【#創作大賞2025】平成の暗黒時代を生き抜いたソルジャーへ ~第二章~
第2章:暗闇の中での手探り、そして一筋の光
工場の闇を抜け出し、光を求めた先は……。それは、更なる暗闇だった。
前回、過酷な工場での仕事を辞め、営業会社に採用されたところまで話した。少し時間を戻そう。工場の過酷な労働環境に心身ともに深く傷つき、完全に壊れてしまった私。それはもう、まるでゾンビのような姿で、文字通り「一縷の望み」を抱いて営業会社の面接へと向かった。今思えば、当時の私の状態では営業などできるはずもなく、その選択自体が間違っていたのだ。
しかし、不思議なことに、私は面接だけは得意だった。当時応募したのは不動産系の営業会社、いわゆる家の売買を仲介する仕事だ。
「なんとなく稼げそう」
という安易な気持ちで応募したのだが、当時の採用情報は、まるで希望の光のように輝いていた。
「不動産オープニングメンバー募集」
「みんな初めて! 徹底した研修制度!」
「全員同期の環境で助け合いながら営業職を目指しませんか?」
なんと美しいキャッチコピーだろう。掲載されている写真もアットホームな職場感。キラキラとした従業員の笑顔がまるでこっちにおいでと誘っているようだった。
今見ても転職したくなるほど魅力的な言葉が並んでいる。私は迷わず、この会社に応募した。この営業会社は、面接のみの「人柄重視」という採用条件で、社長と店長候補の2名との面接だった。私はこれまでの経験の中から、ポジティブな要素だけを巧みに抽出し、予め準備された全ての言葉を面接官に伝えた。
そして、最後の質問。
「他に企業は応募していますか?」
社長から飛び出たその質問を、私は想定していた。
「御社しか応募しておりません。私は御社のビジネス、そして理念に深く共感して応募いたしました。ですので、もし御社が不採用になった場合、転職する目的も意味もなくなりますので、現在の仕事を続けるつもりです」
よくぞ、ここまで息を吐くように嘘をつけたと、自分ながら感心した。面接中は自分自身騙すが如く、ここしかないと思っていた。
結果は……もちろん文句無しの採用だ。後に社長から聞いた話だが、私の面接は「歴史上、断トツの合格」、異例の好印象だったそうだ。
そして、私は3ヶ月の引き継ぎ期間を経て、晴れて営業会社へと就職した。
「お前はどこに行っても通用しないから辞めない方がいい」
というテンプレートで退職を止められたのは言わずもがな。
「お前はどこに行っても通用しないから、こんなところに居続けるんだろうな」
という捨て台詞を吐き職場を去った。
そして、皆さんもうお気づきだろう。ここから、地獄が始まるのだ。
暗闇の中での手探り、そして一筋の光
初出勤の日。1ヶ月前にすでに入社していた諸先輩方とコミュニケーションを取った。私と店長を含めて5人。和気あいあいとランチなどしたものだ。そして、もちろん不動産未経験者しかいない。そして、あろうことか店長までもが未経験者だったのだ。
翌日、誰も何をしていいかわからず、そのまま1週間以上が経過した。そろそろまずいと感じた私は、とにかく物件の現地を見て勉強しようと、まるで修行僧のように外へ出て物件巡りを始めた。
そして、ネットで調べ尽くした記事を頼りにチラシを撒く日々が始まった。しかし、3日後には心が折れ、大型団地でチラシを消化する日々。近所のパチンコ店の駐車場に逃げ込みスマホで無料漫画を読み漁る。そして会社近くのコンビニで髪の毛を濡らし、あたかも一日中チラシを撒いてきましたと言わんばかりの疲れっぷりで社に戻る。
「おう、お疲れ。」
店長と先輩の労いの言葉が胸を刺す。
「いやぁ…足が棒のようです」
そしてここでも嘘を吐く。
お客様が来ることもなく、1ヶ月が過ぎた。
ある日、店長がおもむろに口を開いた。
「このままだとまずいぞ」
「お前が言うなよ」と心の中で突っ込んだが、その場の空気に身を任せた。
「とにかく、お客様を捕まえて1件申し込みを取ってくるんだ。その後は俺に任せてもらっていいから」
右も左もわからない私は、正直なところ、お客様が来てもその先何をすれば良いのか全くわからず、不安が先行し、行動はネガティブになる一方だった。しかし、店長のこの言葉は私を覚醒させた。
「家を見せて、気に入ってもらって、申し込みを貰うだけ」
これならできる!
