見出し画像

一粒の塩から広がる世界【島総③#05】/総合実践の記録vol4 塩物語編/離島の総合的な学習③ 

昔、この島でも塩は作られていました。
お年寄りから受け取った話を手がかりに、今度は3人で「塩って何だろう」を考えます。
2004年秋の頃でした。


1.ところで、塩って何だろう

老人会や町のみなさんから昔の塩づくりの話を聞き、子どもたちもわくわくしていました。

ところが、いざ始めようとすると、立ち止まってしまいます。
そもそも、私たちは塩のことをどれくらい知っているのでしょう。

海水を煮詰めれば塩ができる。それくらいは分かります。
でも、なぜ海水から塩ができるのか。
昔の人はどうやって作っていたのか。
世界中の塩も、みんな海から作られているのか。

考えてみれば、知らないことばかりでした。

「まず、塩のことを調べてみようか。」

子どもたちはインターネットを使って調べ始めました。
ちょうど私も東京へ行く機会があり、「たばこと塩の博物館」へ足を運びました。
せっかくですから、展示を見ながら写真も撮ってきました。

島へ戻り、その写真を子どもたちに見せながら調べていくと、毎日のように目にしている塩の向こうに、思っていた以上に広い世界があることが分かってきました。

2.海がなくても塩がとれる?

まず調べたのは、世界の塩です。
そこで驚いたのが、「塩は海水を煮詰めて作るもの」とは限らないことでした。

たとえば岩塩。

数億年から数千年前の海水が陸地に閉じ込められ、長い年月をかけて塩の層となったものです。
イギリスやポーランドなどでは、それを地中から掘り出しています。

「昔の海が、地面の中に残っとるんやなあ。」

そんなふうに考えると、岩塩という名前も少し身近に感じられます。

さらに調べると、湖からとれる「湖塩」もありました。
岩塩になっていく途中ともいえる塩分の濃い湖からとれるもので、ボリビアのウユニ塩湖などが知られています。

そしてもう1つが「天日塩」です。

雨が少なく乾燥した地域では、広い塩田に海水を引き込み、太陽と風の力で水分を蒸発させます。
メキシコのゲレロネグロには、とてつもなく広い天日塩田がありました。

世界では、その土地の気候や地形に合わせて、さまざまな方法で塩が作られていました。
調べた資料によれば、海水から直接作られる塩は、世界全体の約4分の1だそうです。

島に暮らす私たちにとって、「塩は海から」という感覚はごく自然なものでした。

ところが世界へ目を向ければ、山を掘って塩をとる人もいる。
湖からとる人もいる。広大な土地に海水を広げ、太陽と風に任せる人もいる。

塩ひとつとっても、ずいぶん違うものです。

3.では、日本の塩は?

「じゃあ、日本にも岩塩があるんかな。」

世界の塩を知れば、今度は日本のことが気になってきます。

ところが、日本には岩塩や塩湖がほとんどありません。
周りを海に囲まれているので海水には困りませんが、今度は別の問題があります。

雨です。

高温多湿で雨の多い日本では、メキシコのように海水を広げて「あとは太陽にお任せ」というわけにはいきません。

そこで昔から工夫されてきたのが、海水からまず濃い塩水を作り、それを煮詰める方法でした。

海水から濃い塩水、つまり「かん水」を作る作業を「採鹹(さいかん)」といいます。
そして、そのかん水を煮詰めて塩の結晶を取り出す作業が「煎熬(せんごう)」です。

言葉は少し難しいのですが、やっていることを知ると分かりやすくなります。

少し前までは、塩田の砂に海水をかけ、水分を蒸発させながら濃い塩水を作っていました。
その後、電気エネルギーを使って海水中の塩分を集める「イオン交換膜方式」が使われるようになります。

ここまで調べたところで、私は老人会で聞いた話を思い出しました。

終戦後まもなく、島でも海水を運び、薄い鉄板を折り曲げたような入れ物で煮詰めて塩を作っていたという話です。

博物館やインターネットで調べている日本の塩づくりと、お年寄りから聞いた島の昔話が、少しずつつながってきました。

4.塩って、食べるだけじゃないの?

