子どもがいない春に、私たちは何を選んだか。 【総校①#04】/校長の挑戦―総合の力を信じて 第1章
前回、5年担任はYouTube配信に踏み出し、6年担任にはZoomによるオンライン教室の提案を行いました。
休校が続くなか、私はこの二つの動きに、「学びを止めないための新しい流れ」が生まれつつあるのを感じていました。
今回は、その一歩がどのように形になっていったのかを振り返ります。
前回の話👇
今から約5年前,2020年度コロナ禍での総合を核とした学校経営の実践です。
全3章のうちの第1章(2020年度)3月からのことです。
※注 今回も本文中の一部地名や商品名等は必要があれば,仮名(かめい)またはイニシャルにしています。
1.“やってみます”から動き出した物語
6年担任に対して事務長が呼びかけた、Zoomを使ったオンライン教室の提案。
しかし、6年担任はICTに関してはどちらかといえば得意な方ではありませんでした。
赴任して間もない上に、子どもたちと十分に関係を築く前に臨時休校になってしまい、「まずは対面で学級をつくりたい」という思いが強かったのです。
それでも、事務長の声がけに対し、担任は迷いながらもはっきりと答えました。
「サポートしてくださるなら、ぜひやってみたいです。」
その言葉を聞き、私は校長としてここが“攻めるべき場面”だと判断しました。
学級づくりの不安を抱える担任の背中を押すことは、子どもたちの安心につながります。
そして何より、休校が長期化する可能性がある以上、ICTを使った学びの第一歩を、 この教室から始めたいという思いがありました。
こうして、6年生はZoomによるオンライン教室を試行することになりました。
2.端末が届かない春、最初に見つめた現実
とはいえ、当時はまだ1人1台端末の整備は“姿形もない”段階で、実際の配布は年度末になる予定でした。
GIGAスクール端末は一台も届かず、学校には子ども用の機器がほとんどありませんでした。
そこで私たちは、アンケートや家庭訪問を通して、まず各家庭の通信環境を調べることから始めました。
Wi-Fi環境はあるか
スマホは保護者と共有か
子ども専用の端末はあるか
メール連絡をどの機器で受けているか
結果として、98%の家庭に安定したインターネット環境があることが分かりました。
背景には、町がケーブルテレビとIP電話を一体で導入していたことがありました。
事務長からの報告を受けた私は、思わず胸の奥で小さく笑みがこぼれました。
「これは、実現できるかもしれない。」
さらに本校では、赴任前年度から教職員用にタブレット端末を独自購入し、徐々に台数を増やしていました。
「機器が足りない家庭には貸与する」という校長としての判断も、この段階で下しました。
5年生のYouTube配信も同時に進行しており、 「どうしてもの場合は登校して、学校で再生する」という選択肢も設けることで、 ICTを“誰も取り残さない”形でスタートさせる体制が整いました。
3.四つの軸が、学校を動かし始めた
6年生オンライン教室の具体的な計画づくりは、6年担任、特別支援学級担任、事務長の三人が中心となって進めました。
私は“判断と方向づけ”、教頭は“全体調整”、事務長は“ICTの専門サポート”、担任は“子どもと向き合う教育の現場”という役割を自然に担い始めていました。

このとき、私ははっきりと感じていました。
「学校を動かす軸が見え始めている」と。
この四つの軸がのちに、学校全体で総合的な学習を推進するための“エンジン”になるのです。
4.全員で触れたZoomが変えた空気
4月末には、全職員でZoomの使い方を体験する校内研修を実施しました。
この“共通体験”が大きかったと今振り返っても思います。
ICTに不安のある教員も、実際に触れてみることで 「思ったよりできるかもしれない」と感じ始め、 職員室に前向きな空気が戻ってきたのです。
6年生は10名あまりで、1画面に収まるちょうど良い人数でした。
担任の操作に対する不安をふまえ、 授業ではなく、朝と夕方の“ミーティング”形式で実施する方針にしました。
目的はあくまで、
規則正しい生活リズム
毎日顔を合わせる安心感
学級としての一体感の維持
でした。
保護者向けの案内文書や「Zoom使い方マニュアル」は、教頭と事務長が協力して作成しました。
校長として私は、“方向を示し、実現に必要な環境を整える役割”に徹しました。
5.オンラインが取り戻した“つながり”
準備には時間がかかり、実際の開始は第1回の分散登校を終えてからになりました。
しかし、それが結果的には功を奏しました。
臨時登校の際に、子どもが実物の端末やアプリに触れることができたため、 翌日のオンライン教室はスムーズに始めることができたのです。
第1回目、事務長は職員室からホストとして支援し、 担任は教室から画面越しの子どもたちに集中しました。
「今日の目標」を発表し合う子どもたちの表情は、緊張しつつも明るく、 画面越しに聞こえる声から、 久しぶりに“クラスの息づかい”が戻ってきたことを強く感じました。

夕方の報告会では、達成したこと・できなかったことを互いに伝え合い、 一日の学びにメリハリが生まれていきました。
私や教頭、養護教諭も画面に顔を出し、 「学校はつながっている」というメッセージを送り続けました。
6.子ども・保護者・担任、それぞれの学び
その後、分散登校が始まってからも、 半数は学校から、半数は自宅から参加するという形をとり、 常に“全員が顔を合わせるコミュニケーション”が維持されました。
オンライン教室の最終日には、 ほとんどの児童が自分の力で操作して参加できるようになり、 担任自身も「もう自分で運営できます」と笑顔を見せてくれました。
事後アンケートでは、
「不安だったけれど、やってみたらとても楽しかった」
「家にいながらクラスとつながれて安心した」
という声が多く聞かれました。
保護者からは、
「最も心配だったのは学力と生活習慣だった」
「オンラインのおかげで不安が和らいだ」
という感想が寄せられました。
そして、6年担任はこう語ってくれました。
「赴任してすぐの休校でしたが、オンラインのおかげで子どもたちとつながりを保てました。 子どもの不安をアンケートで知り、 自分が思っていた以上に心細さを抱えていたことにも気づけました。」
この一言は、校長として私に大きな確信を与えてくれました。
ICTは“学びを補う装置”ではなく、 “人と人をつなぎ、心を支える装置”になり得るのだ、と。
そして、この経験は、 後に本校が「総合的な学習」を学校経営の核に据えていくうえで、 確かな土台になっていくのです。
次回へ続く👇👇
校長の挑戦 総合の力を信じて 第1章 マガジン👇👇👇
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