この塩の「ウリ」は何だ?【島総③#13】/総合実践の記録vol4 塩物語編/離島の総合的な学習③
2004年12月。
海水をくみ、火を焚き、失敗してやり直し、ようやく自分たちの塩ができあがりました。
でも、塩ができたからといって、この実践が終わるわけではありません。
むしろ私がやりたかったのは、ここからでした。
せっかく3人が苦労して作った塩です。
これをただ袋に詰めて売るだけでは、もったいない。
この塩を誰かに届けるまでの過程そのものを、3人にとって新しい経験ができる時間にしたいと思っていました。
自分たちの塩を、どうすれば人に伝えられるのか。
ここから、塩づくりは「作る」ことから「届ける」ことへと動き始めます。
1.あの日曜日から、何かが動き始めた
今振り返ると、その始まりは、あの日曜日だったのかもしれません。
1人で島へ戻り、薪を切り、海水を運び、ただひたすら火を焚いていた日。
3便の汽笛が鳴るまで時間の感覚さえなくなっていた、あの不思議な1日です。
あのとき何を考えていたのか、細かなことまでは覚えていません。
ただ、あの日を境に、塩を作ったその先で「3人とこんなことをやってみたい」というものが、次々と浮かぶようになった気がするのです。
その1つが、「自分たちの塩のよさを、3人自身の言葉にしてみよう」ということでした。
商品として売るのであれば、「私たちが作った塩です」だけでは伝わりません。
なぜこの塩を買ってほしいのか。
どんなところがいいのか。
それを、作った3人自身が説明できなければならないと思いました。
そこで私は、3人に聞いてみました。
「自分たちが作った塩で、アピールできることって何やろう?」
すぐに答えが出るわけではありません。
これまでやってきたことを思い出しながら、3人で考えていきました。
2.私たちの塩の「ウリ」は何だろう
話し合っていくうちに、伝えたいことが少しずつ見えてきました。
まずは「おいしさ」です。
せっかく島の海水から作った塩なのですから、市販されている普通の塩と何が違うのかを伝えたい。
担当する子は、島の近くでは冷たい海水と温かい海水がぶつかり、透き通るようなきれいな海があることや、自然塩にはマグネシウムやカリウムなどの天然ミネラルが含まれていることに目を向けました。
ただ、ここで1つ困りました。
「おいしい」と、自分たちだけで言ってしまっていいのでしょうか。
もちろん、3人も自分たちの塩を食べています。
でも、売る側の自分たちが「おいしいです」と言うだけでは、本当にそうなのか分かりません。
だったら、自分たち以外の人にも食べてもらえばいい。
ここから、後に行うことになる「試食アンケート」のアイデアが生まれてきました。
町の人たちに実際に食べてもらい、味について率直な感想を聞いてみようと考えたのです。
1つのアピールを考えたことで、また次にやってみたいことが出てきました。
3.どうやって作った塩なのか
2つ目は、「安心して食べてもらえること」でした。
そのためには、ただ「安心です」と書くのではなく、自分たちがどうやって塩を作ったのかを説明した方がいい。
そう考えて、これまでの作業を振り返っていきました。
使ったのは、島のきれいな海水です。
それも岸の近くですくったのではなく、漁船に乗せていただき、沖へ出て海水をくんできました。

その海水を外のかまどで煮詰め、濃いかん水にしました。
そして最後に塩へ仕上げるときには、教室のストーブの上でゆっくりと煮詰めました。
人が食べるものだからこそ、ゴミなどが入らないように気をつけながら作ったことも、自分たちの塩を説明する大切な材料になりました。
こうして振り返ってみると、普段は何気なくやっていた1つ1つの作業にも、「なぜそうしたのか」があります。
それを相手に分かるように言葉にする。
3人がやっていたのは、塩づくりの記録をまとめることとは少し違いました。
これから買ってくれる人を思い浮かべながら、自分たちの経験の中から「伝えるもの」を選んでいく作業でした。
4.苦労したことも、塩の一部
そして3つ目に出てきたのが、「作るのに手間がかかっていること」でした。
この塩ができるまでには、本当にいろいろなことがありました。
漁協で自然塩を作っているプロの方を訪ね、作り方を教えていただいたところから始まりました。
海水を運び、燃料にする流木を集め、それを使って火を焚きました。
1度失敗もしています。
海水を濃いかん水にするだけでも、約1週間です。
そこからさらに塩にするには、鍋で約5時間煮詰めなければなりません。
しかも、1回にできる量はそれほど多くないので、同じ作業を何度も繰り返しました。
「これも書いた方がええんちゃう?」
「でも、これだけで分かるかな。」
3人がそれぞれ書いたものを持ち寄り、私も一緒に考えました。
「この島ならではのことは何やろう」
「自分たちがやってきたことを、もう一回思い出してみよう」
「買う人が読んだら、どんなことを知りたいかな」。
そんなことを投げかけながら、何度も書き直していきました。

私からのアドバイスというより、ときにはかなりの「ダメ出し」だったかもしれません。
それでも、私が文章を作って渡してしまっては意味がありません。
実際に海へ行き、薪を運び、煙に目をやられながら火を焚き、塩ができるところまで見てきたのは3人です。
その経験を、今度は3人自身の言葉で誰かに伝えてほしかったのです。
5.作る人から、伝える人へ
こうして、「おいしさ」「安心して食べられること」「作るのに手間がかかっていること」という3つの視点から、自分たちの塩をアピールする文章ができあがっていきました。
同じ塩について書いているのに、3人がそれぞれ違うところを担当したことで、見えているものも違います。
味について考えれば、自分たちだけの感想では足りないことに気づきます。
安心して食べてもらうことを考えれば、作り方そのものを振り返ることになります。
手間を伝えようとすれば、自分たちがこれまでやってきたことの重さが、改めて見えてきます。
塩を作っている間、3人の目はずっと鍋や火や海水に向いていました。
でも、塩ができた今、その視線の先には少しずつ「買ってくれる人」が見え始めていました。
自分たちが作った塩のよさを、どうすれば分かってもらえるのか。
そう考え始めると、まだやってみたいことがありました。
商品としての準備は、ここからさらに広がっていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。 次回に続く
前回の話 👇
初めて来られた方へ👇👇
本シリーズは、離島の小学校で実践した総合的な学習の記録です。
本作は2004年度、赴任3年目の取組を扱います。
島の人たちのために,ウミブドウを栽培し,お祭りで食べてもらうつもりでした・・・。
この年は,台風の襲来が多く,実践にも大きな影響がありました。
マイタウンマップ・コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した感動の実践「塩物語」です。
「お魚天国海辺のデジタル図鑑」から始まる離島の総合実践3部作の最終作です。
離島の総合的な学習の時間3年目(最終年度)の実践「塩物語編」👇
総合実践のvol2、お魚天国デジタル図鑑編(マガジン離島の総合的な学習の時間①)👇👇
総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇👇
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。