さらに調べていくと、意外な数字が出てきました。

当時の資料によると、日本で使われている塩のうち、調味料や食品加工など、食べ物に使われているものは約15%だというのです。

「じゃあ、残りは何に使うん?」

そう思って調べてみると、多くは工業用でした。

ゴムや石けん、紙など、私たちの身の回りにあるさまざまなものを作るためにも塩が使われています。
食卓に置いてある塩しか思い浮かべていなかったので、これはちょっと意外でした。

日本で作られた塩は、その多くが食用になります。
一方、工業用として使われる塩には、メキシコやオーストラリアなどから輸入された天日塩が多く使われていることも分かりました。

そして調べているうちに、もう1つ気になることが出てきました。

「もし自分たちで塩を作ったら、それって売ってもいいのかな。」

まだ一粒もできていないのに、ずいぶん先の心配です。

ところが調べてみると、これにも長い歴史がありました。

日本では1905年から1997年まで「塩専売制度」があり、誰でも自由に塩を作ったり売ったりできたわけではありません。
それが1997年4月に廃止され、塩の製造や販売をめぐる仕組みが変わりました。

ただし、塩の製造や販売を仕事として続けていく場合には、当時の制度に基づき財務事務所への届け出などが必要とのことでした。

「塩を作る」だけでも知らないことだらけなのに、その先には「売る」という世界まであります。

さて、自分たちはどこまで行けるのでしょう。

5.島の海水には何が入っている?

そして最後に調べたのは、これから自分たちが使おうとしている海水そのものです。
毎日見ている海ですが、海水の中身を考えたことなどほとんどありませんでした。

調べた資料によると、海水には約3.4%の塩分が含まれています。
でも、その「塩分」は、私たちが普段「塩」と呼んでいる塩化ナトリウムだけではありません。
マグネシウムやカリウムなど、いろいろな成分が含まれています。

そこで、塩分の中にどんな成分がどれくらい含まれているのか、グラフにしてみました。

一番多かったのは塩化ナトリウムで77.9%。その次が塩化マグネシウム9.6%、硫酸マグネシウム6.1%と続きます。

塩化マグネシウムなどを含む「にがり」は、豆腐を固めるときにも使われています。
当時調べた資料では、海水由来のマグネシウムやカリウムなどの成分が残ることによって、塩の味にも違いが出ると紹介されていました。

「同じ海水から作っても、作り方で味が変わるんかな。」

そんなことまで気になってきます。

港の手すりに残っていた、ほんの少しの白い結晶。

あのときはただ「塩かもしれんなあ」と見ていただけでした。
それが調べ始めてみると、岩塩や塩湖、世界の塩田、日本の塩づくりの歴史、島のお年寄りの記憶、さらには売るための制度にまで話が広がっていきました。

さて、塩についての知識は少し増えました。でも、私たちが作りたいのは、資料の中にある塩ではありません。

目の前に広がっている、この島の海の水から作る塩です。

知らなかったことを知るのはおもしろい。
岩塩や天日塩、日本の塩づくりの歴史を調べるうちに、塩を見る目も少しずつ変わってきました。

でも、せっかく知ったのなら、今度は自分たちで確かめてみたい。
調べたことを手がかりに、実際に海水をくみ、自分たちの手で塩を作ってみたい。

3人の気持ちも、私の気持ちも、いつの間にか資料から海の方へ向かっていました。

「よし、やってみよう。」

いよいよ、塩づくりの始まりです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。 次回に続く👇

前回の話 👇

初めて来られた方へ👇👇

本シリーズは、離島の小学校で実践した総合的な学習の記録です。
本作は2004年度、赴任3年目の取組を扱います。
島の人たちのために,ウミブドウを栽培し,お祭りで食べてもらうつもりでした・・・。
この年は,台風の襲来が多く,実践にも大きな影響がありました。
ついに「塩物語」が始動します。
「お魚天国海辺のデジタル図鑑」から始まる離島の総合実践3部作の最終作です。


総合実践のvol2、お魚天国デジタル図鑑編(マガジン離島の総合的な学習の時間①)👇👇

総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇👇

いいなと思ったら応援しよう!

熱中探究教室 応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。

この記事が参加している募集