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【惚れさせて、振ってやる!】第3章 「推しを共有する奇妙な時間」

第3章テーマは、ハイダーのバランス理論(Heider’s balance theory)
バランス理論は【人は「自分(P)—相手(O)—対象(X)」の三者関係が**調和(バランス)**している状態を好む。バランスが崩れると、態度の変更(好き/嫌いの再配置)で整えようとする】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「推しを共有する奇妙な時間」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

私は決めた。次の作戦は「推し」だ

隆司にとって何より大事な存在――それは二次元の推しキャラ。その彼女を私も好きになってみせる。そうすれば、きっと彼の中で私の立ち位置は変わる

そのために、私は徹底的に調べ上げた。原作からアニメ、スピンオフ、声優インタビューに至るまで。放課後の時間をつぎ込み、ノートにびっしりと感想や考察を書き込んだ。まるで受験勉強のように。いや、これも私にとっては戦いなのだ

そして迎えた放課後

「デュフフww また呼ばれたお? 俺みたいな社会不適合者w 三次元女子に用事があるとは信じがたい」

「今日は特別。いいから座って」

私はベッドの端を指差した。その横には、隆司の推しキャラの抱き枕がどんと置かれている。新品同様、シーツもふわふわに洗濯済みだ

「ちょww お前、それ……! セレスたんの抱き枕じゃないかお!?」
「そう。実は私も、最近この子を推してるんだ」
「ふひひww 信じられん……! 三次元に理解されるとは……脳が震える」

私は抱き枕をぎゅっと抱きしめた。冷静に見れば、美少女が真剣な顔で二次元キャラの抱き枕を抱いているという異様な光景だ。だが私は本気だ

「この回の作画、神だったよね! 特にあの目線の演出!」
「デュフフww そうそう! あの瞬間は神回なのだ!」

私が熱弁すると、隆司も思わず相槌を打つ。その瞳が一瞬輝いたのを、私は見逃さなかった

「あと、この子のセリフ、『守りたい』って言ったとき……私、胸がぎゅってなった」
「ブヒィィ! 分かるお! あれは推し尊死ポイントなのだ!」

気づけば私たちは、放課後の部屋で延々と推し語りをしていた。私の部屋のフィギュア棚を背景に、私は抱き枕を抱き、隆司は汗だくで手を振りながら語る。どう見ても「布教配信をするカップル」の図にしか見えない

でも私は真剣だった。彼と同じ言葉で推しを語りたい。その一心で、時間を忘れて夢中になっていた

「この子のキャラソン、ちゃんと聴いた? イントロからもう尊すぎて心臓が爆発するの」

「デュフフww まさかそこまで語れるとは……。俺以外でその感覚を共有できるとは思わなかったのだ」

隆司の声色が変わった。驚きと、ほんの少しの感心が混じっている
私は内心で拳を握った。よし、効いてる。着実に

気がつけば、窓の外は夕焼け色に染まっていた。部屋の中はオレンジ色に満たされ、私たちの熱量だけがそこに残っている

「玲奈、お前……ただのクラス女子じゃないのだな。推しを理解できる……特別な存在かも」

――その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった
私は笑みを隠しながら、抱き枕をぎゅっと強く抱きしめた

推しの話を始めてから、時間の流れがあっという間に過ぎていった

私の部屋は、もはやオタク布教会場と化している。棚にはフィギュアが並び、机にはノートとアニメ雑誌、そしてベッドの上では私が推しの抱き枕を抱きしめ、隆司はその横で汗だくになって語っていた

「このシーン、作監修正が入って線が太めになったの尊いお」
「そうそう! あの迫力がキャラの強さを引き立ててた!」
「デュフフww わかってるじゃないかお! 三次元女子にここまで語れるやつがいるとは……」

