焦らなくても、ボールは待ってくれる
『速さより、落ち着いた判断』
急ぐことが悪いわけではありません。
でも、焦ったまま打つ一打は、思っている以上に体を固くしてしまいます。
前の組が、少しずつ小さくなっていく
真夏の午後、コースに出ると、前の組との間隔がじわじわ開いていくことがあります。
フェアウェイの先で、人影が少しずつ小さくなっていく。
カートの音が遠ざかり、次のホールへ向かう足音だけが、やけにはっきり聞こえる。
汗が首筋を伝い、グリップを握る手のひらがじっとり湿ってくる。
帽子のつばから落ちる汗をぬぐいながら、心のどこかで小さな声がします。
「早く行かなきゃ」
この声、なかなか手ごわいですよね。
焦ってアドレスに入ってしまう、あの感じ
ゴルフを始めたばかりの頃は特に、前の組との間隔や、後ろの組の視線が気になります。
後ろのカートが少し近づいてきただけで、まだ誰にも急かされていないのに、勝手に自分で自分を急かしてしまう。
「素振りは省こう」
「とりあえず早く打とう」
「考えている場合じゃない」
そう思った瞬間、アドレスが少し雑になります。
ボールをよく見ないまま構える。
足元の向きも確認しない。
グリップを握る力だけが、いつもより強くなる。
そして打ったあとに、だいたいこう思います。
「あれ、今の何だったんだろう」
これ、私も何度もあります。
インストラクターも、完璧じゃない
インストラクターをしていると、いつも落ち着いているように見られることがありますが、そんなことはありません。
私も研修生時代にキャディーの仕事をしていたこともあり、前の組と離されると、今でも少し焦る癖があります。
ゴルフ場では進行が遅くなると、全体の流れに影響します。
多くの方が気持ちよくプレーできるように、テンポよく進むことはとても大切です。
だからこそ、急ぐ気持ちは悪いものではありません。
ただ、その焦りをそのままスイングに持ち込むと、話がややこしくなります。
急いでいるのは足でいいのに、なぜか肩まで急ぎ出す。
そしてクラブまで慌てて、ボールだけ置いてけぼりになる。
ゴルフって、本当に正直です。
Sさんのエピソード
先日レッスンに来られたSさん、60代でゴルフ歴3年の方が、こんな話をしてくれました。
「コースで後ろの組が迫ってくると、頭が真っ白になって、何も考えずに振ってしまうんです」
その気持ち、すごくわかります。
実際にラウンドへ同行して見てみると、Sさんはショット前の動きが少し早くなっていました。
カートからクラブを取る。
ボールのところへ歩く。
構える。
すぐ打つ。
一見、スムーズに見えます。
でもよく見ると、いつも練習場でやっている確認が抜けていました。
素振りをしない。
目標を見る回数が少ない。
ボールを見る前に、もうクラブが上がっている。
体だけが先に動いて、気持ちが追いついていない状態でした。
そこで私が提案したのは、たった一つです。
「振る前に、深呼吸をひとつ入れてみましょう」
特別な打ち方を変えたわけではありません。
難しいスイング理論も使っていません。
ただ、息を吸って、ゆっくり吐く。
それから構える。
次のホールで、Sさんはボールの後ろに立ちました。
一度だけ目標を見て、ふっと息を吐きました。
そのあと構えて、いつもより少し静かなリズムで振りました。
ボールはフェアウェイ方向へ、すっと飛んでいきました。
ものすごい飛距離ではありません。
でも、見ていて安心する球でした。
Sさんは打ったあと、少し驚いた顔で言いました。
「こんなに違うんですね」
「慌てた時よりスムーズにプレーが出来ているように感じます」
その表情が、とても印象に残っています。
『速さより、落ち着いた判断』の意味
今日の言葉は、ゆっくりプレーしましょうという意味ではありません。
ゴルフでは、急ぐべき場面もあります。
クラブ選びを早めにする。
カートの移動をスムーズにする。
次の人が打ちやすいように準備しておく。
そういう速さは、周りへの思いやりでもあります。
でも、打つ直前の判断だけは、慌ててはいけないと思うのです。
どこを向くのか。
どのクラブを持つのか。
どんな球で十分なのか。
ここを焦ったまま通り過ぎると、スイング以前に一打が迷子になります。
急いで打ったショットが、うまくいった記憶って、意外と少ないものです。
逆に、ほんの一秒だけ落ち着いたときのほうが、体はいつもの動きを思い出してくれます。
今日から試せることは、二つだけです
一つ目は、アドレスに入る前に深呼吸をひとつ入れること。
息を吸って、吐く。
それだけで、肩の力が少し抜けます。
雑になりかけた心に、小さな間ができます。
二つ目は、「歩くところは少し早く、打つ前は落ち着く」と決めておくこと。
プレー全体をゆっくりするのではなく、移動や準備はテンポよく。
でも、ボールの前では一度だけ静かになる。
これなら、周りの流れも守りながら、自分の一打も守れます。
練習場でも同じです。
次々にボールを打ちたくなる日ほど、一球ごとに呼吸を入れてみてください。
マットの上に置かれた白いボールを見て、ふっと息を吐く。
それだけで、「打たなきゃ」から「打とう」に変わる瞬間があります。
焦らなくても、ボールは待っていてくれる
夕暮れのコースで、風がフェアウェイの芝を揺らしている。
遠くで鳥の声が聞こえ、空の色が少しずつやわらかくなっていく。
そんな景色の中で、焦らず構えた一打は、不思議と芯に近づくことがあります。
前の組が遠くに見えても。
後ろの組が少し近づいてきても。
ボールは、あなたが呼吸を整えるその一瞬を、ちゃんと待っていてくれます。
焦ったときほど、急いで打つより、落ち着いて選ぶ。
その一呼吸が、今日のラウンドを少しやさしくしてくれるかもしれません。
あなたはコースで焦りを感じたとき、どんな一呼吸を入れてみますか?

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