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読書感想 ザイム真理教/森永卓郎

 ザイム真理教。最近、ネット上で頻繁に交わされるようになった言葉だ。ザイム真理教の出自は森永卓郎さんではない。森永卓郎さん自身、あるときこのワードを聞いて、「それはいいな」とそれをネタに一本、本を書いてみた……と話している。本自体はすぐに書き上がったが、その後、問題が起きてしまう。それは後ほど掘り下げるとしよう。
 ザイム真理教とはなんなのか? 何をさしているのか。どんな恐ろしい教義を持っているのか。それを内部から覗いていた当事者による証言である。これは陰謀論の話などではない。この国に数十年前から巣を作り、私たちの生活を荒廃させてきたある団体のお話しである。

 1980年、森永卓郎さんは大学を卒業し、日本専売公社に入社した。後のJT(日本たばこ産業株式会社)である。ただし、会社とは名ばかりで、当時の専売公社は旧大蔵省専売局の仕組みをそのまま引き継いでいた。大蔵省から予算をもらわない限り、何ひとつ活動できなかったのである。
 1年の3分の2を占める予算編成期は常に待機状態で、大蔵省の許可がないと帰宅もできなかった。主計課の仕事は深夜0時まで続き、さらに待機残業が加わった。
 深夜2時を過ぎると、筆頭課長代理が大蔵相の直通ホットラインに電話をかける。その瞬間、主計課の全員が耳をそばだてる。主査の機嫌を損ねれば、全員が徹夜になるからだ。
 予算編成の佳境になると、森永さんの仕事は大蔵省主計局大蔵2係の前の廊下で座って待機することだった。「お~い、もりなが~」と呼ばれたら、数秒以内に主査の前へ駆けつける。1秒でも遅れると怒鳴られる。駆けつけて、主査の問いに何でも答える……それが仕事だった。
 予算編成は「茶番」の連続だった。試験研究費の予算を取るため、実際には存在しない架空の実験をでっちあげる。図面を描き、ボルト1本から積算する。主計局の職員は科学者ではないため、森永さんは「こういう実験装置です」と、その場で説明する。もちろん架空実験なので大嘘。嘘の架空実験を説明することが仕事だった。
 その後、「自己査定」が始まる。例えば「予算要求総額を3%カットせよ」といった指令がくるので、その通りに要求内容を再構成する。これがそのまま内々示となる。報道では「大蔵原案」が内示され、そこから復活折衝が始まるとされているが、実際には2週間前に最終通告がある。通告を受けた各省庁は、そこから復活折衝によって復活させる金額を除外して大蔵省内示をつくるのだった。
 さらに、「族議員の○○先生が主計局に乗り込み、××億円の復活を勝ち取る」というシナリオもこの時に作られ、それに沿って現実の「復活劇」が演じられる。
 予算確定後は「総突合」という儀式が行われる。専売公社主計課全員がソロバン持参で大蔵省に呼び出され、主査が高速で内訳を読み上げる。それに合わせて計算し、最後に全員で合計金額を唱和する。一人でも間違えれば主査の逆鱗に触れる。
 この儀式には実務的な意味はない。すでに予算は何度も検算されている。これは単に、大蔵省主査の権威が専売公社より上であることを示す“儀式”でしかなかった。

 最近は少なくなったが、当時の専売公社は定期的に大蔵省を接待していた。森永卓郎さんも同席したことがあるが、そこは超高級料亭で、なにか粗相があってはいけないと緊張し、楽しめるものではなかった。
 接待の請求書は、専売公社に回ってくることもあった。ただし名目は「接待」ではなく、「架空の会議」として経費処理された。
「こんなことしていいんですか?」
 と尋ねると、係長はこう答えた。
「予算っていうのはね、現金で買うことさえできるんだよ」

 こんな環境だから、大蔵省の役人はあっという間におかしくなる。周囲は絶対服従で接するため、自分たちは特別な権力を持っている……そう思い込むようになる。
 そんな大蔵省の下で働いていると、今度は自分が「ミニ大蔵省」になってしまう。

 森永卓郎さんも、次第に接待を受ける側になっていった。
「森永さん、今度の忘年会に来ていただけませんか?」
「行ってもいいけどさ、女連れてこいよ」
 今となっては、どうしてあんなことを言ったのか……と森永さんは反省しているが、当時は完全に「ミニ大蔵省」だった。あそこに勤めていると、全員が「ミニ大蔵省」になっていた。
 ちなみに、その時に連れてこられた女性社員が、後に森永さんの奥さんとなる。奥さんは今でも「私は人身御供にされた」と語っている。
 いつもチヤホヤされ、自分の一言で周囲が動く。そんな環境が続くと、自分が全知全能の神のように錯覚してしまう。ここに、ザイム真理教の源流があった。

 森永卓郎さんが「大蔵省の奴隷」をしていた頃、「財政再建元年」という言葉がよく聞かれるようになった。
 日本は戦後、1964年まで国債をまったく発行していなかった。だが、次の図の通り、1965年から徐々に国債発行が始まる。

 1973年の石油ショックによる不況に対応するため、国債発行額は大きく増加した。国債は10年で償還期限が来るため、1980年前後から償還が始まり、その財源を確保する必要が出てきた。歳出カットと増税を同時に進めなければならない――これが「財政再建元年」の意味だった。
 だが、大蔵省は重大な勘違いをしていた。償還期限が来た国債は必ず返済しなければならないと思い込んでいたが、実際には借り換えによる先送りや、日本銀行に買い取らせる方法もあった。
 日銀はただ紙幣を刷って、資金を供給しているわけではない。何かを購入し、その代金として日本銀行券を支払う。中でも最も安全な商品が国債であり、経済に資金供給するには国債発行が欠かせない
 しかし大蔵官僚はこれを理解していなかった。東大法学部出身者が多く、経済学を学んでいなかったため、税収の範囲内に歳出を抑えるという非現実的な「財政均衡」が正しいと信じていた。
 経済学には一般常識とは異なるものがいくつかある。たとえば、銀行は集めた預金の数倍もの融資ができる。なぜなら銀行は企業に対し、現金で融資することはほとんどなく、小切手で融資金を渡す。その小切手は銀行口座に入金するから、貸出金は銀行の預金として戻ってくる。企業が支払いに使った資金も、最終的に誰かの預金として戻る。
 これが「信用創造」といい、銀行はお金を創り出すことができる。

