へぇーとトリアワビの泉 【島総②#13】/vol3 アワビいっぱい編/離島の総合的な学習②
かつて「へぇー」という一言で雑学を紹介するテレビ番組がありました。 2002年から放送されていた番組で、思わず誰かに話したくなるような知識が次々と紹介されていました。
その日の教室は、まさにそんな“へぇー”が次々と生まれる場所になっていました。
私たちはそれを、思わずこう呼びたくなりました。 ・・・「トリアワビの泉」と。
前回の話 離島の総合的学習の時間②#12👇
本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)
これまでの実践してきた総合的な学習の時間の記録です。
今回は、県内で唯一の離島にある小学校に赴任して2年目、2003年度(平成15年度)に行った総合的な学習の時間の実践記録です。
交通も通信も限られた島で、子どもたちにどんな力を身に付けさせたいのかを考えながら、地域と関わる学びやICTを活用した取組を進めてきました。
1年目には、島の海の魚介類を調べてまとめた「おさかな天国 海辺のデジタル図鑑」に取り組み、マイタウンマップ・コンクールで農林水産大臣賞をいただきました。
▶ おさかな天国(離島の総合的な学習の時間①)** **
この「アワビいっぱい編」では、年度後半のアワビの中間育成・放流の実践を軸にしながら、そこへ至るまでの前半の学びとして、他地域との交流、ICTスキルの定着、発信に向けた準備段階も含めて、2年目の1年間を通した取組を記録しています。
単元そのものではなく、「学びが絡み合う時間」を描いています。
※本文中の地名・学校名・人名等は仮名を使用しています。
1.教室にやってきた外の知
本格実施が始まった総合的な学習の時間単元「アワビいっぱい大作戦」に、心強い助っ人を迎えることになりました。
水産研究所のY先生です。
事前にメールで打ち合わせをしていましたが、当日は用具まで準備して来てくださり、その本気度が伝わってきました。
まずは校長室で簡単な打ち合わせを行い、その後、教室で子どもたちに紹介しました。
普段とは少し違う空気の中で、子どもたちの表情もどこか引き締まっているように見えました。
そしてそのまま、子どもたちがアワビを育てている漁協へと向かいました。
実際の現場を見ていただくことが、この時間の出発点です。
2.現場で生まれる「へぇー」
漁協へ向かう道中、さっそく興味深い話が始まりました。
養殖用の波板にしっかり張り付いているアワビの稚貝は簡単には外れませんが、それを外すためにエチルアルコールを使うというのです。
アワビを酔わせている間に外すという説明に、「えっ、それっていいの?」という空気が一瞬流れました。
子どもたちからすれば、稚貝とはいえ“子ども”です。
そんな存在にお酒を飲ませてもいいのか、という素朴な感覚です。

もちろん理屈としては分かるのですが、その発想の意外さに、思わず「へぇー」と声が出ました。
こうした驚きは、教科書の中ではなかなか出会えない種類のものです。
漁協に着くと、子どもたちはどこか遠慮がちで、最初はなかなか質問の手も上がりませんでした。
初めて会う外部の大人に対して、少し身構えている様子も見えました。
しかし、実際にアワビを前にして話が進むにつれて、少しずつ距離が縮まっていきます。
ぽつりと出た一つの質問をきっかけに、次第に声が増え、やがていつもの調子が戻ってきました。
教室に戻る頃には、すっかり打ち解けた様子で、自分たちの取り組みを説明する姿も見られるようになっていました。
自分たちの活動を専門家に見てもらうという経験は、子どもたちにとっても特別な意味を持っていたように思います。
3.知識が技術に変わるとき
教室に戻ると、今度は本格的な学びの時間が始まりました。
アワビの生態についての説明だけでなく、子どもたちの疑問にも一つ一つ丁寧に答えてくださいます。
その語りはとても分かりやすく、教室全体が引き込まれていきました。
さらに、この時間の特徴は「話だけで終わらない」ことです。
放流の際に必要となる目印、いわゆるマーキングの方法を実際に教えていただきました。
重要なのは、デコボコを大きくしないことと、消えないことだそうです。
デコボコが大きいと岩の間に入れず、結果として他の生き物に食べられてしまいます。
現場の条件が、そのまま技術の条件になっています。
4.小さな工夫に宿る意味
今回教えていただいた方法は、ダイナモテープを使うものです。
テープにイニシャルを打ち、それを円形に切り抜きます。
円形にするのは引っかかりにくくするためです。
その円形のテープを稚貝に貼り付けるのですが、そのままでは粘着力が足りません。
そこで使うのが、島の潜り漁師がウェットスーツの修繕に使うゴム糊です。
自転車のパンク修理用のボンドでも代用できるという話に、また一つ現場のリアリティを感じました。

ピンセットなどを使ってそっと貼り付ければ完成します。
このイラストではトコブシの貝殻を使って練習も行いましたが、この一つ一つの作業に意味があることが、子どもたちにも少しずつ伝わっていきました。
5.“トリアワビの泉”が湧いた教室
給食も子どもたちと一緒にとり、午後からもさらに1時間、質問に答えていただきました。
子どもたちは次々と手を挙げ、教室は自然と対話の場になっていきます。
Y先生の説明はとにかく分かりやすく、子どもたちだけでなく、私自身も知らなかったことばかりで「へぇー」の連続でした。
気がつけば教室は、当時流行していた「トリビアの泉」ならぬ“トリアワビの泉”状態です。
そして、その“へぇー”を一番楽しんでいたのは、もしかすると私だったかもしれません。
子どもたちと同じように驚き、同じように納得し、ときには思わず身を乗り出して話を聞いている自分がいました。
こうした時間は、子どもたちにとっての学びであると同時に、教師である私にとっての教材研究の時間でもありました。
あらかじめ準備してきた知識だけでは追いつかず、その場で一緒に驚き、一緒に理解していく。
その過程そのものが、この単元の価値になっていきます。
専門家の知識が入ることで、子どもたちの学びは一気に深まり、同時に「もっとやってみたい」という意欲も確実に高まっていきました。
この出会いが、次の一歩を生み出すことになります。
次回に続く・・・
総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇
総合実践のvol2、おさかな天国(マガジン離島の総合的な学習の時間①)👇👇👇
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