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木くずの伊勢エビに度肝を抜かれた昼休み。【島小#22】/離島の小学校編 22 

冬の島では、食卓に並ぶものがそのまま思い出の扉になります。
 伊勢エビの重みも、LL牛乳の紙パックの手触りも、海の珍味の歯ごたえも── 
どれも冬の風景と結びつき、心の奥の島の時間をそっと呼び戻してくれるのでした。

前回の話👇

離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。今から約20年以上前の2002年(平成14年)12月頃のお話です。

※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。

こんな島です。👇👇



1 ザリガニとは違うその姿──伊勢エビの午後。

島に戻ってから、実家の母に頼まれていた伊勢エビのことを思い出しました。
そういえば,伊勢海老と言えば,結婚式の料理で半面焼いたものだよなあと思いつつ,まずはネットで相場を調べてみると、「産地直送」と書かれたサイトにはキロ7000円以上の数字が並んでいます。(当時)
しかも年末に近づくほど値段が上がっていくらしく、なかなかの“時価の世界”です。

そこで漁協に電話をすると、「見て選んだほうがいいですよ」という返事。
 翌日の昼休み、港へ向かうことになりました。

提示された値段はキロ6000円。 
1か月前に買った人は「5000円を少し割っていた」と言っていたので、確かに相場は上がってきているようです。 
とはいえ、“キロあたり”と言われてもいまひとつ実感がなく、結局は“何匹になるのか”で判断してしまいます。

この日は1.5キロで5匹。

 特別大きいわけではありませんが、見るからに“ザリガニとは違う”伊勢エビです。(笑)

そして何より驚いたのは、持ち帰り方でした。 
海水を入れた容器に入れるのだと思っていたのに、実際には発泡スチロールの箱に紙製の木くずを敷き、そのまま入れる方式。

 水のない状態でも2日ほど生きていると聞き、思わず感心してしまいました。

イメージ(こんなに木くずは入ってなかったけどね)

最後にガムテープでしっかりふたをしてもらい、ケースを抱えて学校に戻りました。
昼の鐘と海風の音が、なんだか特別に聞こえた時間でした。

2 “LLなのに普通サイズ”の牛乳が登場する朝。

翌朝、9時前の町内放送が連絡船の欠航を知らせました。
船が止まると、新聞も、食材も、給食の牛乳も届きません。

こういうときに登場するのが、学校に常備されている「LL牛乳」。
そして、このLLという名前が少しユニーク。
LLといっても、大きいわけではありません。
 見た目はふつうの牛乳パックと変わらないのに、“LL”と聞くと、なぜか“大容量でお得”のような印象がしてしまいます。
そう思っていたのは,私だけではなかったでしょう。
 でも実際は“Long Life”、長期保存ができるという意味。
 島の学校では、欠航の日の頼れる味方です。

この日は久しぶりにそのLL牛乳が給食に登場しました。
 欠航の緊張を少しだけ和らげてくれる、小さな安心のような存在でした。
昼すぎに最終便だけ運航されたと聞き、島全体がふっと一息ついたような静かな午後でした。

3 船長さんの差し入れで始まる、伊勢エビ鍋の夜。

その夜は、小中保育所の先生方と、連絡船の船員さんを囲む鍋の日でした。 
都合がついたのは船長さんお一人でしたが、持ってきてくださった食材が、まさに“島ならでは”のものでした。

袋から出てきたのは、伊勢エビやカワハギ。
 海の香りをまとった具材が鍋の中で煮えていくと、湯気の向こうがほんのり赤く見えます。
 都会ではなかなか味わえない、冬の海の恵みそのものの鍋でした。

普段は一人で静かに夕食をとることも多い中、 こうして湯気の立つ鍋を囲む時間には、言葉にしにくいあたたかさがありました。 
鍋の中心には、海と人が自然に交わる島の暮らしがありました。

4 潮の話と珍味が並ぶ、2学期のしめくくり。

2学期が終わる前日、島の旅館で反省会を兼ねた夕食会が開かれました。
参加するのは先生方に加え、用務員さんや給食調理員さんなど、日々学校を支えてくださる地元の方々です。
 普段の学校ではゆっくり話す時間がないので、こうした機会はとても貴重です。

料理には、その季節ならではの海の幸が並びました。 
トコブシの煮付け、サザエの刺身、ナマコ、ホラ貝の刺身など、どれも歯応えのある“島の味”。

そして何より盛り上がるのは、地元の方々の話です。
 魚のとれ具合、潮のこと、昔の島の暮らし、給食の裏側。
同じ名字の方が島にはたくさんいるので,○○さんと下の名前で呼びながら
話は盛り上がりました。
聞けば聞くほど、学校の外にある“島の時間”が立ち上がってくるようでした。

静かな笑い声と、海の香りのする料理。
 旅館の座敷に、2学期を無事に終えた安堵感とそのあたたかさが漂っていました。

冬の味が呼び戻すもの

海の珍味に触れるたび、島で過ごした日々の景色がふっとよみがえります。
 潮の匂い、食卓の手触り、冬の風の冷たさ──どれも特別ではないのに、心の奥に静かに灯りがともるようでした。

▶離島の小学校編23へ続く

離島の小学校編マガジン(※更新中)👇👇👇


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