 財政も同様に、自国通貨を持つ国では財政均衡に縛られず、柔軟な政策が可能である。
 ところが(当時の)岸田政権は2026年度に基礎的財政収支を黒字化するという目標を掲げた。これは財務省の財政均衡主義をそのまま受け入れているからだった。

 最近、ある金融教育家から、財務省の若手官僚の中には財政均衡主義に疑問を抱いている者が多いと聞いた。だが、それを省内で口にすると出世コースから外されるため、皆「財政均衡は大切だ」と言い出すようになる。やがてそれが思想を侵食し、マインドコントロールのように効いていく。
 たとえば、1999年に大蔵省を退官し、ベストセラー作家となった野口悠紀雄は、2015年の消費増税について次のようにコメントした。
「景気に関係なく上げるべきである。消費税が経済に悪影響を与えるのは当たり前であるが、増税しないと財政に対する信頼が失われ、金利が高騰する。そのほうが日本経済へのダメージが大きい」

 慶應義塾大学准教授の小幡績も、1992年に大蔵省に入り1999年に退官した。短い在職期間だったが、財政均衡主義にどっぷりと染まった。彼はこう言う。
「「日銀が国債を買えば大丈夫だ」「国全体のバランスシートは問題ない」「MMT(現代貨幣理論)は有効だ」「インフレが起きてないから大丈夫」などと完全に誤った主張をするエコノミスト、有識者たち、いや有害な言説をまき散らす人々を論破することが、唯一日本を救う道だ」

 財務官僚は通常、人を「呼びつける」事が基本だ。しかし「布教活動」の際には自ら出向く。財務官僚が自ら出向く……そこには必ず何かしらの意図があった。
 この布教活動のターゲットにされた政治家の一人が、野田佳彦元総理だ。民主党が政権を奪取した2009年の衆議院選挙で、野田氏はこう語った。
「消費税5%は12兆6000億円。消費税5%ぶんのみなさんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているんです。それなのにシロアリ退治しないで、今度は消費税を引き上げるんですか?(中略)シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めれば、消費税を引き上げる話はおかしい。徹底して税金の無駄使いをなくすのが民主党の考え方です」

 野田佳彦は当初、消費税増税に反対していた。とことが財務副大臣に就任すると態度が一変。財務省による「ご進講」あるいは「ご説明」を受け、教義を刷り込まれていった。財務副大臣ともなれば、朝から晩まで財務官僚による布教が続く。たった1年で、野田は信者を超え、教団幹部へと変貌した。
 2011年8月、野田佳彦が民主党代表に選ばれ、総理に就任すると、本領を発揮する。2012年6月には、民主・自民・公明の実務者間協議で社会保障改革と財源確保のための消費税増税に合意。いわゆる「三党合意」である。
 さらに三党幹事長会談により「三党確認書」が作成され、消費税率を2014年に8%、2015年には10%へと引き上げる方針が決まった(実際の10%引き上げは2019年に延期されたが、決定は覆らなかった)。
 しかし、増税によって医療・福祉・年金などの制度が改善されることはなく、むしろ悪化。結局、増税分は使途不明のまま吸い取られただけだった。
 野田佳彦だけではなく、前任の菅直人も元は消費増税に慎重だったが、総理になると一転して増税路線を取り始め、選挙で民主党は過半数割れ。選挙前に増税を主張すれば惨敗するのは当然だが、彼が発言したのはザイム真理教によるマインドコントロールの結果だった。

 安倍晋三元総理は、自身の著書『安倍晋三回顧録』でこう述べている。

 時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気をよくする、といった訳のわからない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです。

 2023年4月の「週刊現代」は「財務省の岸田さん調教テクニック」という興味深い記事を掲載した。引用しよう。

 総理官邸にも出入りする、学識経験者のひとりは言う。
「いまの岸田総理は、目が据わっている。『皆は批判するだろうが、俺はやる。たとえ国民が嫌がっても、必要な政権を実行する宰相になるんだ』という美学というか、一種の自己陶酔を感じます。その自己陶酔は、財務官僚たちからにじみ出ているものと同質です」
(中略)
 財務官僚が政治家を篭絡する手口として有名なのが、「ご説明」と称する洗脳兼諜報活動である。省の中枢、主計局と主税局の課長以上の幹部が永田町の議員事務所を訪れ、「日本は借金まみれで危機的状況です」「少しでも改善するには、増税しかない」「賢明な先生ならわかっていただけるはずだ」と説く。議員が反論してきたら、即退散。「なるほど、それは大変だ」と頷いたら「リスト」に入れる。
(中略)
 財務官僚の最大の特徴は、増税を心の底から「正義」と信じてやまないことだ。税と徴収の再配分こそ、国家権力の礎、日本一優秀な我々が、規律を守ってカネを回すことこそが、日本の繁栄に繋がる――彼らは本気でそう信じているのである。岸田総理は宮沢税調会長を筆頭に、そんな「正義」を熱く語る秀才たちに青年時代から取り囲まれてきた。だが一方で、そうしたエリートたちの輪に入ることに失敗し、屈折を抱えているものもいる。そんな総理が今、東大受験の失敗以来、最大の「人生逆転のチャンス」を迎えている。ずっと「俺たちなんて足下にも及ばない」と思ってきた天下の秀才たちが、「あなたにしかできない大仕事がある」と、こぞって頭を下げに来るのだ。内閣支持率が危機水準に入る極限状況の中、こうした「ゆがんだ使命感」に岸田総理が目覚めてしまっているのだとしても、不思議ではないだろう。

