【あなたのくれたスイーツが、今日も苦い】第4章 「選んでいいよ。どっちでも君だけど」
第4章テーマは、ダブル・バインド(二重拘束)
ダブル・バインドは【相手に2つの選択肢を与え、どちらを選んでも自分の意図通りに導くテクニック。見た目は選択の自由があるように見えるが、実はどちらを選んでも“YES”になるように設計されている】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第4章 「選んでいいよ。どっちでも君だけど」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
「甘いのと……しょっぱいの、どっちが好きですか?」
放課後、くすの木のテーブルで。いつも通りの試食時間
僕は問いを投げかけた。すべては、この“選択肢”から始まる
「うーん……どっちも好きですね。でも“しょっぱい甘さ”が一番好きかも?」
想定外の第3の選択肢が返ってきた。さすがしのさん、ブレない
けれど僕はめげない。今日のテーマは「どちらを選んでも、YES」な選択肢で、気づかれずに心理的に引き寄せる作戦。そう、ダブル・バインド作戦だ
「じゃあ、“一緒に甘いのを食べる”と“しょっぱいのを半分こする”、どっちがいいですか?」
「え……選べませんっ! どっちも一緒にってことですか!? えっ、それって……デートですか?」
……しのさん、早とちりにもほどがある
「いや、これはあくまで味の好みを聞きたいだけで――」
「でも、今わたし、選択を迫られた気がして、ドキッとしちゃって……」
顔を赤らめてる。嘘でしょ。こっちの方がドキッとする
その日の帰り道。僕は自分の“作戦ノート”を見返していた
選択肢を2つに絞る。どちらを選んでも距離が縮まる。そう設計したはずなのに、なぜあんなに話が飛ぶのか
でも悪い気はしなかった。しのさんが楽しそうだったから。
「しのさんって、変な選択肢にも本気で乗ってくるんだよな……」
ふと、その言葉が口から漏れた
翌日、僕の言葉が予言だったことを知る
「今日のスイーツは、“野球ボール風チーズケーキ”と“バット型マドレーヌ”の二択です!」
ドヤ顔のしのが目の前にいた。手には、白球模様の丸いケーキと、やたら縦に長い焦げ茶の菓子
「……これは、何の流れですか?」
「今日は“ベースボール記念日”なんですよ? 甘い記念日には、甘いスイーツを♡」
ああ、なるほど。今日は6月19日、ベースボール記念日――って、そういうことじゃなくて!
「じゃあ……選んでください。ボールとバット、どっちがいいですか?」
あれ、これ逆に僕がダブル・バインドを仕掛けられてないか?
「どっちを選んでも……なんか、罠の気がするんですけど」
「ふふ、さっきの高嶺さんと一緒ですね。“どっちを選んでも嬉しいやつ”ってやつ」
まさか、しのに返された!? 僕の技術が逆流している
結局、僕はボール型のチーズケーキを選んだ。中に唐辛子チョコが入っていた
「ちょっと、ピリっとするでしょ? 恋もスパイスが大事なんです♡」
笑顔でそう言うしのに、僕は返す言葉を失った
どっちを選んでも、彼女にペースを握られる
でも、なぜかそのことが、今日はちょっとだけ嬉しかった
次の日、僕はノートの端に「反撃される覚悟も必要」とメモしていた
しのの昨日の逆襲――“バット型マドレーヌ”のビジュアルは、夢に出そうだった
でも、僕の計画はまだ終わっていない。今日こそ、僕の選択肢でしのの心を揺らす
そのために用意した二択は、こちら
①一緒に“期間限定メニュー”を食べに行く
②“試作スイーツの共同開発”に付き合う
どっちも一緒に過ごす選択肢。彼女がどちらを選んでも、距離は確実に近づく。完璧だ。今回は完璧
放課後、くすの木。席に着くと、しのがすでに僕の前にスイーツを置いていた
「今日は“静電気チョコプリン”です!」
「……えっ、何それ」
「食べた瞬間、びりっとくるんです。舌の上で、チョコとラムネが反発して!」
完全に発明の方向を誤ってる。けどもう驚かない。僕は今日、計画があるのだ
「……ところで、しのさん。今度、ふたつのどっちか、一緒にやりませんか?」
「わ、なんですか? なになに?」
「①期間限定メニューを食べに行く、②試作スイーツを一緒に考える。どっちがいいですか?」
しのは真剣な顔で数秒考えた。そして、
「じゃあ……“限定メニューのスイーツを、一緒に考えに行く”ってのは?」
「……え?」
「つまり、おでかけと開発をミックスしたやつ。たとえば“電車スイーツ”とか!」
完全に選択肢の枠をはみ出してきた
「でもそれって、②を選んだ後に①を足してません……?」
「ふふっ、だって、どっちも嬉しいって思ったんですもん。高嶺さんも“どっちでもYES”って言いたかったんですよね?」
まさか読まれていたとは。僕の顔がほんのり熱くなるのが分かる。
「ちなみに、“試作”って言ってましたけど、これ……もう作ってきたんです」
しのが取り出したのは、何かの粉末が詰まった瓶。ラベルには「すいーつのもと」と書いてある
「なにそれ怖い」
「これ、どんな味にも“甘さだけを残す粉”なんです。ゼラチンと粉ミルクと……秘密です!」
説明になってない。だが、まっすぐに僕を見てくるその目は、まるで「試してみて」と言っている
「じゃあ……かけてみます?」
「え、どこに?」
「今日の夕食に♡」
「家族ですか、僕たち」
結局その日は、店を出たあともしのに付き合い、スーパーで“かけても怒られなさそうな食材”を一緒に探す羽目になった
「じゃがいも……いけるかなぁ。いもようかんっぽくならないかなぁ」
「いや、いもようかんはさすがに甘い前提では……」
「大丈夫です、“すいーつのもと”があるので!」
なんだろう、この人。僕は笑いながら思った
選択肢は、僕が作ってるつもりだった。だけど今は、いつの間にか彼女の選択に乗っかっている
「高嶺さんは、わたしが選んだほうを、なんだかんだ“正解”にしてくれる人ですね」
「……いや、しのさんが選んだものが、結果的に正解っぽくなるだけです」
「ふふ、言い方がやさしい」
そして帰り道
夕焼けが差すなか、彼女がぽつりとつぶやいた
「選ぶって、ちょっと怖いけど、嬉しいですよね。ちゃんと受け止めてくれる人がいるって分かってると」
僕は、何も言わずにうなずいた。今日はもう、言葉を超えるものがあった気がした
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