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【君の歌声は二度恋をさせる】第2章 「当たってるような嘘」

第2章テーマは、バーナム効果(Barnum Effect)
バーナム効果は【誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格診断や占いを「自分のことだ」と信じ込む心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「当たってるような嘘」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

ホールの改修工事も大詰めで、俺はまたしてもリハーサルに足を運んでいた。舞台袖から聞こえてくる玲奈の声に耳を傾けながら、ポケットに忍ばせた雑誌を何度も開いた

現場帰りに買った安っぽい占い特集。星座別に性格診断が書かれていて、どれもこれも似たり寄ったりな言葉が並んでいる
けれど俺には、それが妙に頼もしい武器に思えた

リハーサルを終えて廊下に出てきた玲奈に声をかける

「今日もすげぇ声だったな。あのさ、俺思ったんだけど……お前って繊細だけど、意外と大胆な一面もあるよな」

玲奈は目をぱちくりさせた

「え……それ、当たってます!」

途端に表情がほころび、頬が少し赤らんだ

俺は胸を張って続ける

「だろ? 本番の舞台では細かいとこまで気を配ってるのに、時々思い切った表現で一気に空気変えるじゃん。ほら、まるで石橋を叩いて渡るのに、途中でいきなりジャンプするみたいな」

建築現場での比喩を混ぜたせいか、玲奈は思わず笑い声を漏らした

「石橋を叩いて……ジャンプ、ですか? ちょっと変ですけど、確かにそんな感じかもしれません」

さらに俺はページをめくり、別のフレーズを頭に浮かべた

「あと、お前は人に優しく接するけど、ときどき鋭い視線で相手を見抜くこともある。普段は微笑んでるのに、気づけば核心を突いてる。な、そうだろ?」

玲奈は驚いたように口元を押さえた

「え……それも、そうなんです。どうしてわかるんですか?」

俺は無言でニヤリとする。ポケットの中の雑誌がずっしりと重く感じられた

歩きながらも、次から次へと仕入れた言葉を投げかけた

「努力家でありながら、自由を求める心を持ってる」
「人に合わせられるけど、本当は自分のルールを大切にしてる」
「冷静そうに見えて、情熱を秘めてる」

玲奈は一つ一つに頷き、時に目を輝かせ、時に小さく笑った

「すごい……私のことをよく見てるんですね」

廊下を歩くたび、彼女の声はどんどん柔らかくなっていく
俺は真剣な顔を崩さず、雑誌から拾った言葉をまるで自分の言葉のように口にした

「人はな、舞台で光を浴びるときと、誰にも見られてないときとで全然違う顔を持ってるもんだ。でも、お前はその両方をちゃんと持ってる」

玲奈は立ち止まり、こちらを見上げて微笑んだ

「……私、そんなふうに言われたの初めてです」

廊下の照明が彼女の横顔を照らし出す。清楚で気品のある雰囲気なのに、嬉しそうに頬を染めている
俺は心臓がうるさいほど鳴っているのを感じながら、雑誌の存在を悟られないように背筋を伸ばした

――ポケットの中の紙切れが、まるで俺の背中を押してくれているようだった

その日の夜、俺はライブハウスにいた。熱気と煙で曇る視界の先、拳を突き上げる観客を煽る声が響き渡る

「もっと叫べぇぇぇ!」

ステージ中央で喉を潰さんばかりにシャウトしているのは、昼間あんなに気品漂う笑顔を見せていた白川玲奈だ
黒い革の衣装、髪は乱れ、汗に濡れた頬には凶暴な光が宿っている
同じ人間だとは信じられない。けれど間違いなく、彼女だった

ライブが終わり、打ち上げの席。狭いテーブルに缶ビールと唐揚げが山のように並び、バンド仲間たちは上半身裸で笑い転げている
その中で玲奈は脚を組み、ジョッキを豪快に煽った

「ぷはーっ! やっぱライブ後の一杯は最高ね!」

俺は意を決して口を開いた

「なぁ玲奈、お前って普段は優しいけど、内に爆発的な衝動を秘めてるよな」

テーブルの笑い声が一瞬止まった
仲間の一人が「それ、全員に言えるだろ」と突っ込む
だが俺は引かない

「いや、本当にそうなんだ。ステージじゃ叫びながらも、歌の合間に観客をじっと見据えるだろ? あの目は優しさと狂気の間で揺れてる。俺はちゃんと気づいてるんだ」

玲奈は思わず吹き出した

「……ちょっと待って。昼間も“繊細で大胆”とか言ってなかった? やっぱり同じことを言ってるようにしか聞こえないんだけど」

俺は一瞬言葉に詰まったが、すぐに胸を叩いた

「同じじゃねぇ。これは俺なりの解釈だ!」

仲間たちは爆笑し、ジョッキをぶつけ合っている
玲奈は髪を乱暴にかき上げ、にやりと笑った

「ふふ……でもね、そういうの嫌いじゃねえ。私のどこをどう見てるかって、真剣に言ってくれる人って少ないから」

俺の心臓はドラムのツーバスみたいに鳴っていた
彼女が笑っているのか、試しているのか、判断できない。けれどその目が俺を射抜くたび、身体の芯が熱くなる

「お前は――」俺は缶ビールを握り締め、声を張った

「お前は誰よりも観客を気持ちよく裏切るんだ。清楚な歌声を聴かせたかと思えば、次の瞬間には地獄の扉を蹴破る。だから皆お前に夢中になるんだ」

玲奈はしばらく黙って俺を見ていた。やがて肩を震わせて笑い出す

「……なにそれ。カッコつけてるのか、褒めてるのか、ただの酔っぱらいなのか。全部混ざっててよく分からない」

周囲の笑い声に飲まれながらも、俺はただ彼女を見つめた
玲奈はジョッキを置き、少し真面目な顔になる

「でも……“なんでわかるの?”って思っちゃった。あんたに」

その一言で、視界のざわめきが遠のいた
俺の耳に残るのは、さっきまでの爆音じゃなく、彼女の低く響く声だけだった

缶ビールの泡が指に伝う。喉は乾いているのに、声が出なかった
ただ、心の奥で一つの思いだけが確かに燃えていた

――この女に、もっと近づきたい――

自然と視線が交わり、彼女が再び豪快に笑ったところで、その夜は幕を閉じた

次章へ

↓最後に、第2章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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