 ここからは、ザイム真理教の「カルト教団」としての特徴を掘り下げていこう。

 普通の宗教は、プラスの説教をメインに、マイナスの説教を補足的に使う。たとえば「お祈りを続ければ天国に行けますよ」という説教の横で、「嘘をついたり、他人を騙したりしたら地獄に落ちますよ」という教義を添える。これは嘘である。しかしこの嘘(信仰)を守れば、社会秩序が保たれる。嘘も方便、信仰も役立つ部分が大きい。
 たとえば秋田のなまはげは、子供たちに「悪い子いねがー!」と迫り、「親の言うことはよく聞くんだぞ!」「ものを盗むなよ!」「悪いことをすると俺たちが来るぞ!」と徹底的に脅す。この文化を理解できない人は「児童虐待だ!」と驚きそうだが、この体験があるから、社会秩序を守ろうという意識が生まれる。
 こうした教義はどんな宗教にも共通している。仏教でもキリスト教でもイスラム教でも、教えを守ることで社会秩序や道徳観の形成に寄与してきた。
 ところがカルト教団は、マイナスの説教を軸とする。
「あなたには悪霊が憑いている」
「あなたは原罪を抱えている」
 と不安を煽り、恐怖心を高め、その上で献金を求めたり、壺を買わせたりする。信者から巻き上げたお金で贅沢暮らしをする……これがカルト教団の典型的手口である。

 このカルト教団の構造と、財務省=ザイム真理教のやり口は酷似している。実例で見てみよう。
 まず財務省は「財政均衡主義」という教義を作り、「日本の財政は破綻寸前だ!」と国民を脅す神話を創造した。
 その教義と神話の実態を知るには、財務省が一般向けに発行するパンフレット『これからの日本のための財政を考える』を見てみよう。

財務省のサイトより。

 パンフレットはこのように始まる。

「高齢化が急速に進み、社会保障関係費は年々増加しています。一方、財源は確保できておらず、子どもたちの世代に負担を先送りし続けています。現在、この先送りの状況を打開し、持続可能な仕組みを次世代に引き渡すために、様々な取り組みを進めています」

 いきなり財政均衡主義の教義が登場する。「日本の財政赤字は深刻で、それを子どもたちに先送りしてはならない」という主張が基本原理として語られ、赤字解消の手段として消費税を引き上げるしかない……と話が進んでいく。
 その教義を裏付けるデータとして、
①税収を大きく上回る歳出により、財政赤字が拡大している。
②結果、日本の国債残高は先進国中でも突出している。
③財政赤字の放置は、将来世代への負担の先送りになる。
④国債の信認失墜は、通貨・金融にも悪影響を与える。
⑤社会保障費が増大する以上、全世代で公平に負担すべき。
 以上のような理由で増税は必要である……と教義が解説されていく。

 こうした教義は、一見まともな財政論に見える。しかし巧妙に仕組まれた罠があるのだ。
 パンフレットには図解も多く、直感的に「財政危機だ」と思わせるよう工夫されている。次のような図を見てみよう。

「普通国債の残高は、急速に拡大してきていて、すでに1029兆円。これは赤ちゃんまで含めた国民一人あたり823万円者借金を抱えていることになる」
 ……こう言われれば、誰もが「大変だ!」と驚く。
 しかし日本はそんな莫大な借金を抱えているわけではない。なぜなら日本政府は、世界でも例を見ないほど膨大な「資産」を保有しているからだ。

 これは財務省が「国の財務書類」として公表している2020年度末の連結貸借対照表だ。連結とは、国だけでなく、国立病院や国立大学などの組織も含まれる。
 日本政府は「国債」として987兆円の借金があるが、借入金・未払金を加えると、負債総額は1661兆円になる。これが広い意味での「国の借金」となる。
 一方、資産面を見ると、現預金や有価証券といった流動資産が841兆円、土地や建物といった固定資産が280兆円、合計で1121兆円もの資産を保有している。これほどの国家資産を持つ国は日本以外にない。
 つまり、日本政府は借金も多いが、それに見合う資産も保有しているということだ。
 負債1661兆円から資産1121兆円を差し引くと、資産負債差額は540兆円。これが本当の借金だ。2020年度の名目GDPは527兆円だから、借金のGDP比は約102%。これは先進国ではごく普通の水準であり、日本財政が国際的に劣っているとは言えないのだ。
 また、国民一人あたり1329万円の借金……と言われるが、政府は国民一人あたり897万円の資産を持ち、その約7割は流動性資産だ。つまり資産を差し引いた純粋な借金は432万円に過ぎない。

