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【星の力を借りて恋を紡ぐ】第2章 「はくちょう座に映す君とプロジェクション」

第2章テーマは、プロジェクション効果(Projection Effect in Romantic Contexts)
プロジェクション効果は【自分の感情や考えを、相手や状況に当てはめて解釈してしまう心理作用】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「はくちょう座に映す君とプロジェクション」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

またしても、妹の昴(すばる)に頭を下げる羽目になった。澄玲(すみれ)との二度目のデートをどうにかしてくれと頼むと、あの小悪魔はにやりと笑って指を二本立てる

「条件は二つ。まずは――限定プリン。また並んできて」
「……またかよ」
「そしてもう一つ。私の読書感想文を代わりに書くこと。提出期限が迫ってるの」
「自分でやれよ!」
「いやいや、今回の本は“澄玲先輩が好きな小説”なんだよ。これを題材にすれば会話も盛り上がるでしょ? 兄ちゃんにとってもプラスじゃん」

そう言われれば断れない
僕は結局、プリンを片手に机に向かい、妹の宿題に没頭することになった
まさか大学生が、高校生の読書感想文に全力を注ぐとは思わなかった

「比喩表現をちゃんと使ってね」

昴は腕を組み、妙に教師ぶった態度を取る

「例えば、“夜空は黒いカーテンみたいに広がって”とか。そういうの」
「……はいはい」
「澄玲先輩は、そういう詩的なの好きなんだって」

妹に振り回されながら、僕は毎晩ノートに比喩の例文を書き連ねた

「彼女の声は、春の小川のように澄んでいて――」
「うーん、ちょっとベタかな」
「……白鳥の翼のように自由で――」
「それ! いいじゃん。もっとそういうの練習して」

気づけば部屋中に、場違いな詩的な比喩が散らばっていた
冷静に見れば馬鹿げている。でも、妹は大真面目で赤ペンを走らせ、僕もつい真剣に言葉を磨こうとしてしまう

そして迎えたデート当日。川辺の土手に腰を下ろすと、夜風が少し冷たく、夏の終わりを告げるようだった。川面に映る街灯が揺れ、頭上には満天の星々が広がっている

「あれが……はくちょう座、ですか?」

澄玲がそっと指差す。白い翼を広げたような星の並びが、暗い夜空にくっきりと浮かび上がっていた

「そう。天の川を渡る白鳥の姿だ」

僕は答えながら、無意識に練習の言葉を思い出す。ここで言うのは場違いかもしれない。けれど、言葉は自然に口をついて出た

「……君も、白鳥の翼のように自由に見える」

言った瞬間、心臓が跳ね上がる。恥ずかしさに耳まで熱くなるのを感じた

しかし澄玲は、驚いたように目を見開き、すぐに小さく笑った

「私が……自由、ですか?」
「え、あ、いや、その……」

慌てて言い訳を探すが、彼女はふっと視線を夜空に戻した

「……ありがとうございます。そんなふうに言われたの、初めてです」

彼女の声は、川の流れよりも静かで、でも確かに胸の奥に響いた

澄玲はしばらく黙って、川辺に広がる夜空を見つめていた。僕は自分の不用意な言葉を悔やみ、草をむしりながら頭を抱えそうになる。妹に無理やり仕込まれた比喩が、よりによって本番で飛び出すなんて

だが、澄玲はゆっくりと息をつき、柔らかい声で続けた

「自由、ですか……。実際は、部活や進路でがんじがらめになっていて、そんなふうに言われると、少し救われる気がします」

思わず顔を上げると、彼女は恥ずかしそうに笑っていた。その笑みは、昼間グラウンドで見せる快活なものではなく、内側に隠していた素直な感情をのぞかせていた

「僕も……自由じゃないと思っていました。昴に振り回されてばかりで」

自虐めいた言葉が自然に出ると、澄玲は小さく吹き出した

「ふふ……すーちゃん、厳しい子なんですね」
「うん。毎晩“比喩の練習”に付き合わされて」
「えっ、比喩の練習……ですか?」

澄玲が驚きの表情を浮かべる。僕は観念して、あの奇妙な特訓を説明した

限定プリンと引き換えに、妹の読書感想文を代筆
その中で“詩的表現”を磨かされ、毎晩『白鳥の翼のように』やら『春の小川のように』と繰り返し口にしてきたこと

聞き終えた澄玲は、口元を手で押さえてくすくす笑った

「……それで、今日の言葉が出てきたんですね」
「いや、まあ、そうなるかな」
「面白い方ですね。真面目に、そんなことまで」

冷静に考えれば本当におかしい。でも、彼女の笑顔は冗談めいておらず、むしろ嬉しそうだった。妹に強制された宿題が、こうして彼女の心に響いたなんて、僕自身が一番驚いていた

川のせせらぎが静かに続く中、澄玲は少し遠い目をして言った

「もし私も白鳥なら……どこまで飛べるのでしょうね」
「……きっと、どこまでも」

自分でも驚くほど自然に答えていた。もう妹の赤ペンは必要なかった

帰り道、駅に向かう坂道で彼女がふいに立ち止まった

「今日は、本当にありがとうございました。星の話も、言葉も……。私、忘れません」

その声音は穏やかで、けれどどこか決意を秘めていた

別れ際、彼女が振り返る。その一瞬、川辺の星空よりも強く胸を照らしたのは、彼女の微笑みだった

アパートに戻ると、机の上にプリンの包み紙と真っ赤な修正だらけの感想文の下書きが残っていた。昴の字で「採点済み」と殴り書きがされている

「……結局、全部あいつに仕組まれてる気がするな」

ため息混じりに笑いながら、僕は窓の外を見上げた。夜空にはまだ白鳥の翼が広がっている

あの言葉は、妹のいたずらと練習の産物だったかもしれない。けれど、澄玲が見せてくれた表情は、間違いなく本物だった

白鳥の羽ばたきのように、僕の胸も静かに広がっていく

次章へ

↓最後に、第2章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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