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第4章『同盟』第4節:迷わない花は、理由を持たない【ケンタウルスストーリーイベント】

前回のあらすじ

↓この章『同盟』のイメージ楽曲 物語と一緒にどうぞ↓


白水大池公園を出ると、さっきまでの整った空気がまだ残っていた
風も、光も、どこか均されているような感覚が続いている

私はその余韻の中で、まだルナヴェイルの走りを反芻していた
流れに乗るという感覚は理解したが、再現できるものではない
それをどう扱うべきか考えたまま、足だけが前へ出る

「次は街の方に戻るよ」

ランが軽く言って走り出す
私たちもそれに続いたが、数歩で違和感が混じった

サクラミストだけ……明らかに軽い

弾むように走る
踏み込みが浅いのに、前へ出る

時折わずかに跳ねるような動きが入るせいで、リズムが一定ではない
全体の流れから浮いている……

足運びは軽いが、無駄が多い

必要のない方向に一歩出る
進路も一定ではない
最短距離を選んでいない

「……遅い」

判断としてはそうなるはずだった

「こっち楽しそう!」

そう言いサクラミストが、わずかにルートを外れる
ほんの少しの寄り道だが、隊列は一瞬分断される

私はその崩れを見て、再び今までの感覚を思い出す

「……また崩れる」

そう口に出しかけたところで、すぐに違和感が重なる

この子……再合流が早すぎる

理由が分からないまま、走りは市街地へ入る
いきいきプラザへ向かう道は人通りが増え、音も多くなる

ここでサクラミストの動きはさらに“非効率”になる

人の多い方へわざと入る
店先をちらりと見て、少しだけ蛇行する
明らかに遠回りだ

ユキハクは変わらない速度で中央を保ち
ルナヴェイルは周囲の流れに合わせて進む
ランは全体を崩さないように位置を調整する

その中でサクラミストだけが、明確に別の動きをしている

「……無駄ですね」

私はそう判断する
だが、その判断はすぐに崩れる

いきいきプラザに到着したとき、全員のタイミングがほぼ揃っている
わずかな誤差はあるが、遠回りしたはずのサクラミストが遅れていない

「……おかしいですね」

私はそのまま横に並ぶ

「サクラミスト、貴女はなぜ寄り道ばかりするのですか?」

サクラミストは迷わず答える

「楽しそうだったから!」

理由としては成立していない
だが、迷いは一切ない

私はそのまま観察を続ける
彼女の動きは行き当たりばったりに見える
だが、選択が異様に速い

分岐に差しかかった瞬間に進路が決まっている
迷う時間がない
考えている様子もない

次の交差点に入ると、その差はさらに明確になる

人の流れ、信号、音、すべてが混ざる中で
他の三人はわずかに判断が遅れる
どちらに寄るか、どこを抜けるか、微調整が入る

その横でサクラミストは、迷わない
人の隙間を見た瞬間に抜ける方向を決め、止まらずに進む
結果として、最もスムーズに抜けている

私はそこで確信する

「……考えていませんね」

サクラミストは振り向いて、少しだけ笑う

「うん!」

ためらいがない

「それで……迷わないのですか?」

問いかけると、彼女は即座に答える

「うん!迷う前に動いてるから!」

そのまま前へ跳ねるように進む

私はその背中を見ながら、初めて理解する
彼女は選んでいないのではない
選ぶまでの時間を、持っていない

だから外れない

迷う前に、通り抜けている

その結果だけが、正確に残っていた

今回の走行ルートです グーグルマップより抜粋

春日市役所を抜けたところで、私はまだ考えていた
サクラミストの走りは理解できる気配があるのに、掴もうとすると逃げる

あの軽さがどう成立しているのか?
頭の中で組み立てようとするほど、距離が開く

「このまますくすくプラザまで行くよ」

ランがそう言って走り出す
私は一歩遅れて脚を出しながら、決め、再現する

まずは単純に真似る
視線を前から外し、周囲を見る

店先、歩く人、看板の色、音の流れ
サクラミストのように、楽しそうな方へ少しだけ進路をずらす
わずかに外れ、すぐ戻る。軽く跳ねるように足を運ぶ

結果はすぐに出る。余計に遠回りし、戻るタイミングが遅れる
進路を選ぶ瞬間に、判断が入る
ほんの一瞬だが、その遅れが詰まりになる

人の流れに軽く引っかかり、無駄に減速する

「……違いますね」

同じ動きをしているつもりでも、質が違う
私は“選ぼうとしている”
サクラミストは“すでに選んでいる”

そこに時間差がある

だから次に、あえて迷う事にしてみた
分岐の手前で一瞬だけ止まり、左右を見て比較する
歩く人の密度、道幅、先の見通し……

頭の中で優先順位を組み立てる

その間に、サクラミストは横をすり抜けていく
迷いのない一歩で、人の隙間を抜け、振り返りもせず先へ出る
私は遅れて同じ方向を選ぶが、その時点で流れが変わっている

結果として、同じ道を通ったのに距離が開く

「……速いですね」

速度ではない
決定までの時間が、致命的に違う

交差点に入ると、差はさらに広がる

人の流れが交差し、音が重なり、視界が細かく分断される場所だ
ここでは全員が判断を迫られる

ユキハクは一定の距離を保ち
ルナヴェイルは周囲の流れに合わせて軌道を選ぶ。
ンは全体を見ながら安全なラインを取る

その中でサクラミストだけが、止まらない
視線が動いた瞬間に方向が決まり、そのまま身体が動く
信号を見るより先に、人の隙間を見て進路を決める

結果として、最も滑らかに抜ける

私はその動きを追いながら、言葉を修正する

『……考えていない』違う
『考える前に終わっている』

横に並び、問いかける

「どうやって……進路を選んでいますか?」

サクラミストは首を傾げる

「選んでないよ?」

間を置かずに続ける

「では、なぜ正しいのですか?」

彼女は少しだけ考えたように見えて、すぐに笑う

「楽しそうな方に行ってるだけ!」

その答えは軽い
だが……彼女の選択はほぼすべて、最適に近い位置へ収まっている

私はもう一度、本気で追従する
視線、歩幅、進路、すべてを合わせる

数歩はついていける
だが次の分岐で、必ず遅れる
選択肢が見えた瞬間に思考が割り込む

どちらが良いかを判断しようとした瞬間、彼女はもう動いている

すくすくプラザへ続く最後の直線に入る
私は意識過多のまま走り、サクラミストは相変わらず軽い
彼女は速度を上げていない

それでも、自然に前にいる
抜かれた感覚がないまま、位置だけが変わる

建物の前で全員が同時に減速し、止まる
息を整えながら、私はそのまま口にする

「……再現できません……どうしても考えて走ってしまう」

サクラミストはきょとんとする

「え!じゃあ考えなきゃいいのに!」

私は首を振る

「……それができない」

崩さない者がいる
流れに乗る者がいる
考えない者がいる

私はそのどれでもない。ただ、考えてしまう
だが、その遅れがどこで生まれているのかは、ようやく見えた気がする

次節へ


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この節に登場したケンタウルス

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