 こうした負債の見方に対して、財務省の反論は「資産と言っても売れないものばかりなので、資産を差し引いたネットで負債を見るのは間違っている」というものだ。
 しかし本当に売れない資産ばかりなのだろうか?
 例えば政府が保有する有価証券の最大のものは米国債であり、100兆円以上を保有している。米国債は世界で最も信用力と流動性が高い債券だ。これが売れないというなら、もはやどんな債券も売れないということになる。
 財務省はまた、固定資産も売れないと主張している。たとえば道路や庁舎は売れないだろうというのだが、実際にはいずれも売却可能だ。
 イタリアがEU加盟時に、EUから借金が多すぎるとクレームを付けられ、高速道路の親会社を株式会社化し、その株式を売却することで債務を圧縮した例もある。
 日本でも同様のことは可能だ。
 実際、高速道路はすでに民営化されており、形式上は株式会社だ。その株式を国が100%保有しているだけで、売ろうと思えば売却は簡単だ。
 また、売却したほうがよい不動産も存在する。国家公務員住宅や議員宿舎でだ。ILO(国際労働機関)は社宅が思想統制に繋がるとして提供しないよう勧告している。民間企業の社宅は今やほとんど姿を消したのに対し、公務員住宅は依然として残っている。
 なぜかといえば、家賃が安いからである。
 例えば赤坂の議員宿舎は地上28階建てタワーマンションで、82㎡3LDKという好物件でありながら、家賃は月12万4652円。周辺相場の5分の1だ。
 森永卓郎さんは政府の資産を精査したが、本当に売れないものは国際機関への出資金くらいだったという。
 もちろん、これらを実際に売却しろというわけではない。あくまで「政府の借金」をグロスでなく、資産を差し引いたネットで見るべきだという主張である。1000万円の借金をして、それをそのまま預金している人が「借金で首が回らない」というのは、あまりに不合理だ。
 話はここで終わらない。実は日本政府が抱える「本当の借金」は、ほぼゼロに近い。資産負債差額が2020年度末で540兆円あるが、そこに日本政府が得ている通貨発行益の532兆円を加えると、最終的な純債務はわずか8兆円にすぎないのだ。

※用語説明 グロス 英語で「総額」「合計」という意味。
この場合、「政府の借金の総額(グロス)」とは、政府が発行した国債など、一切の負債の合計金額を意味している。
ネット 「差し引き後の金額」「純額」のことを指す。
つまり借金(負債)から差し引いたあとの金額を「ネットの借金」と呼ぶ。この本の場合、借金を総額で見るのではなく、資産から借金を引いた額で見よ、という意味となる。

「通貨発行益」とはなにか? これを掘り下げていこう。
 新たに通貨を発行すると、発行者が利益を得る。これを通貨発行益という。
 たとえば、あなたが通貨発行権を持つ絶対的権力者だとしよう。紙に1万円と書いて印鑑を押すだけで、それを1万円として流通させられる。これで1万円分の商品を手にすることができる。これが通貨発行益だ。
 たとえば、政府が「1億円玉」を製造・販売する場合、コストがわずかなので、ほとんどが利益となる。しかし現実には行われない。高率のインフレを招くからだ。過去の失敗により、こうした方法は制限されている。
 冗談はさておき、日本銀行券は単なる印刷物ではなく、資産の裏付けがある。日銀は資産と引き換えに日本銀行券を発行する。資産は株式でも不動産でもよい。国が元利保証しているためリスクは小さい。
 ここで日銀が国債を買い、満期が来るたびに借り換えを続けたらどうなるか?
 元本返済の必要がなくなり、政府は利払いのみを行う。しかしその利息も、日銀の経費を除いて国庫に戻るため、実質的に借金は消えるのだ。
 もちろん、日銀が国債保有を減らせば借金は復活するが、基本的にその保有量は増加傾向にあり、大きな懸念にはならない。
 日銀が国債を買った瞬間、政府はそのぶん返済義務を失う。森永卓郎さんはこれを「通貨発行益」と呼んでいる。

 通貨発行益の活用が最も行われたのは、太平洋戦争の時だった。戦費調達のために戦時国債が発行され、国民に購入が奨励されたが、疲弊していた国民に購入余力はなかった。
 そのため政府は日銀に戦時国債を引き受けさせた。記録は不明だが、戦費はGDPの9倍程度だったから、今の物価で5000兆円程度とされる。
 政府が発行した国債を中央銀行が直接引き受けることを「財政ファイナンス」と呼ぶ。これは国債消化が困難なときに用いられるが、副作用もある。
 ひとつは物価上昇、2つめは国債価格の下落、3つめは通貨の下落である。

 戦中・戦後には悪性のインフレが発生した。1935年から1947年で物価は109倍にもなった。年平均の物価上昇率は43%だ。
 だがハイパーインフレ(年率1000%)には至らなかった。戦後日本は破綻状態ではあったが、完全に制御不能ではなかった。
 このことからも、現代でも日銀が5000兆円分の国債を保有すれば悪性インフレが確実に起きることが予想される。現在の保有額は500兆円なので、まだ余裕があると推察できる。ただ、限界は不明だった。
 そこに登場したのがアベノミクスである。
 アベノミクス3本の矢は、
①金融緩和
②財政出動
③成長戦略
 であった。
 2012年12月、安倍晋三元総理は白川方明日銀総裁と会い、2%インフレターゲットと日銀との協定を提案した。
 翌年、白川氏に代わり黒田東彦が日銀総裁に就任し、「異次元の金融緩和」を開始。政策実行のため、年間80兆円規模で国債を購入した。
 2016年までその政策は継続され、税収を上回る国債発行が行われたにもかかわらず、高インフレも、為替暴落も、国債の暴落も起きなかった。この事実は世界の経済学界に衝撃を与えた。
 インフレ率が目標物価率よりも低ければ財政支出を拡大し、超えたらブレーキをかける――という理論が証明された形だ。
 財務省は相当焦っただろう。「財政均衡主義」というザイム真理教の教義が、明確に否定されたのだから。

 「通貨発行益を活用すると、無駄遣いが増えて、日本経済がダメになる」という理論も実は弱い。
 国の予算は政府提案を国会が審議し決定するため、無駄遣いがあれば政権支持率が下がり崩壊しかねない。
 また、日本は教育や年金などの公的支出が先進国最低レベルで、財政に余裕があるならばむしろ充実させたほうがよい。

