【正常値の外側】第1章「接触許可」
迷言です
今回は【正常値の外側】第1章「接触許可」をお送りします
前回のお話はこちらから
このシナリオは【叔父さん勇気を出して】のメインヒロインを決める為の企画で一番人気が高かった正史の物語
それではこの章のイメージBGMを聴きながらお楽しみ下さい
みらいちゃんのレポートを机に広げたまま
俺はシャーペンで机を軽く叩いた
『自然に触れてもおかしくない理由を作って下さい』
「いやいやいや」
思わず声が出る
「自然に触れてもおかしくない理由って何だよ」
未来人の恋愛攻略レポート、雑すぎないか?
いや、恋愛経験ゼロの未来人だから仕方ないのか?
……いや、仕方なくねぇな
けど……
「姉さんが問題ないって言ったしな……」
それが一番怖いんだけど
とはいえ、やらない選択肢はない
これは恋愛じゃない
未来を変える任務だ
そして俺はこういうのは嫌いじゃない
仮説
検証
結果
そういう話なら得意だ
「自然に触れる理由……ねえ」
神代翠
言葉より身体反応を信用する
つまり必要なのは……
「接触の正当化か」
思いついた瞬間、椅子を蹴って立ち上がる
工具箱を引っ張り出し、部品を広げる
「よし……作るか」
数時間後
机の上には、小型の触診補助デバイスが完成していた
筋緊張の微細変化を補助計測する簡易装置
まあ……モテる発明ではないな
だが人類には役立つはずだ
翌日の放課後
俺は神代整体院の扉を開けた
「お邪魔しまーす。人類に貢献しに来ましたー」
奥から声
「また変なもん作ったのか?」
翠の祖父だ
「変とは失礼な。これは未来を変えるかもしれない発明だぜ?」
「毎回言っとるな」
当たり前だ
発明家だからな
俺がデバイスを取り出すと、祖父が身を乗り出した
「ほぉ?」
食いついた
よし
その時
「……理人」
静かな声
振り向く
翠がいた
黒い長髪
青い瞳
いつもの無表情
見た感じ……興味ゼロ
「あ、翠。見てくれよこれ」
言いかけたところで
翠がこっちに来る
器具じゃない
俺をじっと見る
無言
近い
「え、何?」
さらに少し近づく
その青い瞳がこっちを見たままだ
「理人、今日……いつもより呼吸が少し浅い」
「第一声それ?」
「違う?」
「知らん!」
普通そこは
『何それ?』
とか
『見せて』
とかじゃないのか?
祖父が笑ってる
「翠はそういうやつだ」
いや知ってるけど!
俺は仕切り直してデバイスを掲げる
「はい注目!こちら筋緊張変化補助測定デバイス!」
「名前長いな」
「機能重視!」
得意げに説明を始める
センサーがどうとか
微細変化がどうとか
な・の・に
翠さん……聞いてないじゃありませんか
器具ではなくなぜ俺を見る?
「……おい?」
次の瞬間
手首を掴まれた
「うおっ!?」
細い指
ひやっとする
そのまま脈を測ってる
指先
手の力
呼吸
完全に検査ですね
「理人……緊張してる?」
「いや~そんな事はないよ~」
自分でも分かる棒読み
翠は少しだけ黙った
「……そう」
絶対信じてねぇ
(何なんだ……こいつ)
祖父が面白そうに言う
「せっかくだ。試すか」
「え?」
「じゃあ理人、実演役」
「翠さん……拒否権というものは?」
「ない」
数分後
俺は椅子に座らされていた
翠が普通に肩を触る
腕
手首
姿勢
躊躇ゼロで無表情なのが……怖い
「肩硬い」
「マジ?」
「右手酷使してる」
「マジ」
「寝不足?」
「何で分かんの?」
「触ったから」
怖ぇ
中学からの付き合いだが、こんな距離感だった記憶はない
いや整体だから当然なのか?
でも妙に意識する
「理人」
「ん?」
「呼吸変化がある」
「いちいち報告すんな」
「あっ変化した」
「だから!」
祖父が爆笑してる
最悪だ
一通り終わり、俺は立ち上がった
「じゃ、今日はこの辺で」
翠がこっちを見る
「理人」
「ん?」
「明日も来る?」
「え?」
「追加検証したい」
追加検証?
