折り返しの頃。伊勢エビ800円の夜【島小②#29】/離島の小学校編Season2 29
2003年10月も終わろうとしていました。
島の学校に赴任して1年半。
ちょうど勤務の折り返しを迎えた頃の、日常の一コマです。
前回の話👇
◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)
約25年前の2002年、船が生活のすべてを左右する離島の小学校に赴任しました。 予定通りにいかないことが当たり前の中で、学校と暮らしが地続きの毎日を過ごしていました。
そんな環境の中でも、子どもたちに自信をもたせたいと考え、総合的な学習の時間に取り組んでいました。
このシリーズでは、当時の日記をもとに、島での仕事の大変さと、その中にあるささやかな温かさを綴っていきます。
2年目2003年の、Season2(2年目)2学期のお話です。
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。
1.宿舎に集う夜──急な壮行会
ある日、宿舎で急遽飲み会が開かれることになりました。
お隣の中学校の先生の一人が、バスケの国体に選手として出場されることになり、その壮行会を兼ねての集まりです。
突然決まった会でしたが、それぞれがつまみを持ち寄ることになり、テーブルの上には思いのほか多彩な料理が並びました。
食べるものに困るどころか、あれもこれもと手が伸びる、にぎやかなひとときになりました。
宿舎での飲み会のよさは、何といってもその気軽さです。
酔っても外に出る必要はなく、そのまま自分の部屋に戻ってすぐに休める安心感があります。
この日はそれほど深酒をしたわけではありませんでしたが、普段ゆっくり話せないことまで語り合うことができ、心地よい時間が流れていきました。
2.海から届いた“新しい生き物”──エビ騒動
学校に一本の電話が入りました。
組合長さんからで、「珍しいエビが網にかかったので持っていく」とのことでした。
しばらくして届けられたエビは、見た目は伊勢エビによく似ているのに、色が赤くありません。
それに加えて、小さな伊勢エビも2匹ついてきました。
思いがけない“新入り”に、つい興味が先に立ちます。
水槽に入れて様子を見てみようかと考えていると、組合長さんがぽつりと教えてくれました。
このエビは雑食性で、何でも食べるのだそうです。
その一言で、頭の中に別の光景が浮かびました。
水槽の中に入れてあったアワビの稚貝のことです。
このままでは、エサになってしまうかもしれない。
そう思い、急いでエビを別の水槽に分けることにしました。
珍しいエビに心が躍ったのも束の間、「何でも食べる」という言葉で一気に現実に引き戻されます。
海から届いた贈り物は、楽しさと一緒に、少しばかりの緊張感も運んできていました。
3.旅館の夜──800円のごちそう
しばらく足が遠のいていた島の旅館へ、久しぶりに小学校の先生たちみんなで出かけることになりました。
校長先生が普段から利用されていることもあり、あらかじめ話を通してくださっていたようで、その日の食事はいつも以上に豪華なものでした。
サワラの刺身、ブリの照り焼き、ヒジキとグレの煮付け、きんぴらゴボウ。
それだけでも十分すぎる内容なのに、さらに一人一匹の伊勢エビが付いていました。

驚いたのは、その新鮮さでした。
胴体が切り離されているのに、頭だけがまだ動いているのです。
身は刺身でも食べられましたが、湯にさっと通してしゃぶしゃぶにすると、身離れがよく、より食べやすくなります。
さらに、頭はダシとして使われ、土鍋に野菜とともに入れられて伊勢エビ鍋へと姿を変えていきました。
最後は、その旨みが凝縮された鍋にご飯を入れて雑炊に。
テレビでは日本シリーズが流れ、笑い声とともに夜がゆっくりと更けていきます。
これだけの料理で、なんと800円。
思わず顔を見合わせてしまうほどの値段でした。
伊勢エビが一人一匹ついて、この金額です。
最後まで信じられない気持ちのまま、旅館を後にしました。
4.新しい船が運ぶもの──未来への期待
さらに別の日の朝、組合から連絡が入りました。
2003年11月から就航する新しい連絡船を見せてもらえるというのです。
せっかくの機会なので、子どもたちと一緒に港へ向かいました。
すでに地域の人たちも次々と集まってきており、新しい船への期待の大きさが伝わってきます。
船体はこれまでのものより縦に長く、大きく、そして何より美しく感じられました。
ボディには島のピンクの花が描かれ、どこか誇らしげな雰囲気さえ漂っています。

内部に入ると、整然と並んだ座席が目に入ります。
一人ずつ区切られた席で、3人掛け+3人掛けが3列、さらに補助席も備えられていました。
車いす用のスペースも2か所確保されており、これまでとは比べものにならないほど使いやすくなっています。
以前の船は定員こそあっても、実際には7人ほどしか座れないような状況でした。
それに比べると、この船は明らかに“次の時代”の乗り物でした。
さらに驚いたのはトイレです。
広く、洋式で、車いすでも入れる設計になっていました。
機関室も見学させてもらうと、モニタカメラやレーダー、GPSといった最新の機器が並び、船の安全を支えていることがよく分かります。
11月7日から就航予定とのこと。
島の暮らしを少しずつ変えていくであろうこの船に、子どもたちと同じように、私も胸を弾ませていました。
次回に続く・・・
離島の小学校編Season2(2年目2003年度)はこちら👇👇
離島の小学校編Season1(赴任1年目2002年度)はこちら👇👇👇
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