彼の言葉に、私は思わず頬が緩んだ
でも、まだ足りない。もっと彼の中で「特別な存在」として食い込まなければ

私は立ち上がり、ノートを取り出した。中には私が夜な夜なまとめた推し研究ノート。キャラの名言、作画の変化、声優のラジオ発言まで網羅されている

「見て、これ。私、全部記録してるんだ」
「ぐふっ……! こ、これは……俺の脳内データベースと同じレベルなのだ!」
「でしょ? 隆司君と話すために作ったんだよ」

冷静に見れば、完璧美少女がオタク男子に向かって「一緒に推し語りするための研究ノート」を誇らしげに差し出す姿は相当おかしい。でも私は大真面目だった

隆司はページをめくりながら、何度も頷いた

「ふひひww これは神資料なのだ……。お前、マジで俺の推しを理解してるお」
「うん。だって、隆司君が推してるものを私も大事にしたいから」

言葉にしてから、自分で少し赤面した

沈黙を埋めるように、私は抱き枕をぎゅっと抱きしめる

「この子ってさ、強いのに不器用なところがあるじゃん? だから守りたくなるんだよね」
「……ブヒィィ! そ、それは俺のセリフなのだ!」
「ふふっ、私だって思うよ。同じだね」

その瞬間、私たちは同時に笑った。まるで「推しを守る同盟」が結成されたみたいに

どう見ても、美少女とデブオタが一緒に抱き枕を囲みながら笑っているだけなのに、なぜか空気は心地よかった

気づけば、窓の外は夕焼けから藍色に変わり始めていた。部屋の中は柔らかなライトに照らされ、時間を忘れて語り続けていたことにようやく気づく

「そろそろ帰るかお……。親に『また三次元に浸ってたのか?』とか言われたらオワタww」
「そうだね。……でも、また話そう。続きがあるから」
「デュフフww お前、もう完全にオタク仲間だお。尊いのだ」

玄関先で、隆司は少し照れたように笑った。その笑みは、最初に見た無関心な顔とは違っていた

私はドアが閉まるのを見届け、静かに息を吐いた

「……やった。ついに“ただの女子”から“推し仲間”に昇格だ」

胸の奥に広がる小さな達成感と、次の作戦への期待
夕暮れの余韻を背に、私は再び抱き枕をぎゅっと抱きしめた

次章へ

↓最後に、今回登場した推しキャラ【天羽(あもう)セレス】のキャラソンをお楽しみ下さい↓

*おまけ情報

今回の話で出てきた推しキャラの詳細設定です

名前は 「天羽(あもう)セレス」
とある人気アニメの主要キャラクターで、物語序盤から登場するが、主人公を支える脇役に見えて、実は核心に迫る秘密を抱えた存在

外見は、銀色に近い淡い青髪を肩まで伸ばし、制服姿の上から古びたマントを羽織っているのが特徴。瞳は透明感のある琥珀色で、笑顔の奥に常に影を漂わせる。戦闘シーンでは華麗に剣を振るい、凛とした強さを見せるが、日常パートでは不器用で人付き合いが下手。感情をうまく表現できず、誤解されやすいところがファンに刺さるポイントとなっている

性格は一見クールだが、仲間や弱者を守る時には誰よりも熱く、時に無謀な行動に出る。口数は少ないが、ぽつりと放つ言葉が重みを持ち、名言としてファンの心に残る。「守りたいものがある」というセリフはシリーズ屈指の名シーンとして、SNSでも話題になった

物語中盤では、敵の策略で一度は裏切り者のように見えてしまう展開がある。だが実際は仲間を守るために単独行動を取っていたことが後に判明し、そのシーンの作画・演出の完成度はファンの間で「神回」と呼ばれる伝説となった

また、関連グッズ展開も豊富で、特に「天羽セレス抱き枕カバー」は作中の決意シーンを切り取ったイラストが使用されており、予約開始直後に完売。隆司が保存用と鑑賞用の二枚を所持していることは、彼のオタク仲間の間でも有名である

ファンの間では「強さと弱さの両立」「影のある微笑み」「報われなさが尊い」といった魅力が語られる。玲奈がそこに共感し、「彼女の不器用さを守りたい」と熱弁したことで、隆司は初めて「この三次元女子は本当に分かってる」と感じ始めたのだ


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