【創作大賞感想文】すくえるものは|三條凛花さん『すくい』
今回、感想文を書かせていただくのは、三條凛花さんの創作大賞2025 お仕事部門への応募作品『すくい』です。
ちなみに、凛花さんは創作大賞2025の全部門に応募するというとてつもない挑戦を既に完了されています(!)。
▽今回感想を書かせていただく『すくい』
一気に最後まで、そして、あとがき(有料のB面も含めて)読み切っていました。
早速感想に入っていきたいのですが、凛花さんは別な企画等でもやりとりがあり、今回非常に繋がっているものを感じたので、そのあたりにも触れながら始めていければと思います。
そっか、わたしも本が、本屋さんがスキなんだ

広く取られた書棚と書棚のあいだを泳ぐように抜けていく。じっくり時間をかけてあちこち眺めて、小説と雑誌を1冊ずつ手に取った。
わたしと柊介が暮らす街に書店はなかったから、何年経っても憧れの場所だ。結局30分近く迷いに迷って、予算とも相談し2冊を買った。
書店がない地域。自転車で移動図書館に通う主人公の莉羅。
ついに自身”リラ”の書籍が出版される。そこから…というのが『すくい』の物語です。
凛花さんと言えば、生活・暮らしの繊細な描写ですが、今回わたしが最初に深く刺さったのがこの描写でした。
手に取る実物の本が好き。本屋さんでじっくり見て回って、いろいろ迷った結果、最終的に買って帰る本。もしかしたら、思っていたものと違う読了感があるときもあるかもしれない。でも、それでもいいんです。
間違うこともある。毎回真剣に悩んで少しずつ感性の精度を上げていくしかない。こうした体験は本に限ったことではないと思いますが、そう、何より、本屋さんのこの時間が好きなんですよね。
それは、自分の観察眼で本気で「勝負した」瞬間なのも知れないですし、予想もしなかった本との出合いかもしれないし、前から気になっていた本を「やっぱり、今回はこれだ!」としっくりきた瞬間なのかもしれません。
もちろん、電子書籍もネットショッピングも選ぶ本の種類によっては使いますが、わたしは本が、本がたくさんある場所が、本が落ち着ける場所が好きなんだなと心から気づかされた描写でした。
人のプリズム

今回は、人の意外な一面がたくさん描かれています。
「この年齢でここまでスパダリな男がいるかー!」と、嫉妬交じりでツッコミたくなる莉羅の夫、柊介も。
商業主義である以上はしょうがないが、それを全面に押し付け来る担当編集の夏目。
莉羅自身が”汚部屋”に住むことになってしまった背景などなど。
こうした人の様々な側面に焦点を当てる凛花さんの技術は、既に別な作品でも存分に発揮されていました。それが、「恋を叶える サロン・アンシャンテ」シリーズです。
わたし自身が感想企画で募集させていただいたときに、凛花さんからリクエストいただいた作品です。
▽そのときに書かさせていただいた感想文▽
お話の展開も非常に見事なのですが、それ以上に「このキャラクターのことをもっと知りたい。このキャラクターのエピソードをもっと見たい」。そんな気持ちで一気に読んでいました。
今回の『すくい』も同様で、話が盛り上がりまくって一気に「早く次!」という感じよりは、1話1話しっかりと自身の中に落とし込んでいく。そんな感覚の作品でした。
ちなみに、このときの感想文企画自体も、凛花さんが自分で企画されている『月刊tote』にエッセイを応募した際の、凛花さんの丁寧な感想文にインスパイアされて始めた企画でした。
▽最新号『月刊tote』7月号▽
巣食う悪意、誠意と”ずるさ”