 通貨発行益に反対する人は「日本経済が突然死する」と主張する。
 たとえば小幡績は2021年11月、「日本の財政破綻は避けられない」とし、日銀の国債直接引き受け報道があれば、為替・債券・株式市場が暴落し、最終的には金融市場の取引が停止すると述べた。
 小泉政権時代の元金融庁顧問であった木村剛も、「インフレターゲット導入を導入すると、ハイパーインフレとなり、庶民の生活が破壊される」と警告した。さらにモルガン銀行元日本代表の藤巻健史は「長期金利が1%上昇するだけで日銀は債務超過に陥り、決済機能を失って市場は停止、日本経済は崩壊する」と主張した。
 だが2022年、オーストラリア準備銀行が債務超過に陥った。オーストラリア準備銀行のブロック副総裁は「政府が負債を保証しており、中央銀行にはお金をつくる能力があるので、破綻はしない」と発言し、実際に何も起きなかった。藤巻氏はその後、日本とオーストラリアは違うのだ、と主張を修正した。

 財務均衡主義はプライマリーバランス(PB・基礎的財政収支)を重視する。政府は2025年度のPB黒字化を目標に掲げていたが、2020年のコロナ対策により大幅な赤字に転じた。すると財務省はそのデータを公表しなかった。確認には2022年の経済財政諮問会議資料が必要だった。
 それによれば、2020年度は80.4兆円、2021年度は31.2兆円の赤字。岸田政権は赤字を49兆円削減したが、そもそもPB赤字でも金融市場には何の影響もなかった。世界各国もコロナ対策で同様に巨額の財政出動を行ったが、どの国でもハイパーインフレは起きなかったし、国債・為替暴落も起きなかった。
 財務省のパンフレット『これからの日本のために財政を考える』には、財務相がよく使う「ワニの口」が掲載されている。

※「ワニの口」の嘘がバレてしまったために、最新版ではワニの挿絵は省略されている。

 税収が伸び悩む中で歳出がどんどん拡大していく……そのグラフがまるでワニが口を開けているように見える……という図だ。このまま行けばワニの口がさけてしまう……という恐怖を煽るためにつくられたが、コロナ対策によってワニの口にはまだまだ余裕があることが証明されてしまった。
 2020年度末の国債発行額は109兆円。国の借金は前年度比102兆円も増加したが、何も起きなかった。

 2019年10月の消費税率10%引き上げを受けて、財務省はホームページに次のようなコメントを掲載した。

「社会保障制度の財源は、保険料や税金だけではなく、多くの借金に頼っており、子や孫などの将来世代に負担を先送りしています。少子高齢化が急速に進み、社会保障費は増え続け、税金や借金に頼る部分も増えています。安定的な財源を確保し、社会保障制度を次世代に引き継ぎ、全世代型に転換する必要があります。こうした背景の下、消費税率は10%に引き上げられました。
(中略)
消費税の引き上げ分は、すべての世代を対象とする社会保障のために使われます」

 財務省は「社会保障は消費税でまかなうべきだ」というのが主張だ。この主張とともに、各国消費税率比較が掲載されている。

 この国際比較を見ると、日本の10%の税率はまだまだ低い――ように見える。
 しかしこの比較グラフには重要な国が抜けている。アメリカだ。アメリカに消費税や付加価値税は存在しない。それはグラフ下の細かい脚注のなかに書かれているが、ふつうの人はそこまで読まない。その中を見ても、複数の州で小売売上税すらないことも書かれていない。

 そもそも、社会保障を消費税でまかなうこと自体が間違いだ。
 財務省は社会保障財源として消費税を充てる理由を、
①税収が景気や人口構成の変化に左右されにくく安定している。
②特定の世代に負担が集中せず、経済的に中立的だから。
 としている。
 しかしそれは、現役を引退した高齢者からも金を巻き上げる、ということにもなる。
 財務省は重要な視点を隠している。そもそも日本の社会保障制度は、社会保険制度が支えてきた。その制度は労使がともに支えるのが基本だ。保険料の半分は企業が負担する。ところが消費税は、すべての消費者が負担する。そこで消費税財源化は企業の負担逃れに繋がる。
 それでもザイム真理教は消費増税に邁進する。なぜならそれ自体が教義だからだ。

本の感想文


 ここまでが森永卓郎さんの著書『ザイム真理教』の前半部分の要約です。お話しはまだまだ続くし、核心部分はむしろここからなので、興味のある人は実際の本をお読みください。

 話題の本『ザイム真理教』だけど、ブログに採り上げるには相当に勇気のいること……。というのも、公に財務省批判をすると、本当に抜き打ちの税務監査が来るから。大手新聞社が財務省批判をまったくやらず、むしろ財務省批判をする著名人を叩くのはそのため。みんな過去に財務省に抜き打ち監査を受け、その後財務官僚からの「ご説明」を受けて、洗脳を受けている。今や大手マスコミで表立って財務省に立ち向かってやる……なんて人は一人としていない。
 この手の話、「ネット上の都市伝説でしょ」とか「陰謀論だ」とか思っている人も多いだろう。でも本当の話。
(「陰謀論だ」……という意見自体、財務省が広めている)
 こちらの動画を紹介しましょう。

