【島小#06】海が教えてくれた、夏のはじまり/離島の小学校編06
七月、島の空気が少しずつ夏の色を帯びはじめました。 本土では蝉の声が季節の到来を告げますが、この島では潮風のにおいがそれに先立って夏の気配を知らせてくれます。 赴任して初めて迎えるこの季節は、これまでの学校生活とはまったく違う時間の流れを感じさせてくれました。
離島の小学校とは・・・👇
離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。 今から約20年以上前の2002年(平成14年)7月頃のお話です。
※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。
前回のお話👇
【目次挿入】
1.海から見ると、島はまるで別の顔だった
2002年7月初め、校内研修として漁船で島を一周する「島めぐり」を行いました。 子どもたちと総合的な学習の時間で島を歩いたことはありましたが、海から眺めるのは初めてです。
人家のある集落なら歩いて20分もあれば一周できますが、山を越えて反対側まで歩くと1時間以上かかります。 船だと30分足らず。港を離れると、見慣れた島がまったく違う表情を見せました。
南側は切り立った崖が続き、上から見た景色とは違って迫力があります。 風の強い日には潮が吹き上がると聞き、自然の力を改めて感じました。 波に削られた洞窟のような地形も多く、昔は海賊船が隠れていたのではと想像が膨らみます。

途中で船を止めてもらい、釣りも体験しました。 アジが何匹か釣れましたが、止まった船の揺れにやられて船酔い状態。岸に戻るまでがやけに長く感じられました。
島を“外から”眺めるこの体験は、新しい視点を与えてくれました。内からだけでなく、外から見直すことの大切さを感じた研修でした。
2.汗と笑いのソフトボール、島の人とつながる日
学校の夏にはPTA行事があります。 この時期恒例の学校行事である市のPTAソフトボール大会にも、今年も出場することになりました。 前任校で大学院に通っていた年を除けば、教員になってから毎年かかわっています。
もともと野球経験などはありませんが、「若手体育主任は半ば義務的に出場するもの」と言われ、これまで続けてきました(もっとも、この頃はもう若手ではありませんが……)。
さて、島ではグラウンドが隣の橋でつながった島にあり、1年でこの時期しか使わないため、まずは草刈りから始めます。 学校の運動場は狭すぎて使えないのです。 午後4時の暑さの中、約1時間の作業できれいなグラウンドがよみがえりました。
私は今年、思い切ってピッチャーに挑戦しました。 腕を大きく回す本格的な投げ方で1球目はストライクでしたが、その後はコントロールが乱れ、普通の投げ方に切り替えることに。 練習相手は島の小中学生の合同チームです。子どもたち相手とはいえ、大人たちも真剣です。
慣れない投球で腕を痛めてしまいましたが、迎えた大会当日は天気にも恵まれました。 本土側の市内の小中学校が試合会場で、保護者の方々は漁船で渡ってくるため、私たち教員が港まで迎えに行き、全員でグラウンドへ向かいます(もちろん、本土側に車を置いている保護者もいます)。
私はサードで出場しましたが、結果は悔しいノーヒット。 それでも守備では無難に役目を果たすことができました。 試合後は島に戻り、みんなでバーベキューの打ち上げ。笑い声と波の音が混ざる夕暮れは、島の人との距離が一気に縮まる時間でした。
3.びしょぬれの笑顔が縮めた、子どもとの心の距離
七月中旬には、全校児童でYMCAキャンプへ出かけました。 台風の影響が心配されましたが、通過後に天候は回復し、予定どおり実施できました。
行きも帰りも保護者の漁船に乗せていただき、海から施設へ向かいます。 直接海から施設に乗り込むというのは、島の学校ならではの体験だと思います。 出発の日はまだ台風の余波が残っていて、激しいしぶきが顔や体を濡らしました。 港に着くころには、上半身がすっかりびしょぬれになっていました。
初日は海洋プログラムとキャンプファイヤーです。 私は以前シーカヤックを経験したことがありましたが、子どもたちの多くは初挑戦でした。 1年生の女の子はパドルを握るのもやっとで、波に揺られながら必死に前へ進んでいました。 声をかけ合い助け合う姿が頼もしく感じられます。 夜は歌や踊りで盛り上がり、島ではなかなか味わえない非日常の時間を楽しみました。

2日目はウィンドサーフィンに挑戦です。 セールを引き上げるのは大変で、ようやく立ててもバランスを崩して海にドボン。 頭まで沈み、口に塩水が入りましたが、自然と真剣に向き合うこの体験は教室の学びとは違う価値があります。 疲れ果てましたが、子どもたちとの距離がぐっと近づいた二日間でした。
4.嵐の夜に残ったのは、静けさと仕事だけ
七月下旬、台風が近づいた夜のことです。 午後8時ごろ暴風警報が出され、私は教頭先生とともに学校で宿直をしました。
風は思ったほど強くありませんでしたが、「ゴーッ」という音が時折響きます。 窓が揺れ、波が砕ける音と重なって、島が風に身をゆだねているように感じられました。
私はその夜、通知表の仕上げに集中しました。仕事は驚くほどはかどり、深夜を回ったころ、警報が解除されて宿舎へ戻りました。 直撃こそ免れましたが、台風のたびに海も空も表情を変えます。 ここが「自然とともに生きる場所」であることを、改めて実感した夜でした。
5.夏の始まりを越えて、次の時間へ
こうして七月が過ぎていきました。 島を海から眺めた日、地域の人と汗を流した日、子どもたちと海に挑んだ日、台風の夜を過ごした日──その一つひとつが、これまでの教員生活では味わえなかった「島の時間」でした。
夏はまだ始まったばかりです。 この先には、夏休みの日直勤務や本土での研修、親子で釣りを楽しむ登校日など、島ならではの出来事が待っています。 “島の学校の夏”は、ここからが本番です。
▶離島の小学校編7へ続く
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