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風を読み「今日しかない」と決めた日【島ICT#16】/離島のデジタルデバイド編

時系列で前回にあたる小学校編32では、船の動きを見ながら、その都度できることを選んで動いていた。
その延長線上にあったのが、この日である。
風を読み、「今日しかない」と決めた。

【直接つながる前回👉風に振り回される、予定と計画【島小#32】/離島の小学校編 32

本シリーズの背景(初めて読まれる方へ)

今から20年以上前の2002年4月。
連絡船が頼りの離島の小学校に、一人の教師が赴任した。
島では、家庭でも学校でも、インターネットは日常的に使えるものではなかった。

そうした制約の中で、教師は総合的な学習の時間を通して、学びを島の外へ、そして島の人たちへ届けようとした。
ICTは目的ではなく、手段だった。
やがて、学びを支えるために、島の通信環境そのものをどう整えるかという問いに向き合うことになる。

プロジェクトI(アイ)と名付けたこの取組で目指したのは、学校だけでなく、地域全体が情報へアクセスできる環境をつくることだった。
それでも、たとえ究極のゴールに届かなくても、そこへ向かうための「足がかり」だけでも残せたらいい。

これは、その過程で積み重ねられた、小さな試行錯誤の記録である。
その1年目の終わり,島にイントラネットを引こうとしている場面である。

前回の話👉受賞の裏で線をつなぐ夜【島ICT#15】/離島のデジタルデバイド編


1 動けない時間で、整えていたこと

3月に入り、風の影響で船の欠航が続き、島と本土を行き来する判断が難しい日が多くなっていた。
そんな中でも、校内では次に向けた準備が静かに進んでいた。
職員室のハード整備である。

コンクールの副賞として届いたエプソンのカラープリンタに加え、職員室のファイルサーバー兼プリントサーバー用のPCも新しくすることになった。
受賞をきっかけに町から祝いの費用をいただき、その一部を充てて更新できることになったのである。
(※ この経緯については、前回の島の学校編32でも触れている。)

それまで職員室で使っていたサーバー用のPCは、写真や文書を少しずつ積み重ねていくうちに、「もうこれ以上は置けない」状態に近づいていた。
保存できる容量にも限界があり、新しいデータを入れるたびに、何を消すかを考えなければならないような状況だった。
プリンタも、使うたびに調子を見ながら手入れが必要で、仕事の流れを止めてしまうことが少なくなかった。

PC選定は私に任され、用途を絞って組み立て専門店で見積もりを取り、新しく用意するPCは、処理速度よりも、とにかく「たくさん置けること」を重視した。
これまでのように容量を気にしながら使うのではなく、しばらく先まで安心して使えること。
それがいちばんの条件だった。

この更新は、目に見える成果のためというより、次に控えている取り組みを支えるための土台づくりだった。


2 つながらない1台

風の強い日が続き、船は出たり出なかったりを繰り返していた。
前日に動かなかった分、港には荷物がまとめて運ばれ、島の時間が一気に進むような朝もあった。

前日に職員室のサーバーを入れ替え、プリンタの接続まで済ませていたのだが、ひとつだけ足りないものがあった。
プリンタケーブルである。
仕方なく、宿舎に持っていたUSBケーブルを持ち出して、その場をしのいだ。

設定を見直し、以前の環境を思い出しながら試行錯誤したが、どうしてもサーバーが見えない。
ふと思いついてPINGを打つと応答がなく、ケーブルやカードを疑い、最終的にネットワークカードのドライバを入れ直してようやく認識した。

時間はかかったが、原因が分かれば解決は早い。
この作業で、ようやく次に進める準備が整った。


3 プールの水面を見る

3月12日、風はようやく少し落ち着いた。
もっとも、初めて島に来た人なら「これで落ち着いたのか」と驚く程度の風ではある。
島で暮らしていると、風と欠航の関係が少しずつ体感的に分かってくる。

一般的には、学校のプールの水面が波立つことはほとんどない。
ところがこの島では、風の強さによって、その校舎から見えるプールの水面が日常的に動く。

そのため、プールの水面は、風の具合を読む一つの目安となることを発見した。
水面がずっと継続して波立っているようなときは、連絡船も欠航になりやすい。

ときどき波が立つ程度であれば、まだましな方だ。
この日は、確かに波立つ瞬間はあったが、それが続く感じではなかった。
連絡船も3便とも運航された。

ひどいときには、プールの端まで寄せた水が、しぶきとなって空中に飛ぶことがある(笑)。
初めて目にしたときは、本当に驚いた。


4 「今日しかない」と決める

この日、ついにプロジェクトIを1歩進めることにした。
翌日は中学校の卒業式前日、来週には小学校の卒業式が控えており、時間はこの日しかなかった。

見切り発車ではあったが、学校に置いてあったPCにコンテストのホームページを入れ、ローカルで見られる状態にして、まず町の人たちに作品を見てもらうことにした。
アンテナ設置だけで終わる可能性が高く、接続まで行けないことは想定済みだった。

校長先生にも同行してもらい、待合室内にPCを設置した。
ちょうど近くにいた老人会の会長さんや漁協の売店の方を校長先生が呼んでくださり、その場で作品を説明して見てもらうことができた。

翌日には、子どもたちが老人会の方々にPC操作を教えながら作品を紹介する時間を予定していた。
そのためにも、PC設置が最優先だった。


5 仮止めでも、一歩

16時頃、中学校の技術家庭科の先生が到着し、校長先生と私を含めた3人でアンテナ設置作業に入った。
コードを長いものに替え、防水ケースに収めるなど地上での準備に手間取り、時間は思った以上に過ぎていった。

2段ばしごを伸ばし、コンクリート柱に立てかけ、中学校の先生が上ってアンテナケースを取り付けたが、小さな不具合で仮止めまでしかできなかった。
周囲は暗くなり、予想どおりケーブル固定や引き込み作業までは手が回らなかった。
とにかく、寒くて寒くて大変な作業だった。

私ははしごを支えるくらいしかできなかったが、とにかくアンテナは取り付けはできた。
まだ本固定も配線も残っているが、確実に一歩前へ進んだ。

当時の様子をまとめたプレゼンの1ページ

6 その日の夜に聞いた話

18時30分からは、すぐそばの旅館で小中学校合同の食事会があり、高校入試を終えた中学校の先生方の慰労も兼ねた集まりだった。
久しぶりの旅館での食事は、魚料理が並び、体にしみるおいしさだった。

その後、荷物を学校に置いたままだった私は再び戻り、締め切りの仕事を済ませた。
プロジェクトIは、ここまで来たら早く接続してみたいという気持ちが募るばかりだった。

そんな中、気になる話も耳に入った。
中学校で使われている衛星通信システムは、来年度いっぱい、2004年(平成16年)春で回線が切られるという。
施設は残るが、使用料は莫大で、億を超えるとも聞いた。

せっかく子どもたちが学習に使い始めている環境が、再び失われる可能性がある。
だからこそ、町の人たちがコンクール入賞をきっかけに関心を持ち始めている今が重要だ。

来年度残された1年、さらに具体的対策を練って、本気で取り組まなければならないと、改めて思った。

次回に続く・・・


これまでの「プロジェクトI」マガジン👇👇


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