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教えるほど相手は考えなくなる

教えるのが、うまくなりたかった。

若手のころ、そう思っていた。
分かりやすく説明できる先輩に憧れた。
学生が「なるほど!」という顔をすると、
うれしかった。

だから、たくさん説明した。
噛み砕いて、順序立てて、たとえ話も用意して。
伝わるように、伝わるように。

でも、あるとき気づいた。
わたしがうまく教えるほど、
目の前の学生は、考えなくなっていた。

こういうことだ。
学生が、何かに詰まる。
わたしが、すかさず説明する。
学生は「分かりました」と言う。
次に詰まる。また説明する。また「分かりました」。

——このやりとりを繰り返すうちに、
学生は、詰まったら待っていればいい、と学習する。
自分で考える前に、答えが降ってくるからだ。

わたしは、教えているつもりだった。
でも、していたのは、その人が自分で考える機会を、
先回りして奪うことだった。
良かれと思って。
丁寧であればあるほど、深く。

これは、指導だけの話じゃないと思う。

後輩に仕事を教えるとき。
子どもに勉強を見てあげるとき。
患者さんに、こうすればいいですよ、と伝えるとき。
わたしたちは、相手のためを思って、答えを渡す。
渡すのが、親切だと思っている。
でも、答えを渡された側は、
その瞬間、考えることをやめる。
渡せば渡すほど、相手は、
こちらの答えを待つ人になっていく。

やっかいなのは、
これが「うまくいっているように見える」ことだ。
説明すれば、相手はうなずく。
その場は、進む。分かってもらえた気がする。
教えた側も、教わった側も、満足する。
だから、間違いに気づきにくい。
考えなくさせていることが、手応えの顔をしている。

じゃあ、どうすればいいのか。

答えを渡すのを、少しだけこらえてみる。
詰まっている相手を見て、すぐ説明したくなる。
その手前で、一拍おく。

そして、説明の代わりに、問いを返す。
「いま、どこで引っかかってる?」
「あなたなら、どうする?」

これは、こちらにとって、けっこう苦しい。
答えを言うほうが、ずっと楽だからだ。
問いを返して、相手が黙り込むと、気まずい。
その沈黙を、こちらが埋めたくなる。

でも、そこで埋めないで、待つ。
相手が、自分の言葉を探すのを、待つ。

うまく教えることを、少し手放す。
その分、相手が考える余白が、生まれる。

たぶん、いちばん教えているように見える人が、
いちばん相手の考える力を奪っていることがある。
そして、あまり教えていないように見える人が、
実はいちばん、相手を育てていることがある。

わたしはいまでも、つい説明したくなる。
答えを渡したくなる。そのたびに、一拍おく。
この一拍が、たぶん、
教えるという仕事のいちばん難しいところ。

うまく教えたい、と思っていたあのころの自分に、
一つだけ言うとしたら、

「あなたが黙ることも、教えることのうち」

と伝えると思う。


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そして、もしあなたが「教える側」に立つことがあるなら
——学生が黙り込んだとき、どう問いかけるか。
実際のセリフを5場面ぶんまとめた記事もあります。
🗣「完璧な先生をやめると学生は話し始める」
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トト|理学療法士 × 教員 今後の執筆活動に役立てたいと思います。