私は、電話が鳴ることもないチラシ配りを諦め(そもそも大型団地しか入れてない)、親族や知人に片っ端から連絡を取り、紹介活動を始めた。すると、なんと驚くべきことに、紹介で1件の申し込みをいただくことができたのだ。たった1件の物件内見で。元々、セールスは向いていたのだろう。
お客様はとても人柄が良かった。
こんな私のペラペラとしたセールストークにも相槌を打ち、耳を傾けてくれた。だが、物件には自信があった。天下の積水ハウスで建てられた中古戸建て。不動産の知識などない私、「積水ハウス」という一本槍はとてつもなく大きかった。
「あなたがベストと言うなら、ここがベストなんでしょうね。あなたを信じて買います」
お客様からのこの言葉を聞いた時、私は人生の道が開けたような気がした。ありがとう積水ハウス。
その日は時間も遅かったため直帰し、次の日の朝礼で
「申し込みを取ってきました!」
と報告した。店舗は拍手喝采、祝福の言葉で沸き立った。皆が私の前にハイタッチを求めてやってくる。皆はこの申し込みに先の希望を見たのだ。
「これで一連の取引がわかるぞ」
と言わんばかりに、
「俺の取引の時は教えてくれな」
と浅ましく媚びてくる。
そして私は言った。
「店長、あとはお任せします! 一連の取引の流れを勉強させてください!」
店長に引き継ぎをお願いした。あの日の誓いを思い出せ。
「とにかく、お客様を捕まえて1件申し込みを取ってくるんだ。その後は俺に任せてもらっていいから」
お前はそう言ったはずだ。俺の心には血判状として確かにあの日の誓い刻まれている。
「俺、分かんないよ。未経験だから。頑張ってみて! ファイティン!」
ファイティンじゃねーよ。○すぞ。
○んで償え○カが。
なんと心の口の悪いことだろう。私は既にグレている。3度目の反抗期かの如く。
この店長の一言で道が閉ざされた。いや、そもそも道はなかったのか。ここに来て、まさに「梯子を外された」のだ。
一般的には不動産売買など素人にどうこう出来る話ではない。宅地建物取引士の資格など持ち合わせていない。対した能力も無いのに事件解決を期待される「毛利小五郎」の気分だ。私は思わずコナンくんを探す。いっそ眠らせてほしい。
その取引は、お客様に多大なご迷惑をおかけしながらも何とか完結させた。お客様はバスの運転手だった。私は書類を持ってそのバスを追いかけ、お客様の休憩の瞬間を狙って署名捺印を求めた。
毎日深夜12時までオフィスで「ああでもない、こうでもない」と一人で奔走していた。深夜のオフィスの気味の悪さと言ったらもう。オフィスは禁煙だが腹が立ちすぎて怒りの一服をしてやった。ざまぁみろ。コーラを飲む。タバコを吹かす。そして火災報知器が鳴る。止め方がわからない。セ○ム登場。なんて素早い到着か。上場企業たる風格。そして怒られる。
もうこの時点で、私の気持ちは早くも転職へと向かっていた。求人情報誌を読み漁る。宝の地図かと如く条件に見合う求人に印(しるし)をつける。
しかし、キラキラと輝く求人はまがい物だったことからこの職場環境がトラウマとなり、未来への一歩を踏み出すことが出来なくなっていた。
もう転職するエネルギーも残っていない私は、廃人のように出社し続けた。
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