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【朔夜くん、それ太宰治のパクリでしょ】第3章 「嘘を百回読めば、それは真実になる」

第3章テーマは、イリイスト効果(Illusory Truth Effect)
イリイスト効果は【何度も繰り返し聞いた情報は、たとえ根拠がなくても“真実”のように感じるという心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「嘘を百回読めば、それは真実になる」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

「君が僕を裏切ったあの日から、僕は毎晩、君の幸福を祈っている——」

……はじまった
朔夜くんの新作、今度はとうとう“ひとり語り地獄”だった
しかも20ページノンストップ

語り口調、構文、感情のねじれ……完全に『駈込み訴え』オマージュ。いや、もはや駆け込み模写

「朔夜くん」
「はい」
「これ、誰に向かって話してるの?」
「“許せない相手”です」
「それ、私じゃないわよね?」
「“僕の中の理想の君”です」
「よりめんどくさいわね」

朔夜くんは、原稿を胸に抱えながら椅子に沈み込んだ

「読者に伝えたいんです……愛が嘘でも、祈り続ければ何かになるって……」
その言葉に、私は思わず手帳の端を握った
これは、使える。いや、試してみたい

私は彼の向かいに座り、机に手を置く

「ねえ朔夜くん」
「はい」
「あなたの作品、すごく……伝わってくるわ」
「……え?」

「“君が僕を裏切った”ってところ。あれ、本当の気持ちよね。苦しいけど、あなたの誠実さが滲んでた」
「……本当に?」
「ええ。あなたの言葉は、真実よ」

彼の目が少し潤んだ。私は続ける

「あと“祈ってる”ってくだりも、あなたのやさしさそのものだと思うの。嘘じゃなくて、本音だって伝わってきた」
「本当に?」
「ええ。あなたの言葉は、真実よ」

私は笑顔で繰り返す

「あなたの言葉は、真実よ」
「先輩……」
「あなたの言葉は、真実よ」
「それ、三回目ですね……」
「うん、でも大事だから」

念押ししながら、私はメモ帳に小さく書く
《肯定の刷り込み:進行中》

彼は原稿を見つめながら、ぽつりと呟いた

「……じゃあ、僕が“愛はすれ違うほど深まる”って書いたのも、間違ってないんでしょうか」
「間違ってないわ。あなたの言葉は、真実よ」

その瞬間、彼はなぜか天井を見上げた

「……なんだろう、この肯定感。安心するけど、どこか薄くて……まるで神の沈黙みたいだ……」
「どこが神なの」
「先輩、今の肯定、偽善のようで優しいです。つまり最高です」
「……もう何も伝わってない気がする」

肯定の繰り返しで彼の不安を鎮めるつもりが、なぜか太宰的な陶酔を生んでしまった
でも、その眼差しは確かに前よりまっすぐになっていて、少しだけ“迷いが晴れた人”の顔だった

「先輩」
「なに」
「僕、今すぐ続きを書いてもいいですか? “裏切られても祈る僕”のその先を」
「……どうぞ。真実なら、きっと書けるわよ」

朔夜くんは目を輝かせ、ペンを走らせ始めた
私は窓際に移動し、その背中を見つめながら呟いた

「……私が好きなのは、あなたの感受性じゃなくて、その“理解力のなさ”かもしれないわね」

そう呟いた私をよそに、朔夜くんは原稿用紙に一心不乱に文字を走らせていた

——それは、もはや祈りというより呪詛のリズムだった

「“君の言葉は真実だ”って、先輩に何回も言われたんです。だから、僕も信じて書きます
祈れば、偽善だって、正義になるんだって
優しさは繰り返されるほど、毒にもなるんだって——!」

ペンの音が鋭くなるたび、私は内心で「やりすぎた」と反省した
肯定の繰り返し、刷り込み……まさかここまで純粋に受け取るとは
いや、純粋に“受け違えてる”だけなのだけど

「朔夜くん、念のため確認だけど……私が言った“あなたの言葉は真実よ”って、全体の流れを肯定したわけじゃないからね?」
「わかってます」
「……ほんとに?」
「“理解されないまま肯定される苦しみ”こそが、今の僕の真実なんです」
「違う、そうじゃない」

どうしてこの人は、認識のフィルターが全部“文学的矛盾”に変換されるのか

その日の放課後、部室に再び現れた朔夜くんは、一冊の手製冊子を差し出した
タイトルにはこう書かれていた

——『肯定されすぎて、狂ってしまった僕の祈り』——

「うん、もうちょっと普通の言い回しなかったのかな」
「このタイトル、読者に“静かに崩壊する心”を伝えたくて」
「あなた、いつも崩壊してるわよ」

私はその冊子を開き、目を通す
書き出しは、こうだった

——「君は僕を裏切った。そして、僕はその事実を、真実として愛することに決めた」

……いやいや、意味が破綻してる

だが、読み進めるうちに、私は少しだけ黙ってしまった
この破綻は、たしかに誰かの心を刺すのかもしれない。混沌とした情熱の中に、確かに“本気”があった

「朔夜くん、この作品……ちゃんと読者がつくかは分からないけど、きっと、刺さる人はいると思う」
「先輩の肯定、今日も優しいですね」
「だから、それが問題なんだけど」

彼は、ゆっくりと立ち上がると、窓の外を見た

「本当は、全部嘘かもしれない。でも、何度も言われるうちに、嘘でも信じられるようになったんです」
「……それ、今の自分のこと?」
「はい。先輩に“真実だ”って言われるうちに、僕は“僕自身”を肯定できるようになってきました」

私は、何も言えなかった
狙ってやったわけじゃない
でも、結果として、彼が少し前を向いたのなら——

私はそっと、メモ帳のページを破り、朔夜くんに渡した

そこには、たったひとこと

“それでも、君の言葉は真実よ”

彼は、それを胸ポケットにしまいながら笑った

「ありがとうございます。これでまた、100回分の祈りが書けます」
「100回もやる気なの……?」
「はい。だって、“繰り返された嘘は、いつか真実になる”って、先輩が教えてくれたから」

それ、教えたつもりはないのだけど

けれど、彼の笑顔がまっすぐで、嘘のように清々しくて——
私はそのまま「いいえ」と言うのをやめて、黙って頷いた

彼はまた、間違った解釈で真剣に誰かを救おうとしている
その姿が、少しだけ愛しかった

次章へ

↓最後に、第3章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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