「バランスの低下」で終わらないために
「バランスの低下」
これも、よく書く。
よく書くし、
なんとなく意見として受け入れられやすい。
指導者も「まあ、そうだね」と流すことが多い。
だから、書いた本人も、それで何かを言えた気になる。
でも、立ち止まって考えてみてください。
「バランス」とは、いったい何のことだろう。
片脚立ちが続かないのも、
歩いていてふらつくのも、
振り向いたときによろめくのも、
椅子から立った瞬間にぐらつくのも、
ぜんぶバランスの低下と呼ばれる。
つまりこの言葉は、
姿勢が不安定に見えるあらゆる現象を、
一つの袋にまとめて放り込むための言葉になっている。
便利すぎる。
便利すぎて、
中に何が入っているのかを見なくても済んでしまう。
「筋力低下」のときは、同じ言葉でも中身が違うという話をした。
(下記の記事です)
バランスはそれより、もう一段やっかいで、
そもそも「何が崩れているのか」を一つに決められない。
支える力の問題か、
傾きを感じ取る感覚の問題か、
崩れたときに立て直す反応の速さの問題か。
あるいは、本人が怖がって体を固めているだけ、ということもある。
これらは全部「バランスの低下」と書けてしまうのに、
やることはまるで違う。
私も学生のレポートで
「バランスの低下」を見るたびに、
「それで、何が崩れてた?」と聞く。
多くの学生は、だいたいここで思考が止まっている。
これが悪いと言いたいわけではないです。
見ていなかったのではなく、
「バランス」という言葉で見たつもりになっていた
というだけのこと。
言葉が現象にフタをしてしまっている。
だから、検査を足す前に、
フタを開けなければなりません。
今日の「問い」。
あなたの患者さんが「バランスが悪い」と感じた、
その瞬間を思い出してほしい。
どこで、何をしていたとき、どんなふうに崩れたのか。
片脚になった瞬間か、動きの途中か、
止まろうとしたときか。崩れる方向は、いつも同じか。
「バランスが悪い」を、
「いつ・どの場面で・どっちに崩れるか」まで
言葉にできたとき、それはもう曖昧表現ではなく
観察になる。
そして観察になった瞬間、
次に確かめたいことが自分から見えてくる。
「バランスの低下」という表現は、
まだ何も見ていないという合図かもしれない。
その合図に気づけるかどうかが、最初の分かれ道。
この記事は、現場で使ってしまう
「便利だけど、何も言っていない言葉」を、
1つずつほどいていくシリーズの1本です。
「筋力低下」「バランス低下」「ふらつき」
——同じように、評価で止まりやすい言葉をほどいて、
評価から介入までを1本の手順にしたのが、
前のシリーズ「評価はできる。でも治療に迷う。」です。
最後は、どんな患者さんにも当てられる
思考テンプレート(書き込みワークシート付き)に
まとめています。
📚マガジン「評価はできる。でも治療に迷う。」
そして、もしあなたが「教える側」に立つことがあるなら
——学生が黙り込んだとき、どう問いかけるか。
実際のセリフを5場面ぶんまとめた記事もあります。
🗣「完璧な先生をやめると学生は話し始める」
(問いかけスクリプト集つき)
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