『国税に納税拒否されて突然逮捕。理不尽で目覚めた日本政府の闇とは!?』

 青汁王子……ってぜんぜん知らないけど、あるとき突然国税局の役人がやってきて、税の申告漏れがあります、と通告を受ける。それもいってしまえば「難癖」と言えるようなもので、「だったらそのぶん払いますよ」と言っても受け付けてもらえず逮捕。さらにその逮捕をマスコミに大々的に報道させる。しかも報道の中で「とんでもない脱税をして豪遊をしていた」というストーリーに書き換えられてしまった。
 どうして突然……それは財務省批判をやった直後だった、という。
 財務省批判をすると、本当にこういうことが起きる。だから新聞社も出版社も財務省批判だけはやらない。財務省は税務監査の権限を持っており、難癖を付けて誰でも逮捕できてしまうからだ。おまけにマスコミとも太い繋がりを持っているので、著名人をこうやって「晒す」ことも平気でやる。だから怖い。
 森永卓郎さんも、本書『ザイム真理教』を書いた後、なじみの出版社に持って行ったが出版拒否。それからいろんな出版社を回ったが、どこも拒否。「財務省だけは敵に回したくない」……みんなビビって森永卓郎さんの原稿を手に付けようとはしなかった。
 それでようやくOKを出してくれたのは、三五館シンシャという、編集長が一人でやっている出版社だった。「自分一人だけだから、逮捕されても誰にも迷惑かからない」というアナーキーな編集長だったからこそ、実現した本だった。
 『ザイム真理教』は数十万部売り上げるベストセラーになったが、しかしそれだけの本であるのにテレビ・新聞はこの本の存在を完全に無視。それどころか、大々的に批判特集記事を作る新聞社が出てくるくらいだった。財務省からしてみれば、それだけ「知られたくない本」だった。

 そういう曰く付きの本なのだけど……私、大丈夫かな……。

 本書の表紙を見ると「ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト」と書かれているけれど、これはどういう意味なのか?
 新聞やテレビを見ると、頻繁に「日本の財政は危機的状態だ!」「このままでは将来世代にとんでもない負担を押しつけることになる!」「だから消費増税で、痛みを分け合うんだ!」といった報道が出てくる。立派な肩書きをもった著名人の解説が必ずセットでついてくる。本文紹介のところで「国民一人あたり1300万円の借金が」という部分を採り上げたが、これも財務省によるアオリ。
 カルト教団はまず人の「不安」を煽り、「私たちのお札や壺を買えば危機は回避されますよ」と誘いかけて、徐々に洗脳し、信者にし、金だけを吸い上げるシステムの一部にしてしまう。財務省がやっていることはカルト教団の手口そのものだ。
 「私は別にザイム真理教の信者じゃないけど」と言う人も多いと思うが、気がつかない間に潜在的な信者にされてしまっている。それがザイム真理教の怖さ。
 アンケートを採ると、「日本の財政危機を回避するために増税やむなし」と考える日本人は7~8割。1億数千万人の人口がいて、そのうちの7~8割だから8000万人がすでにザイム真理教の潜在的信者になっているということである。だから「信者8000万人の巨大カルト」ということになる。これだけの人々が財務省の嘘に騙されている。このことを告発するのがこの本だ。

 それにしても財務省はどうしてこれだけの巨大な影響力を持つことができるのだろうか。それが「ご説明」。財務省はありとあらゆる場所に人を派遣し、「ご説明」をやる。新聞社や著名人や政治家だけではなく、アイドルや芸人……どんな人の下にも訪れる。
 森永卓郎さんはテレビ出演するときに、いろんな人に「財務省からのご説明は来たか?」と尋ねて回ったそうだが、テレビに出ているアイドルや芸人のところにも財務省の役人は来ていたそうだ。来なかった……という人は「社会的影響力がない」と判定された2流3流タレントだった。
(財務省のご説明が来なかった人たちは「残念だったね」……と言うべきか?)
 財務省はかなり以前から、テレビ関係者への「ご説明」に力を入れており、頻繁に人を送り、積極的に洗脳活動を行っていた。報道内容にも影響を与えることもできるので、青汁王子の件も財務官僚が演出したものだった。

 私は2008年ごろ、麻生太郎が総理大臣だった頃は熱心に支持していた。あの頃の麻生太郎はテレビから猛烈なバッシングを受けていた。財務省の意向に反していたからだ。すでに書いたように、財務省はマスコミに影響力を持っているから、麻生太郎に関する様々なバッシングをするよう仕向けていた。
 その後、麻生太郎は2012年安倍内閣で副総理兼財務大臣に就任する。財務省に直接干渉する役職で、私はその後の活動に期待した。ところがその後、何かがおかしくなった。
 はっきりおかしいと確信したのはだいぶ後、コロナウィルスが蔓延していた時期に「給付金は貯金に回るから効果がない」と発言したときだ。以前の麻生さんなら、そんなことは言わなかったはず。
 あるとき、元内閣官房参与の藤井聡さんが動画番組で話していたことだが、麻生太郎に面会し、相談をしに行ったことがあったのだが、その麻生太郎の周囲には財務官僚数人がべったり張り付いていたという。それで、こちらが話しかけても、側にいる財務官僚は「違いますよ。本当はこうです……」と耳元でささやく。それを聞いて麻生太郎は「そうか、そうか」と頷く……という感じになっていたそうだ。
 こっちの話はなんにも聞いてくれない。説明しても、すぐに財務官僚が耳打ちして修正してしまう。
 ……洗脳じゃないか。この話を聞いて、私は怖くなった。
 財務省は相手をコントロールするためなら何でもする。財務省の一声で、テレビ・新聞を動員させてたった一人を叩きまくる……ということもできる。事実2008年頃はこの方法を使い、麻生太郎を叩きまくっていた。
 2012年以降はやり方を変えていた。こちらの懐にきたのだから、全員で囲んで洗脳してしまおう。麻生太郎が副総理になってから、マスコミの批判が急に落ち着いた……ということにも疑問を感じていたけど、まさかそういうことが内側で行われていたとは……。

 ホリエモンこと堀江貴文の意見もどこかおかしい……ということにみんなは気付いているだろうか?
 もう一つの森永卓郎さんの著書である『書いてはいけない」のほうに書かれている内容だが、

「最近、消費税アップとかインボイスとか増税に関して文句ばっかりいうやつがいるんですけれど、正直みんな表向きのインボイスとかそういったものに踊らされて減税しろ、減税しろなんて言うんだけども。財務官僚の人たちともお話しする機会があるんですけれども、そういったところでいろいろ見えてきたものをまとめてお話ししたいと思います」

