら、昼休みの合わせ練習でベルを鳴らす手は自然と慎重になっていました。
6.秋、行事の波に追われて
同時進行で、市町村の作品展への提出も迫っています。
写生のテーマは港の漁船。
筆と絵具を握る子どもたちの背中が、波音を遠くに感じながら並んでいきます。
さらに毛筆・硬筆作品も必要で、締め切りとの追いかけっこが続きました。
前任地では校内単位の展示会だったため、今の規模感にはまだ慣れません。
「同じ県内でも、行事の形がこれほど違うとは」と、作品の仕上がりを見守りながら何度も思いました。
10月の島は、まだ日差しに夏の名残があります。
それでも教室には、確実に「芸術の秋」の気配が満ちていきました。
カウベルの音と筆を走らせる音。
そのどちらにも、子どもたちの真剣さと、教師として背中を押されるような感覚がありました。
▶離島の小学校編18へ続く
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