離島の小学校編 03 亀の手、たまるかー!
島での暮らしは、驚きの連続でした。 最初の歓迎会で出されたのは、まさかの「亀の手」。
思わず心の中で叫んだのは――「たまるかー!」。 ここから、カルチャーショックに満ちた日々が始まります。
離島で勤務することとなった一人の教師の奮闘記です。 今から約20年以上前、2002年(平成14年)3月から始まった物語をお届けします。
※本文中の一部地名や固有名詞等は仮名にしています。
1. 先生、歓送迎会で話題になるの巻
こうして初めて島の宿舎で一夜を過ごした後、朝7時の船で本土に戻りました。
その夜には前任校のPTA歓送迎会が控えていました。
9年間勤めた学校だけに、思い出は尽きません。
前夜は布団の中で、どんな言葉で感謝を伝えようかと考えていました。
やはり、PTAの皆さんと共に汗を流したソフトボール大会のことを話すのが一番ふさわしいと思い、そこに感謝の気持ちを込めることにしました。
特に普段なかなか話のできないお父さん方との交流がとてもうれしかったと伝えました。
おかげで、無事にあいさつを終えることができました。
会には、新しく赴任する先生方も参加されていました。
ほとんどが顔見知りか、かつて一緒に勤務した先生方です。
その中には、私が前任校に着任したときに同僚だった先生もいて、その先生を含め四人もの方があいさつの中で「熱中先生が…」「熱中先生の…」と私のことを話題にしてくださいました。
九年間という年月の重みを改めて実感しました。
2. 前日からの渡島、教務主任デビュー
いよいよ新しい勤務地、離島の学校での生活が始まりました。
日曜日の夕方17時の船に乗り、前日から島に渡りました。
初めて教務主任を任されることになり、緊張感が高まります。
この夜の夕食は、妻が持たせてくれた弁当でした。
翌日、体育館での着任式を終えると、続いて始業式。
進行役は私でした。
なんとか式を終え、教室では自己紹介や教科書の配布を行いました。
午後は翌日の入学式の準備。
新しい環境と慌ただしさに、初日からぐったりと疲れてしまいました。
しかも翌日の入学式も、私が進行を務めることになっていたのです。
3. 新入生1人と“海の珍味”との遭遇
翌日の入学式は無事に終わりました。
新入生は1人。
これは初めての経験でしたが、全校児童は9人。
もう少し多い小規模校での勤務経験もあったため、その点はそれほど驚きではありませんでした。
その夜は、PTA主催の歓迎会が開かれました。
保育所・小学校・中学校に新しく赴任した私たちにとって、地域の方々とゆっくり語り合う初めての場でした。
会も盛り上がったころ、地域の方が「珍しいものを持ってきた」と皿を差し出しました。
耳にした言葉は「亀の足」。
その瞬間、思わず心の中で「たまるかー!」と叫びました。
(いや正確には,叫んでいません。当時は朝ドラ「あんぱん」も見てなかったですし。ちょと使ってみたかっったんです。)

本当に亀の足なのかと驚きましたが、よく見ると皿に盛られていたのは、磯の岩にびっしりと張り付いている“カメノテ”でした。
殻を割って中の身を口にすると、潮の香りが広がり、食感はゆでイカのよう。
思いがけない美味しさに感動しました。 島に来てまた味わったカルチャーショックは、この一口でした。
4. 船3便、信号ゼロ!カルチャーショックの嵐
島の暮らしで一番驚いたのは、船が1日3便しかないことでした。
特に冬は午後2時が最終で、乗り遅れれば一晩島に足止めです。
道路は狭く、車はほとんど走っておらず、信号もないので当然交通事故もありません。
病院はなく、診療所に医師が来るのは週1回だったと記憶しています。
生活を支える漁協の購買部も夕方5時を過ぎると閉まってしまいました。
連絡船の到着時間に合わせての閉店でした。
街中では当たり前のことが、ここでは当たり前ではない・・・そんな環境での暮らしが始まったのです。
2002年度からは学校完全週5日制が始まり、金曜日が勤務の最終日となりました。
しかし島を出る船の関係で、自宅に戻れるのは土曜の朝7時発の便。
逆に月曜の勤務は、日曜夕方17時の便で前日から島に渡らなければなりません。
つまり自宅で過ごせるのは、土曜の朝9時から日曜15時ごろまで。
わずか1日半ほどの時間です。 そのわずかな間に1週間分の食料を準備しました。
それでもこの4月の第1週は緊張と忙しさで過ぎ去り、金曜日には市町村教育委員会で転入教員の紹介式がありました。
教育委員会は本土にあるため、昼の船で渡り、そのまま自宅へ帰ることができました。
まだ島での生活に慣れない中、金曜から家に帰れたのは少し安心感をもたらしました。
振り返れば、船便の少なさ、信号のない道、閉店の早いたった1件の売店、そしてカメノテのこと。
一つひとつがカルチャーショックでした。 だからこそ帰宅すると、家族や友人に「聞いてくれ、島ではな…」と語らずにはいられなかったのです。
驚きに満ちた日々が、こうして幕を開けました。
▶ [離島の小学校編 04へ続く]
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