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【“好き”って、つまりどういうことかと言いますと――】第2章 「押して、引いて、間違えて」

第2章テーマは、ハード・トゥ・ゲット効果(Hard-to-Get Effect)
ハード・トゥ・ゲット効果は【人は“手に入りにくい存在”ほど魅力的に見えるという心理効果】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「押して、引いて、間違えて」をお楽しみ下さい

前回あらすじ

「“すぐに手に入ると思われたら、恋愛対象にならない”んですって」

その日のお昼。新聞部の女子会で聞いた言葉が、やけに頭に残っていた
要するに――“ちょっとミステリアスなくらいがモテる”ってことらしい
うん、わかる。わかる気がする

「…つまり、これは距離感の演出が必要ってことですね」

その日の帰り道。私は一人、自転車を押しながらつぶやいた
相手に安心させすぎてはダメ。わからせてはダメ
「鳴海美琴は、そう簡単に読める女じゃない」と思わせるのだ

そのために、私は翌日から“戦略的無視”を始めた

朝の教室
颯太くんが私の隣を通る。いつもなら「おはようございます!」と即時挨拶を返すところを――

「(……無言)」

横目で少しだけ見て、わざと何も言わずにプリントを眺めるふり

(どうですかこの塩対応!)

本当はドキドキしてた。けど、それを隠すのも“演出”のうち
颯太くんは少し首をかしげただけで、何も言わずに自分の席へ

(よしよし、気になってるはず。…たぶん)

次の一手は、LINE返信の“遅延戦術”だ
前回のやりとりは、たしか「明日の新聞部のネタ、何にする?」という実務的なものだったけど、関係ない

返信には3時間空けた。その間、タイマーもセットした
しかも、既読をつけてからさらに5分間、うんうん唸ってから「そうですね、学校行事ネタはどうでしょうか」と返した

見よ、この戦略性

「……あれ? 返信、スタンプだけ?」

そう。返ってきたのは、ゆるいネコの“了解です”スタンプだった
心なしか、ネコの顔がこっちを見透かしているように思えた

(くっ……こっちが引いたら、あっちも引いてきた!?)

このままじゃダメだ。私は“謎の存在”になりきるため、放課後の“すれ違い作戦”に切り替えた

その日の放課後、私は昇降口で颯太くんの気配を感じた瞬間
すれ違うように逆方向の廊下へ歩き出した
彼が声をかけようとしたのを、気づかないふりでスルー

(今の、完璧な無視だった…!)

そう確信して曲がり角に差しかかったとき、私はガツンと音を立てて突き当たった

「いった……っ」

「……鳴海さん、大丈夫?」

振り返ると、颯太くんが心配そうに立っていた
私の“完璧なスルー”は、見事に角の掲示板で自爆していた

保健室で湿布を貼りながら、私はふと思った

距離を取ったら、確かに気にはしてもらえたけど――
これ、恋愛っていうより“怪我対応”じゃない?

「……鳴海さんって、不思議な人だよね」

そう言って笑う彼の目は、なんだか優しかった

(……え、今のって、良い意味の“ふしぎ”ですよね? ですよね!?)

頭の中で反省会が始まったところで、チャイムが鳴った

「やっぱり、振り子理論ですね」

私は誰にともなくつぶやきながら、プリントの角を折っていた
距離を取りすぎて反応が鈍くなったなら、少し近づくべき。近づいたら、また引く

――それを“バランス”と呼ぶのです

問題は、私はまだ“近づいてすらいない”という現実だった

というわけで、私は急遽「近づきフェーズ」に入った
まずは“偶然を装って接近”する必要がある。自然な形で
たとえば、図書室で

彼がいつも読んでる棚の前に、偶然、私も現れる
それも、先回りして配置された自作の「おすすめ本ポップ」のすぐ近くに

「『静かな水面に石を投げるような、言葉の余韻』……」

彼が立ち止まり、私が書いたポップを読んだ。ふふふ、思わず読みたくなる名文句
そして、ふと気づいたように隣を見る

「鳴海さん?」

「えっ、あ、奇遇ですね、ここで会うなんて!」

「……今、棚の影から顔出したよね?」

あっ

私は誤魔化すように笑った

「そ、その、実はですね……この棚って、湿度が安定していて紙の保存にいいんですよ」

意味不明すぎた

昼休み。次の作戦

私は彼の机の上に、そっとチョコの包みを置いた
包装には手書きで、「これは義理ではありません。ですが、気を遣わせるほどの本命でもありません。中立的好意です。」と添えてある

控えめにしたつもりだった。だけど、あとで見たら
隣の席の男子に「暗号か?」と聞かれていたらしい

(情報量が多かったか……)

彼は、結局チョコを返してこなかった。食べたかどうかも不明
でもその日の帰り際、昇降口でふと立ち止まって、私にこう言った

「……ありがとう。あの文章、俺、けっこう好きだったよ」

その瞬間、胸がいっぱいになった
“伝わった”かどうかは不明だったけど、“見てくれた”のは確かだ

その夜

「作戦会議だ」

私は部屋で一人、ホワイトボードの前に立っていた
表題:「鳴海美琴の恋愛戦術マップ(第二章)」

初期接近フェーズ:やや引きすぎた →△

意図的接触作戦:図書室で発見される →✕

中立的好意提示:情報過多 →△

総評:動きすぎて不審。立ち止まると目立つ
次回予告:「話さない勇気」の導入検討

私はペンを置いた

……ほんとに、こんなことでいいのかな

でも、次の日の朝

彼が私に「おはよう」と言ってくれた。その声が、ほんの少し弾んで聞こえた
私はまだ、自分の恋が“進んでいる”のかすらよくわからない
けど、それでもいいと思えた

少し引いて、少し近づいて
その間で、少しずつ相手の顔がよく見えてくる気がしたから

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