 こちらは堀江貴文のYouTube番組で語られたものを書き起こしたものだ。お話しはまだまだ続くのだけど、この部分だけでも重要なことを口走っている。
「財務官僚の人たちともお話しする機会が」
 つまり「ご説明」を受けていたのだ。
 堀江氏はロケットベンチャー企業を立ち上げており、そこで財務官僚からのご説明が来ていたようだ。
 私もインボイスで騒動になっていたときから、堀江氏の意見がおかしい……と気になっていた。インボイスは明らかな悪法。堀江氏はこういう権力の横暴に対してはいつも反抗的な立場を取っていたはずなのに、インボイスだけは賛成派。それどころか反対する人々に対し「着服だ!」と非難する。
 堀江氏はカリスマ性を持った人なので、多くの“信者”を抱えている。信者は教祖の言うことは無条件に、盲目的に信じる。堀江氏が「インボイス反対は着服だ」と発言すると、その後、様々なニュースサイトのコメント欄で堀江氏の口ぶりをマネして「着服だ!」と書き込む人が大量発生した。財務官僚が社会的影響力の強い人の下へ積極的にご説明に向かうわけである。一人を洗脳したら、その下についている全員をまとめて信者にできる。財務省は明らかにそれを狙っている。
 ここで恐ろしいのは、堀江貴文のような知性的な人間ですら、財務省のご説明を受けると洗脳されてしまうこと。経済に関するかなりしっかり知識をあらかじめ持っていないと、だいたいの人はコロッと騙され、ザイム真理教の信者にされてしまう。かなり頭がいいと思われる人ですら、ご説明は効いてしまう。財務省の「ご説明」はそれくらい強力なものなのだ。
(ホリエモンの場合、1回逮捕されてるから、財務省が一番ヤバいところで、そこからの意見には逆らえない……というのもある)
 アイドルや芸人なら、簡単に洗脳される。テレビや新聞は完全に押さえられているから、ザイム真理教の力はとてつもないものになっている。

 財務省にまつわる問題をいろんなところで聞いている最中で、私が真に寒気を感じたのは、財務官僚は実は「日本は財政健全化を目指さなくてもよい」……ということを知っているらしい、ということだ。
 よくよく考えるまでもなく、財務官僚になる人、というのは私たちとは比較にならないくらい超優秀な人々である。そうした人々が、この本に書かれているような理屈が理解できないわけがない。
 いろんな人の話を聞いたり読んだりしていると、財務官僚は明らかに“本当のこと”を知っている。
 それでも財務官僚は、「ご説明」でいろんな人のところを周り、嘘を広げて回っている。なぜなのか。それは「省内のルール」だから。
 財務省に所属していながら、省内にあるルール以外のことをうっかり口にして上司に聞かれたら、あるいは行動に移してしまったら……その瞬間、出世コースから外され、地方に飛ばされる。財務官僚とて、養うべき家族がいる。自身の立場がある。それで、次第に頭でわかっていても省内の教えを広めるべく行動するようになり、するとだんだんその考えにも染まってくる。財務官僚は「ご説明」によって信者獲得に力を入れるが、その前に、あるいはその過程で、自分自身も信者となる。
 教義に反する者は仲間内でも徹底的に攻撃する。そうでなければ洗脳する。……やっていることが完全にカルト教団だ。その中で生きていくために、財務官僚は次第に「優秀な幹部」を目指すようになっていく。
 財務省はあの手この手で様々な税制を「発明」する。なぜなら新しい税制を作り、法律化させたらその人は省内でレジェンドになる。みんな「勲章」がほしい。ただのいち官僚ではなく、名前を残したい。消費税は露骨すぎて反感を食うから、一般の目線ではすぐにそれだとわからないところで引き締めを強くする。いわゆる「ステルス増税」だ。
 インボイスなんかは、そうやって発明された税制の一つだ。現にインボイスは、「いよいよ施行になりますよ」という段階でやっと表沙汰となり、大騒ぎになった。誰もどういうものかわからなかったからだ。やっとインボイスの正体に気付き、反対運動が始まった頃にはすでに時遅し、正式な書類が提出され、撤回できない状態になっていた。
 この件は元漫画家で現在国会議員である赤松健さんも漫画の中で描いている。赤松さんは国会議員となった後、インボイス撤回に動いたけれども、すでに動かせない状態になっていた。

 こういった話は財務官僚だけではなく、官僚全体にある傾向らしい。政治に関わる組織の一人になると、みんな引退までになにかしらの大きな勲章がほしい。なんでもいいから、国の法律に何かを書き加えた……という痕跡を作りたい。それで、時々「なんだこれ?」という奇妙な法律がいつの間にか施行されることがある。あれはそういうことらしい。私たちの生活はそういう官僚の自己顕示欲によって振り回されている。

 もしもダメな法律で、社会によくない影響を与えるならば、撤回すればいい、お試しでなんでもやればいいじゃないか……。実際、海外ではお試しで一定期間特殊な制度を実施することはある。
 日本は明らかにダメ制度であっても、撤回するまで何年も何年もかかってしまう。お試しどころではなくなってしまう。
 こうなってしまう理由は、「あの先輩の作った制度だから、みんな遠慮して手をつけられない」……そういうことらしい。制度変更までやった官僚というのは業界内でレジェンドだから、引退するかお亡くなりになるまで、「俺の作った制度に手をつけるなよ」という睨みをつけるらしい。
 そういう理由で、どんなに訳のわからない悪法でも、日本でやるとなかなか撤回できなくなる。

