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【“好き”って、つまりどういうことかと言いますと――】第4章 「ドキドキは、恋か、階段か」

第4章テーマは、感情の二要因説(Two-Factor Theory of Emotion)
感情の二要因説は【感情は、「生理的な興奮(ドキドキ)」と「その状況への認知(どうしてドキドキしているのか)」の2つで生まれる、という心理学説】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第4章 「ドキドキは、恋か、階段か」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

「心拍数が上がる=恋とは限らない。でも、恋に似た状況を作れば――」

その日、私はある仮説を立てていた
名前をつけるなら『条件付き恋愛錯覚再現プロジェクト』。略してCLRP(クリープ)

内容はシンプルだ

① 心拍数が上がる状況を用意する
② そのタイミングで颯太くんと接触する
③ 「ドキドキは恋だ」と脳が誤認する
④ 恋愛が加速する(理論上)

…うん、完璧だ。プレゼンにしたら5分は話せる

舞台は、放課後の体育館裏
風通しは良いけど、外からはちょっと見えにくい絶妙な立地
私はそこで、**“手押し車チャレンジ”**をしていた

もちろん、ひとりで

四つん這いになり、自分で片足を押さえながら必死に上半身を前進させる

(いいぞ…心拍数…上がってる…ッ!)

「……鳴海さん?」

その瞬間、声がかかった

はい、来ました
今、このドキドキは、きっと恋です!

…って、言えたらよかったんですけど。

「…何してるの?」

颯太くんは、少し眉を下げて私を見下ろしていた
私は、返す言葉を考えるのに数秒かかった

「えーと…自主トレです」

「体育大会、来週だっけ?」

「はい! で、筋トレを…その…青春補正で…」

補正って何だ
自分で言いながら意味が分からなかった

翌日、第二案を実行することにした

今度は“高所ドキドキ”作戦
校舎の外階段のてっぺんに登り、階段を下りる颯太くんを待ち伏せするというもの

思い出してほしい。CLRP理論の①だ
「高所にいる」=「少し怖い」=「心拍数上昇」=「恋にすり替わるチャンス!」

私は息を整えて階段の手すりに腰掛け、わざと足をブラブラさせながら颯太くんを待つ
見えた。きた。あと8段。7、6――

「おーい、鳴海さん。そこ危ないよ」

「大丈夫です!バランス感覚には自信が……わ、わっ!」

予想通りの展開だった
足を滑らせ、わずかによろけた私を颯太くんが支える

計画通り

ドキドキした。ほんとに

…ただそれは、主に命の危機によるものだった

帰り道、私はそっとつぶやいた

「なんでこんなに頑張ってるんだろ、私」

ドキドキすれば恋になる
それって、ただの勘違いなのかな
それとも――その“勘違い”が、本物に変わる瞬間が、あるのかな

その夜、私は次の作戦をノートに書き込んだ

「吊り橋効果、文化祭バージョン」

舞台は、文化祭の「お化け屋敷」
そこなら、自然にドキドキして、自然に隣にいられて、自然に――

「自然って、なんだろう」

自分の文字を見ながら、私は小さく笑った

文化祭当日
私は「新聞部だけどお化け屋敷に潜入」という名目をもとに、ひとり準備された“心拍数上昇ゾーン”へ足を踏み入れていた

お化け屋敷
それは、ドキドキを自然に誘発する理想の舞台装置
しかも今回は、「ペアで回るスタイル」
私はこの形式に、深い配慮と恋の可能性を見出した

そして、颯太くんに言った

「一緒に回りませんか、お化け屋敷!」

「……え、俺? いや、いいけど…取材?」

「はい、取材です。“ペアの距離感が及ぼす心理的影響”というテーマで――」

「……やっぱり君、研究者だよね」

お化け屋敷の入り口

「ちゃんと怖がってくださいね」

「えっ、怖がるって…」

「心拍数、すごく大事なんです。じゃないと、実験の信頼性が」

「え、実験…?」

私は彼の腕をつかんだ
心なしか、彼の肩がピクリと反応する

(来た。反応値、初期反応クリア)

暗い通路に一歩踏み出す
提灯の明かりがチカチカ揺れていて、定番の「うらめしや~」ボイスが流れる
正直、クオリティは低い
でもいい。重要なのは“ドキドキしてる雰囲気”だ

「わっ!」

背後から飛び出してきた紙のおばけに、私は思わず彼の袖を握る

(……今の、たぶん素です)

いや、これは計画通り。計画通りです。たぶん

次のエリアに進むと、床にわずかな段差がある
私はそこを、ややオーバーに“転びかけて”みた

「わ、危ない!」

「大丈夫?!」

……掴まれた。彼の手、あったかい
これは、計画通り……のはずだったのに

なんかもう、頭が真っ白で

「そ、そういう演出です。ドッキリ的な」

「いや、演出っていうか……ほんとに焦ったよ」

その後、出口へ向かう通路で
私は、急にしゃべれなくなった

計算も、理屈も、予想も、全部ふっとんだ

「鳴海さん、顔赤いよ?」

「えっ、そ、そ、それは、つまりその、あの、気温が高くて――」

「うん、たぶん君、照れてるだけだよ」

彼が笑って、言った

その瞬間、心臓が跳ねた
このドキドキは、もうなんの“理屈”でも説明できない
演出でも、仮説でも、再現でもない
ただ、私の感情だった

外に出ると、光がまぶしかった
人混みのなかでも、彼の声だけはよく聞こえた

「さっきの、“心理的影響”って、どうだった?」

「え……あ、あの、たぶん…“予定外の数値”が出ました」

「うん、それっぽい」

「でも……不思議と、悪くない数値でした」

言いながら、自分で赤くなった
もうこれ、ぜったい数値じゃない

帰宅後、私はノートの「CLRP作戦」ページをそっと破り、丸めてごみ箱へ

今日のデータは、記録できない
でも、きっと忘れられない

“心拍数の上昇”が、恋の始まりになることはある
だけど本当に恋になるのは、計画通りにいかなかった日なのかもしれない

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