そして、もちろん、今作『すくい』も「ていねいな暮らし」、ふわふわキラキラだけの話ではありません。

この場面の他にも、低評価レビューの「波」に関しての話もあります。いかにもありそうと思いました。
いや、わたしも物語を書く者としてわかります。
これは、若干の入れ替えや言い換え、つなぎ直しはあるにしても、体験に基づいた話であると。「あとがきB面(有料note)」にもあるように、凛花さんがリアリティにどのように拘っていたかが解説されています。
「リアルならなんでもいい」というワケではないとわたしも思いますが、引き込まれる物語の要素に、この「ありそうな話」かどうかというのを、わたしは自分でも思っている以上に重きを置いているんだと思いました。
もちろん、異世界転生ものやファンタジーも好きなのですが、そのなかでもちゃんとルールというか規律がある。個人的には、そうした作品が好きです。
そして、凛花さんの作品は日常描写の上手さと、このリアリティのこだわり、さらに言うと、誰かを傷つけないように配慮されている点に引き込まれるのだと思います。
構成の見事さ
これはわたしが偉そうに解説するほどのことでもないのですが、とにかく構成が練りに練られていてサイコーでした!
何気ない描写がちゃんと伏線として回収されている。
逆に、「あれ」と読者が違和感を持ったところは、あえてそのまますっと次の展開に移る。また、そこに繋がりそうなヒントが出ても、まだスカッとはさせてあげない。そして、いよいよ話が繋がってくる。
そんなミステリー的な要素も、書き分けや時間軸を入れ替える構成など、明らかに最初から練られているのがひしひしと伝わってきて、とにかくお見事でした!
そんな簡単に「ゴール」は来ますか?

今回、『すくい』で最大のテーマになっていることはコレだと、わたしは感じました。
「誰でも簡単に月収〇〇万円」、「こうすればあなたも商業出版」そうした文言がXやYouTube広告、さらには一部のnoteでさえも見られるようになりました。
もちろん、受賞や出版、収益化を目指すことは素晴らしいことだと思います。わたし自身も、それを夢見て本気で挑戦しています。
しかし、それは素晴らしいことである一方で、次のスタート地点やチェックポイントに到達したということも忘れてはいけない。そうしたことを凛花さんの『すくい』は訴えかけているように感じました。
例えて言うと、「結婚がゴールで、結婚さえすれば後は幸せな家庭が待っている」そんなことを思う方はごく少数だと思います。
当然、結婚してからこそ、お互いに協力して家庭を作っていく。もっとやらしい言葉で言えば、よりシビアに家庭を「運営」していく必要があります。それはどちらかによほどの資産がない限り、エスカレーターのように乗ってれば幸せに運んでくれるという類のものではないでしょう。
あるいは、〇〇大学に入れば、上場企業に入れば、という話も同様です。そして、それが叶えば叶ったで次の課題や悩みも出てきます。だからと言って、「じゃあ、意味ないね」とか「目指すのを止めよう」という話ではありません。
そして、効率化の時代、いい意味で「ラクをする」のは全然いいとわたしは思っています。ただ、シンプルに「見込みが甘くないですか」という警鐘。もちろん、わたし自身も見立てや戦略、見通しが完璧かと言われれば決してそんなことはありません。
ただ、甘い見通しで独立して痛い目を見たことで、少しは慎重に、中長期で考えるようになったという話でした。
この”出版後”の視点は、わたしが自主開催した「第2回 灯火杯 2025春」に凛花さんがエントリいただいた作品でも語られています。
あなたがすくえるものは
すみません、少し強めの主張が入ってしまいました。
ただ、凛花さん自身も決して「出版後も大変なんだ、覚悟しろ!」というメッセージではないと、わたしは思っています。
先ほどの広告へのわたしの怒りも、本当にやりたい意思がある人に中途半端なノウハウを売りつけて儲けるなという部分。そして、買う側も安易にコツを知ろうとしないで、血肉になることにお金を使って、ちゃんとした経験とスキルを積んだほうが自分のやりたいことに近づけるのではという想いからです。
▽このあたりのわたしの想いは、こちらのnoteにまとめています▽
話を凛花さんに戻すと、わたしは今回の『すくい』から、「正しく知って、上手く生き抜いてほしい」そんなメッセージを感じました。
商業出版である以上、「売れることが第一」になるのは避けられません。それを、作中のように「ずるい」と捉えるかどうかは難しいところです。
一方で、世の中には悪い方向でも色々な人がいることも事実。
話してみたらこんな人もいるよという例も挙げつつ、「ホントにやべーヤツ」も性別問わず出てきます。
変にネガティブな面や不安を煽るワケでもなく、かといって、いい面だけを過剰に見せようとするワケでもなく。
なんというか、非常にフラットに捉えて、そっと優しさが添えてある。そんなあたたかな作品でした!
凛花さん、素敵な作品をありがとうございました!!
▽作品のはじまりはコチラから▽
▽通常noteでのあとがき▽
▽有料note あとがきB面▽
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