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世界の裂け目が開く時 ー第2話 異変は加速する【創作大賞2026】|ファンタジー部門

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 国会議事堂に着く。
朝の光が白い壁に反射し、熱だけがまとわりつく。

三浦に案内され、長い廊下を歩く。
冷房が効いているはずなのに、空気はどこか薄い。

——前方。
現総理大臣、神崎悠真かんざきゆうまがこちらへ向かってきた。

神崎悠真。
元は防衛大臣だ。

前任者が“消えた”

どこかの国へ向かったまま、
最初から存在していなかった・・・・・・・・・ことになった。

その結果、
神崎が総理になった。

繰り上がりの昇格。
——それが、この世界の“答え”だ。

足を止めた神崎は、俺を見ると小さく息を吐く。

「来てくれて助かる。
……朔、今日は本当に暑い。水分補給は忘れるな」

「分かってる」

神崎は周囲を一瞥し、声を落とした。

「——朔。
もう君の存在を隠しきれない段階に来ている」

俺は黙って聞く。

「世界の“認識”が、ここまでずれている以上、
従来のやり方ではもう限界だ」

わずかに間を置く。

「本来なら、君の存在は最後まで伏せる予定だった。
だが、各国も違和感だけは抱き始めている」

「……だから、見せるのか」

「そうだ」

短く肯定する。

「ただし、“理解させる”必要はない」

神崎は言葉を選ぶように続ける。

「今の世界は、現実そのものを認識できていない。
何を説明しても、正しく受け取られる保証はない」

「……」

「だから今回は、“存在”だけを示す」

神崎は一歩近づく。

「君がそこにいる——
それだけでいい」


本会議場に入る。

ざわめきはある。
だが、どこか薄い。

現実味がない。


三浦の言う“いつもの・・・・報告会”は続いた。

各国の代表が立ち、
同じような言葉を繰り返す。

「見つかった」
「前からそうだった」

……それだけだ。

誰も、異常を異常として扱わない。

違和感だけが残る。

やがて——

「次は、日本です」

俺は立ち上がろうとした。

だが——

肩を押さえられる。

「立つな。
今、何を言っても意味がない」

俺は静かに座り直す。

その後、日本も他の国と同じ説明をした。

ただ一つ。

「存在していた」

その言い方だけが違った。


会議は終わった。
誰も異常を口にしない。
それが、異常だった。

その後、神崎に連れられ、会議場を後にする。外に出ると、朝の光は変わらない。何も起きていないように見える。

車に乗り込む。

「日米安保に基づき、お前のことを米軍に共有する」と神崎が言う。

「……了解」

俺は静に呟くと、車は静かに走り出した。

基地の中へ入ったのち、三浦は用事があるということで車に乗って帰っていった。後で迎えをよこすと告げて。

その後——

「行こうか」

神崎に促され、ひと際目立つ建物の中に入る。

その部屋には米軍の将校たち。
その横には、日本の自衛隊の上層部の姿もあった。

そして——

正面のスクリーンには、大統領の映像が映っている。

部屋に入ったのち、大統領が口を開く。
言葉はそのまま日本語で届いた。翻訳AIによって、言語の壁はすでに存在していない。

「初めまして。
 アメリカ合衆国大統領、デイヴィット・トレノだ」

小太りでもなく、三十代という若さで就任した人物だ。

わずかに間を置く。

「日本語が拙くてね。龍園と呼ぶのは難しい。ルーカスと呼ばせてもらってもいいかな」

その声音は、静かで真摯だった。

——ならば、こちらも応じる。

「構わないさ。
 デイヴィット大統領、と呼べばいいかな?」

「いや、デイヴィットでいい」

「……分かった。ありがとう」

わずかに間を置く。

「では早速、本題に入ろう。
 こちらでは、霧が晴れたという認識だ。
 そちらは、どう認識している?」

わずかに、場の空気が引き締まる。

少し厳粛な様子のまま、俺は口を開いた。

「……それは、違いますね」

言葉に、わずかに力を込める。

「例え話になりますが——」

一度、間を置く。

「……ペンタゴン・・・・・という言葉に、”認識”はありますか?」


「……いや、そんなものは存在していない」


わずかな沈黙。


「だが——……何かがおかしい、という感覚はある」


デイヴィットの発言に、全員が頷く。日本側も同じだった。

その直後——

俺は何も言わない。

ただ、意識の奥に触れる。

神崎が、ぽつりと呟く。

「……君の力は、不思議だな」

その瞬間。


ペンタゴン・・・・・が存在していた”という認識が、
場に広がる。

誰も、声を出さない。

だが——

全員が、それを思い出していた。

デイヴィットは、わずかに目を伏せる。

その瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。

沈黙の中、デイヴィットが口を開く。

「……これまでに、どれほど消えた・・・?」

一拍ののち、静かな声が返る。
神崎はタブレットを取り出し、わずかな迷いもなく告げた。

「世界全体で、およそ880万人です。中でも被害が最も大きいのはアメリカ。……カリフォルニアが消えました。現在は、砂漠になっています」

空気が、わずかに重くなる。

「……これから、どうする?」

デイヴィットが低く問う。

俺はわずかに目を細める。

「……悪寒が的中しなければ、ですが」

「国会議事堂周辺は、全面立ち入り禁止に。全員、退避させてください。理由は問いません。必要なら、金でも何でも使ってください」

一拍。

「アメリカ軍と自衛隊で外周を封鎖する。全方向に隔離線を張る」

わずかに息を吐く。

「……これで、最悪の事態は避けられます」

その瞬間、背中にヒリつく違和感が走る。
直後、窓が一斉に砕け散り、轟音が室内を満たした。
遠く空に巨大な渦が開き、光が溢れ出す。

やがて、その中心から——翼に包まれるようにして、ひとつの”ひつぎ”が降りてくる。

まるで天使が舞い降りるかのような光景だった。

遠くのはずの景色が、まるで目の前のように映る。
太平洋方面——見覚えがある。

だが、距離の感覚が合わない。
近い。

いや、近すぎる。

——手を伸ばせば、届きそうなほどに。





第2話 了

第3話:渦と棺

本作はマガジンでまとめて読めます。
👉 全話はこちら


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灯の旅人|創作と人の心を観測する人 ここまで歩いていただき、ありがとうございます。 もし何か感じていただけたなら、その想いをそっと置いていっていただけると嬉しいです。