俺はデバイスを見る
あー、なるほど
「翠さん……実は発明品に興味があったりします?」
少し間
「ある」
即答だった
「なら、もっと早く言えよ!」
「いや……聞かれなかったから」
「そういう問題か!?」
翠は静かにデバイスを見る
その青い瞳だけが、少しだけ熱を持った気がした
「面白い」
……なるほど
変なのは発明品の方か
そう思った
この時の俺は、まだ何も分かっていなかった

翌日の放課後
俺は神代整体院の前に立っていた
「……何で俺、普通に来てんだ?」
昨日の自分なら、こうなるはずだった
【よし、第一段階クリア。次の作戦を考えるか】
なのに現実は……
【昨日の続きで器具の改善点あるかな】
で来てる
おかしい……これは任務だ。実験だ
そう自分に言い聞かせて扉を開けた
「お邪魔しまー……」
「遅い」
「え?」
扉を開けると……翠がいた
待ってたみたいなタイミングで……しかも、仁王立ちで……
しかも次の瞬間
また手首を掴まれた
「おい!?」
「脈……異常なし」
「挨拶より先に脈取るな!」
翠はこっちを見た
「挨拶は聞こえた」
「そういう問題じゃねぇ!」
祖父が奥で笑ってる
「理人……もう慣れろ」
嫌だよ
昨日だけの変なイベントじゃなかったのかよ
いや……でも
翠の動きには、昨日みたいな変な勢いがない
完全に日常動作だ
俺の手首が、こいつの中で何かのチェックポイントになってる
何か……嫌だ
でも……ちょっと嫌じゃないと思っている自分がいるのが腹立たしい
「じゃ、検証する」
「俺の意思は?」
「……あるの?」
「あるわ!」
器具のテストが始まった
祖父も混ざる
俺は測定役
いや……実験台か
翠が淡々と記録していく
「昨日より筋緊張が低い」
「そう?」
「呼吸が安定してる」
「マジ?」
「今日は手が温かい」
「そこまで分かんの?」
「うん……触ってるから」
怖ぇよ
俺は椅子に座ったまま言う
「あの~翠さん……俺、実験マウスですか?」
「違う」
少し安心した
「比較対象」
「もっと嫌だわ」
祖父が吹き出す
「はっはっは!」
「笑い事じゃねぇ!」
翠は本気で首を傾げた
「嫌?」
「ちょっとな?」
「なぜ?」
「なぜって……何かこう、人権的な?」
「そう……理人は分かりやすいね」
「フォローになってねぇ」
検証は続く
その時
翠の手元が少し気になった
細い指
ずっと器具をいじってる
しかも姿勢が悪い
前傾
手首に負担
「あ、おい」
「?」
「その姿勢やめろ」
「問題ない」
「ある」
翠は無視して続ける
俺は器具をひったくった
「理人?」
「貸せ」
高さを変える
角度を調整
支えを追加
即席で簡易補助台完成
「これでいい」
翠が少し見る
「……何してるの?」
「見りゃ分かるだろ。作業効率改善」
「私は平気」
「お前そのままだと腱やるぞ」
「大丈夫」
「大丈夫じゃねぇ」
言った後、自分で思う
……何やってんだ俺
でも……こういうのは放っとけない
昔からそうだ
いや中学からだけど
翠は少しだけ手を動かした
「楽」
「だろ?」
「理人、こういうのは上手い」
「褒めてる?」
「事実」
微妙だ
検証が終わる
「じゃ、俺帰るわ」
「待って」
また手首
もう何なんだ?これ
「確認」
「何を?」
翠は少しだけ指先に意識を向けた
「理人は、昨日より安心してる」
「……え?」
「呼吸……脈……筋緊張……昨日とは違う」
淡々と……本当に淡々と
でもちゃんと見ている
昨日からの違いを
(こいつ……ちゃんと見てんのか?)
翠はただの変人じゃない
すまない……変人だけど
ちゃんと観察してる
ちゃんと相手を見てる
それが少しだけ意外だった
翠がぽつりと言った
「理人は観察しやすい」
「褒めてる?」
「分からない」
「分からないのかよ」
少し間
翠が言う
「でも……面白い」
「それ絶対褒めてないだろ」
「そう?」
「そうだよ」
また間……そして
「明日も来る?」
その言葉に、一瞬止まる
任務
実験
理由はいくらでもある
俺は肩をすくめた
「……まあ、実験だしな」
「そう」
無表情
いつも通り
なのに
手首がまだ離れない
「……翠?」
「何?」
「離して?」
「なぜ?」
「帰れないから!」
翠は少し考えた
本当に少し
そしてゆっくり離す
「また明日」
自然だった
あまりにも自然すぎて
俺は変な気分のまま整体院を出た
……これで、第一段階、成功なのか?
いや……何か別の方向に進んでいる気がする
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