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ごつくて、やさしい人たちに囲まれて──東京都37回春季ベンチプレス大会

前回の記事で、世界王者のもとで修行します、と書きました。

一昨日、その第37回東京都春季ベンチプレス選手権に出てきました。


まず、減量。


エントリーしたのは74kg級。大会2週間前の体重は76kgだった。
2kgかあ、と思いつつ、結構心配だった。

ダイエットの難しさは身に染みている。
リバウンド経験も数えたらキリがないほどだ。

でも、やろう。1日1500kcal、たんぱく質は150g。
カロリーを絞りながら、筋肉だけは守る。言うは易し、、、なのだが──意外とできた。

目標があれば、体重は落とせるものなのか。

最後の数日は水分も絞り、計測は72.9kg。
我ながら、ちょっとびっくりした。


会場に入ったら、ひるんだ。


大会エントリー者、188名^^;
東京都大会としては、過去最高の規模らしい。

東京都パワーリフティング協会インスタより

いや、180名て。ベンチプレスの大会にそんな人が集まるのか。
ただバーベルを胸で挙げるだけの競技なのに、これはもう立派な祭りだ。
はじめて見る光景に、しばらく出口の方を向いてしまった。

さらに問題があった。

試技の前、1時間ほど、ウォームアップの時間がある。
みんなの前でバーベルを挙げるやつだ。
多くの目がある中で、自己申告で一人手を上げ、台に寝て、バーを挙げる。

これが、思いのほか、というか、やばすぎだろ。
いや、競技の本番より緊張したかもしれない。

でも、せっかくここまで来た。

清水の滝から飛び込む気持ちで、やってみよう。
減量だってできた。ウォームアップだって、できるはずだ。


もうひとつの挑戦。


もうひとつ、今日試してみたいことがあった。

話しかけること。

懇親会の端っこ族の僕が、知らない人に。
しかも、このごつい人たちに。

まず、東京都パワーリフティング協会の本部の方々に、、、
折を見ては、何人かにあいさつしてみた。

「はじめて参加します。よろしくお願いします」

笑顔で言ってみたら、笑顔が返ってきた。
ごつい体で、穏やかな顔で、いろいろ教えてくれた。

なんだ、そうか。そうだったのか。

心細いときほど、人の笑顔は沁みるものだ。
そのためには、こちらから話しかければよかったのか。

64にもなって、ようやくわかった。
遅すぎるとは思うけど、わかったのだからいい、ということにした。


調子に乗って、もう一歩先へ。


それだけじゃ物足りなくなって、思い切ってもう一歩踏み込んだ。

同じM3クラス(60代)74kg級に出る、ライバルの二人に話しかけてみた。

「僕も同じクラスに出ます。初出場で右も左もわからないのですが、よろしくお願いします」

笑顔でそう言ってみたら、怖そうだった顔が、すっと柔らかくなった。
「がんばりましょう」「わからないことあったら聞いてください」

そのうちのひとりは、とんでもない人だった。

M2(50代)で世界チャンプにもなった、この世界では名の通った選手。
150kgを挙げた、すごい人だ。
ちゃんと事前に調べていたから、知っていた。
その人が、ほんとうに、すごく、やさしかった。

ごつくて、やさしい。
ベンチプレスの世界って、そういう人がいっぱいいるのかもしれない。


そして足がつった。


計画は、105kg・110kg・115kgの3本。

いよいよ本番。

僕の組、約20名が列をなして順番を待つ。僕は6番目。
前後左右、ごつい人ばかりだ。
しかもカメラが回っている。アナウンスが流れている。
チームで来ている人が多いから、観客席にも応援の声がある。

これは、もはや、スポーツだ。
ジムでバーベルを上げ下げしていたあの感覚とは、まったく別物の何かだ。

順番が来て、台に向かった。
寝転がって、バーを見上げる。
静かになった。会場の音が、どこか遠くなった気がした。

1本目。バーは上がった。わりと軽かった。調子はいい。
が、そのとき、、、足がつった。

足が、つった。

僕の中では「え、今、ここで?」という叫びが上がった。

2本目。足をつりながらも、台に乗った。
気合で挙げた。
挙げたのだが、どうやらお尻が少し浮いてしまったらしく、赤旗。
ルール違反で、失敗の記録。

これは、やばすぎるぞ。
急遽、水を買って飲んだりしたが、間に合わない。

3本目の準備のとき、つりが全身に来た。
右腕も、ふくらはぎも、太腿まで、ぐぐっと収縮しはじめた。
しまいに、立っているのも厳しくなった。

これは、さすがに無理だ。
残念ながら、棄権。

自分の名前が呼ばれ、一分間待っているのを、悲しく見守る。

結果は、105kg。


実は、1本目が終わったあと、すぐに元世界チャンプに話しかけてみた。
「足がつってしまいました」と言ったら、一瞬も考えずに返ってきた。

「クレアチン、飲んでますか。それと、減量しましたか?」

一発だった。

クレアチンは筋肉の水分を引き込む性質がある。
水分を絞った状態で飲んでいると、筋肉が収縮しやすくなるのだという。
まさに、その日の僕の状態そのものだった。

原因も、対策も、知らなかった。
世界チャンプには、一発でわかった。
これが、経験というものか。

またひとつ、学んだ。


出場は3名。元世界チャンプは神奈川からの参加だったため、130kgを挙げたが、ランキング対象外とのこと。
もう一人の方は同じ105kgの記録、ただ体重が僕より軽い。
ということで──銀メダルをいただいて、帰りました。

ありがたい。
このメダル、大切にします。


帰路にて。


師匠の長谷川さんには、すぐLINEで報告した。

そして、宣言した。
自信がついた。秋の大会に出る。標準記録の120kgをクリアする。
来年1月の日本選手権に出場したいです、と。

帰りの電車では、スマホを切った。
車窓を眺めながら、この日の思い出を味わうことにした。

なぜか、とても心が満たされていた。
この日、何を得たか。振り返ってみた。

体重を、落とせた。
大会のお作法を、知れた。
105kgという記録が、残った。
銀メダルが、手元にある。
そしてなにより、、、人の温かさに、触れられた。

知らない場所で、知らない人たちが、いっぱいいた。
怖そうな顔が、やわらかくなる瞬間を、何度も見た。

話しかけてよかった。
飛び込んでみてよかった。

生涯の思い出に残る、いい一日でした。

内弁慶は、すこしだけ成長した気がした。

64歳、まだ変われる。
ベンチプレスが教えてくれました。



最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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斉藤 徹(とんとん)
だかぼく三部作 公式ページ:https://torusaito.com/
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