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「始めなければ、何も動かない」島の挑戦【島ICT#12】/離島のデジタルデバイド編

デジタル図鑑が完成し、それを島の人にどう届けるかという課題は残っていた。
その問いを抱えたまま参加したのが、「2005年の教室を考える会」という自主研修会である。
全国で実践を続ける人たちの姿に触れ、この島でも、自分が動かなければ何も始まらないのだと感じた。
島に戻ったあと、その感覚は、考えではなく行動へと変わっていく。

◆本シリーズの背景(初めて読まれる方へ)

今から20年以上前の2002年。
離島の小学校に、一人の教師が赴任した。
島の日常生活では、インターネットを使うことができなかった。
家庭でも職場でも、情報はすぐに調べられるものではなかった。
島の外の出来事を知るには、時間と手間がかかった。
必要な情報は、あとから届くものだった。

学校もまた、その制約の中にあった。
インターネットを常時自由に使える環境はなかった。
調べ学習で問いが生まれても、その場で確かめることは難しかった。
学びを外とつなぐ手立ては、限られていた。
そうした状況の中で、教師は子どもたちの総合的な学習の時間を通して、学びを島の外へ、そして島の人たちへ届けようとした。
限られた条件の中で、インターネットやICTを手段として用いた。
同時に、学びを支えるために、島の通信環境そのものをどう整えるかにも向き合っていった。

これは、その過程で積み重ねられた、小さな試行錯誤の記録である。

本シリーズのマガジン「離島のデジタルデバイド挑戦」

※なお,地名・商品名等は一部仮名としている。


1 研修で確かになった、自分の立ち位置

「2005年の教室を考える会」から戻った直後、自分の中に残っていたのは、静かな高揚感だった。
日本各地で実践に取り組んでいる人たちの話を聞き、自分も、この島でやるべきことを一つずつ進めていかなければならない。
そんな思いが、以前よりもはっきりとしていた。

特に印象に残っているのは、今抱えている課題や、これからやろうとしている構想を、実際に人に聞いてもらえたことだった。
言葉にして伝えることで、自分自身の中でも覚悟のようなものが固まっていった気がする。

「始めなければ、何も動かない。」

研修の中で何度も耳にしたその言葉が、島に戻ったあとも、頭の中で繰り返されていた。

前回の研修参加はこちら(研修で出会う探究の風景06)👇


2 島の中で「見られる」仕組みをつくる

インターネットで外へ発信することは、当時の島の環境では簡単ではなかった。
だからこそ、まずは島の中で見られる仕組みをつくる。
その方向で計画を具体化することにした。

考えたのは、無線LANの活用だった。
設置予定の場所との直線距離は300メートルに満たない。
外部アンテナを使えば、十分に届くはずだ。

当時の学校から臨む漁協の施設(直線300m)
業者に送った説明写真をイラスト化したもの

以前から活用しているメーリングリストで教えてもらった方に連絡を取ると、とても丁寧な返信が返ってきた。
専門的な話も多かったが、「この方向で進めばよさそうだ」という手応えはつかめた。

一人で考えていたときには見えなかった道筋が、少しずつ形を持ち始めていた。


3 中学校とつながるという判断

計画を進める中で、これは小学校だけの話ではない、という思いも強くなっていた。
島の人たちへの情報発信なのだから、小学校単独で動くよりも、中学校にも声をかけておいた方がよい。
そう考え、隣の中学校を訪ねた。

管理職は不在だったが、担当の教員や教務主任は話をよく聞いてくれた。
趣旨を説明すると、「それはいい方法だと思う」と前向きに受け止めてもらえた。

もし予算面で協力が得られれば、実現に近づくかもしれない。
そんな可能性も、少しずつ見えてきた。

この頃、来年度に向けた構想についても、頭の中で整理し始めていた。
具体的に何をしたのか、今となっては細部を思い出せない部分もある。
それでも、何かしらの布石を打ったという感覚だけは、確かに残っている。


4 できないことを知り、次へ進む

そんな折、隣の中学校が学校ホームページを公開した、という話を聞いた。
FTPは使えないため、トップページだけを拠点局に置くという、当時としては工夫された形での公開だった。
まだブログも一般的ではなく、ローカルでページを作り、それをアップロードする時代である。

小学校でも同じような形で公開できないかと考え、中学校の担当教員を通じて尋ねてもらった。
しかし、研究指定を受けていないため難しい、という返事だった。

残念ではあったが、無理なものは仕方がない。
気持ちを切り替え、島内への発信計画を着実に進めることにした。

実際に設置予定の場所を確認し、デジカメで記録を残す。
それをもとに業者に相談し、必要なパーツをそろえていく。
少しずつだが、確実に前へ進んでいる実感はあった。


5 港で動き出した計画

ある日、牛乳パックのリサイクルで本土へ送る紙パックを持ち、港へ向かった。
せっかくなので、以前話をしていた漁協にも立ち寄ってみることにした。

相談していたのは、使われていない古いパソコンを譲ってもらえないか、という件だ。
見せてもらったのは、Windows95が入ったIBMのマシンだった。
決して新しいものではないが、目的ははっきりしている。

そのパソコンは、連絡船の待合室に置くつもりだった。

さらに、アンテナの設置場所やケーブルの引き込みについても相談してみた。
当初予定していた建物の屋根ではなく、隣の電柱に設置してもよい、という話になった。

ケーブルについても、「窓のサッシから出して、ガムテープで止めとけばいいよ」という、島らしい一言が返ってきた。
その瞬間、また一つ、前に進んだと感じた。

漁協待合室の窓(ここからケーブルを引き込んだ)
業者に相談したときに送付した画像をイラスト化したもの

6 点が線になり始めた感覚

昼休みに必要な箇所をデジカメで撮影し、放課後、その内容を整理してメールに添付した。
設置業者に写真と質問事項を送り、パーツの相談をする。

ほどなく、丁寧で素早い返信が届いた。
計画は、現実的な段階に入りつつあった。

まだ発注には至っていない。
詰めるべきことも残っている。
それでも、点だったアイデアが線になり、線が形になり始めている感覚があった。

計画が進んでいくと、自然とわくわくしてくる。

「始めなければ、何も動かない。」

あの言葉は、もう標語ではなく、島での日常の中に、確かに根付いてきていた。

次回(離島のデジタルデバイド編13)へ続く👇

これまでの取組がわかる島のデジタルデバイド編マガジンはこちら👇👇

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