塩はストーブの上で生まれた【島総③#12】/総合実践の記録vol4 塩物語編/離島の総合的な学習③
2004年冬。
前回、一斗缶で作ったかん水をすべて捨て、私たちは大きな鉄釜でもう一度やり直しました。
販売の日は迫っていました。
それでも、あの黄色いかん水を使うわけにはいきません。
日曜日にも島へ戻り、1人で火を焚き続けました。
そうしてようやく、2度目のかん水ができあがりました。
今度こそ大丈夫だろうか。
布を張ったポリバケツへ、できあがったかん水をゆっくりとこしていきます。
色を見る。
黄色くない。
ようやく、次へ進めます。
1.閉店後に手に入れたコーヒーフィルター
かん水から塩を取り出すには、まだ用意しておかなければならないものがありました。
最後に塩とにがりを分けるための、大きめの業務用のコーヒーフィルターです。
本土へ帰っていたある日、日中の所用を済ませながら、夕方になってそのことを思い出しました。
島へ戻ってから「ない」と気づいても遅い。
タウンページを開き、学校や事務所などへコーヒーを卸している店を探して、何軒か電話をかけてみました。
ところが、もう夕方です。
ほとんどの店は18時で営業を終え、しかも翌日は休みだということでした。
これは困ったと思いながら電話を続けていると、1軒だけ
「19時頃までなら待っていますよ」
と言ってくださるところがありました。
ありがたいことでした。
所用先からそのまま店へ向かい、何とか業務用のフィルターを手に入れることができました。
しかも、対応してくださった方がとても親切でした。
「これも使ってください」
とフィルターを余分にサービスしてくださり、一緒についてきていた我が子にまで、ちょっとした景品を持たせてくださいました。
フィルターを買いに行っただけなのに、店を出るときには何とも気持ちがよかったことを覚えています。
こういう人との接し方は見習いたいなと思いました。
塩づくりを始めてから、こういうことが何度もありました。
必要なものを探し、分からないことを尋ね、そのたびに誰かが手を貸してくれます。
いつの間にか、3人と私だけで始めた塩づくりに、いろいろな人の手が加わっていました。
2.かん水から塩へ、もう1つの問題
鉄釜で作り直したかん水は、ようやく目標の濃さになりました。
ポリバケツに布を張り、ゴミなどを取り除くために少しずつこしていきます。

今度は大丈夫でした。
ようやく、ここから本当の塩づくりです。
できあがったかん水をさらに煮詰め、水分を飛ばして塩を取り出していかなければなりません。
ところが、いざ始めようとすると、もう1つ考えなければならないことが出てきました。
鉄釜で作り直したこともあって、かん水はかなりの量があります。
外のかまどを使えば、一度にたくさん煮詰めることはできますが、そのためには誰かがずっと火のそばについていなければなりません。
しかも、ここから先は、かん水を濃くするための作業とは少し違います。
できあがるのは、そのまま人の口に入る塩です。
風の吹く屋外で長時間煮詰めれば、ゴミなどが入ることにも、これまで以上に気をつけなければなりません。
一度失敗してやり直しただけに、最後の最後で何かあっては困ります。
時間はかかっても、できるだけ目の届くところで、安心して仕上げたいと思いました。
「何か、いい方法はないかな。」
子どもたちと一緒に考えました。
そのとき、何気なく目に入ったものがありました。
教室や職員室で使っていた、ストーブです。
3.ストーブの上で作ればいい
寒くなっていたこの時期、教室や職員室ではストーブを使っていました。
そして、その上には乾燥を防ぐための加湿用の鍋が載っています。
「これ、使えるんちゃう?」
ストーブの上でかん水を煮詰めれば、わざわざ外のかまどにつきっきりになる必要がありません。
教室なら子どもたちも授業の合間に様子を見ることができますし、私も確認できます。
何より、外よりもゴミなどが入らないよう気をつけることができます。
もちろん、問題もあります。
一度に煮詰められる量は、鉄釜とは比べものにならないほど少なくなります。
それでも、最後の塩にするところだからこそ、量よりも確実さを選ぶことにしました。
もう本当に時間との勝負です。
さっそく家庭科室から大きな鍋を持ってきました。
バケツに入ったかん水をひしゃくですくい、鍋いっぱいに注いでいきます。
そして、ストーブの上へ。
ここからは、最初に2Lの海水で試したときと同じです。
違うのは、あのときが「本当に塩ができるのか」を確かめる実験だったのに対して、今度は販売するための本番だということでした。
かん水は、鍋の中で静かに煮詰まっていきました。
4.鍋の底に現れた、白い塩
すぐに塩ができるわけではありません。
じっくり煮詰めながら様子を見ます。
途中で出てくるカルシウム分をこし、さらに水分を飛ばしていきました。
約5時間かけて、ようやく鍋の中から塩を取り出せるところまでたどり着きました。

白い塩でした。
あの黄色いかん水を前にしたときのことを思えば、この「白い」という当たり前のことがうれしく感じられました。
最初に2Lの海水から60gほどの塩ができたときは、「本当に海水から塩ができた」という驚きがありました。
しかし今回は、少し違います。
沖へ海水をくみに行きました。
流木を集めました。
校長先生に小屋を作っていただき、みんなでかまどを組みました。
一斗缶で何日も煮詰め、失敗して全部捨てました。
そして鉄釜でもう一度火を焚きました。
その先に、今、白い塩があります。
できあがった塩は、家庭科室の窓辺に置いて、しばらく天日で乾燥させました。
窓から入る光の中に、自分たちで作った塩が並んでいます。
ようやく、ここまで来ました。

5.塩ができても、まだ終わらない
乾燥させた塩は、その後50gずつ量って袋に入れていくことになります。
そして、3人が考えた商品パッケージを貼れば、ようやく「商品」としての姿になります。
けれど、塩ができたからといって、すぐに売れるわけではありませんでした。
私たちが目指していたのは、塩を作るところまでではありません。
自分たちで作った塩を商品として形にし、実際に誰かに買ってもらうところまで進まなければなりませんでした。
自分たちの塩の何を伝えるのか。
いくらで売るのか。
本当においしいと思ってもらえるのか。
どんなラベルにするのか。
そして、お客さんを前にしたとき、自分たちの言葉でこの塩をどう伝えるのか。
塩そのものは、ようやくできました。
でも、3人の学習はここからまた大きく動き始めます。
次回からは、この塩をどうやって「商品」にしていったのか。
販売へ向けて3人と取り組んだことを、順に振り返っていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回に続く👇
前回の話 👇
初めて来られた方へ👇👇
本シリーズは、離島の小学校で実践した総合的な学習の記録です。
本作は2004年度、赴任3年目の取組を扱います。
島の人たちのために,ウミブドウを栽培し,お祭りで食べてもらうつもりでした・・・。
この年は,台風の襲来が多く,実践にも大きな影響がありました。
マイタウンマップ・コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した感動の実践「塩物語」です。
「お魚天国海辺のデジタル図鑑」から始まる離島の総合実践3部作の最終作です。
離島の総合的な学習の時間3年目(最終年度)の実践「塩物語編」👇
総合実践のvol2、お魚天国デジタル図鑑編(マガジン離島の総合的な学習の時間①)👇👇
総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇👇
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