 私が常々、現代日本人の多くは現実感が喪失している、と語っている。自分たちがどういう状況の上に立っているのか、誰も知らない。そういうことに興味も持たない。ほとんどの人は毎日のどうでもいいニュースにただ振り回される。
 最近、「令和の米騒動」といって米が手に入らない、値段も極端に高騰している……と大騒ぎをしているが、なにを今さら……。日本の食糧問題がヤバい、という話は十数年前から出ていた話。自分事として語らなかった結果、今こうなっている。
 「自分には関係ないよ」じゃない。現実の問題はいつか向き合わなければならない。日本人の多くは現実の問題から数十年、目をそらし続けた。その結果が今。これから様々なツケ払いのフェーズに入って行く。日本は確実に衰退していく。この状況から誰も逃れられない。
 ではなぜこうなってしまうのか? 私が推測として考えているのは、人間の認知能力の問題。人間は人間自身の知能を過大評価しすぎだが、実は思ったほど認知能力は高くない。私たちの社会は小規模血縁集団からはじまり、部族社会、首長制社会と発展させたが、首長制社会まで発展するとどんな人でもその社会がどんな構造で成り立っているのか説明できない状態になる。一人の人間が認知可能な範囲は、せいぜい自分が直接関係する家族や仕事仲間まで。それ以外の社会がどうなっているのか、自分とどのように関係しているのか、認識できなくなる。
 私たちの社会は、さらに複雑な国家社会だ。ここまで複雑になると、社会がどのように成り立っているのか、考えることすらできなくなる。なぜ電気が来るのか、なぜ水道から水が出るのか……もはや「疑問に思う」ことすらしなくなった、というのが我々現代人だ。「当たり前」「常識」……どれも「考えなくていい」とするためのフレーズだ。当たり前で常識だから、何も考えなくていい。そういう感覚の上で、私たちは生きている。
 こうした社会でもっとも危ういのは、「上流階級」の人々である。上流階級で生まれ、育ち、大人になると、なぜ自分がその立場にいるのか、それ以外の社会がどう成り立っているのか、本当に考えなくなる。疑問すら持たなくなる。そしてそれが「当たり前だ」と思い込むようになる。
 上流階級の人々の危ういところは、自分たちの行動や発言が社会に影響を与える立場だという自覚ができないこと。政治に関わる官僚になり、勲章ほしさに法律を一つ変えました……それで世の中にどんな影響があるか考えない。ただ勲章がほしい、目の前の誰かに勝ちたい。その欲求だけで邁進し、社会を破壊する。でもその結果を見ようとはしない。上流階級の人々にとって、「自分は関係ないよ」の世界だからだ。
 上流階級ほど、自分たちの足の下に広がる、大きな社会が見えない。現実が見えない。だから下々の人たちをどう扱ってもいいでしょ……と割り切れてしまう。
 人間は自分の見えている社会の、ごくわずかな周辺しか見えない。それが人間の限界。それは仕方がないことだが、だからこそ自覚せねばならない。人の上に立つ者ほど、この心得が必要なはずだが……。

 ちょっと蛇足になるけど、この話も載せておこう。
 より多く儲けている人は、より多く税金を支払っているからいいじゃない……とみんな思うでしょう。
 こちらの画像を見てほしい。

 こちらは深田萌絵さんのYouTube番組『政経プラットフォーム』の一場面。元動画はこちら↓

『財務省の増税政策が日本経済低迷の原因だ!』

 普段、どんな動画を見ているかバレるな……恥ずかしい。
 画面を見てほしいのだけど、大企業ほど、実は法人税を払っていない。大きな企業ほど、“賢く節税”をして、政府への支払いを小さくしている。例えば慈善団体への寄付とか、税免除を受けられる様々な手法を使い、合法的に支払うべき法人税を少なくしている。細かい手法は私にもわからないが、そういう様々な節税をやりまくって、数千億円の利益を出しているにも関わらず、税金をまったく払ってない。こういう手法は、より大きな資産を持っている人しか使えない、ある種の特権である。
 ところがこの問題が一般の目に触れることはない。そこにマスコミ関係者による忖度がある。
 そしてこういう大企業が、政府に対し「消費増税」の提言をしている。「自分たちから税を取るな。自分たちとは関係ないより多くの庶民から金を取れ」……と。
 私たちはこういう裏を知らず、浅いところでお互いを罵り合っている……こうやって権力者たちの掌の上で踊らされている、というのが我々だ。
 攻撃するのはお互いではなく、もっと上だ。そのことに気付かねばならない。

 2025年1月28日、著者である森永卓郎さんが死去した。つい先日の話である。
 この死を切っ掛けに、いろんなものが変わろうとしている。財務省周辺には今、連日のように人が集まり、デモが行われている。「財務省解体デモ」だ。正確には森永さんが死去する前から動きはあったらしいのだが、一気に拡大したのは森永さん死去後。
 もう黙っていられない。この本が、森永さんの死が、いろんな人を動かす切っ掛けを与えた。
 ではなぜ森永卓郎さんはこの本『ザイム真理教』を書こうと思ったのか。すでに知られている話だが、2023年12月末期ガンであることを宣告されたからだ。もうすぐ死ぬ。だったら、今まで話さなかったことを話そう。いろんなものに阻まれて、話せなかったことをいま話そう。そうして書き上げた本が『ザイム真理教』だった。
 その後の森永さんは精力的に活動された。『ザイム真理教』出版後はほぼテレビ・新聞から干された状態になっていたが、様々なYouTube番組に出演。本当に死の前日まで番組出演して、いま日本がどういう状況にあるのか、裏で何が行われているのか……語り続けた。
 それを聞いた人が、今おもてに飛び出してきて、意思を引き継ぐように「財務省解体デモ」に参戦している。
 私は田舎住まいだし、日々執筆で忙しいので、デモの参加はとてもできない。その代わりに、ブログに本の紹介を書こう。これが死の直前まで森永さんの姿を見ていた一人として、できることだと思った。


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