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エッセイ小説「はみ出しもん」5


「結」構毛だらけ猫灰だらけ


そして私は今、奈良県にある某山に登っている。

バトル漫画の主人公に修行はつきものだが、いざそんな立場になって思う、本当に付きものなんだな、と。

シュガーさんの提案は「困ったときの神頼み」だった。
そもそも神というのは、願いを聞き入れるというより「何かあった時の後ろ盾になってくれる」もの。
神頼みの効果は待てど暮らせどなかなか動くものではないが、それにも相性というものがあり、タイミングや相性が合えば最強の後ろ盾になってくれるそうだ。

それを手に入れてこい、それが修行のテーマである。

そこで私が向かった山は、日本の中でも最強と言っても過言ではない日本最古の神社。
鳥居をくぐると奥に拝殿のみがある。
拝殿の奥に本殿があるのが一般的な造りだが、ここは拝殿の後ろに聳え立つ山自体が神様の住むところで、ご本尊なので本殿はない。

その山に登山ルートがあるから、山の頂上にある1番神に近づける社まで行ってこい、とシュガーさんに言われ、私は大阪を抜け出し、奈良に登場、参拝の後に受付を済ませた。

出雲に行った時もそうだが、神が宿る場所というのは少し緊張感がある。
安心する、落ち着く場所でもあるのに、どこかピリッと背筋を伸ばさせる。

この山は長く女人禁制だったそうだが、今は女性も解禁され、標高はそこまで高くないが、山道が険しいそうだ。
なので入山の際は必ず受付で名前と連絡先を書き管理され、16時には下山出来る時間でしか入山も許されない。


鬼嫁に「よその若いお嬢さんの隣を歩くと迷惑になる」と怒られたシュガーさんは同行出来ないので、今回は1人で赴く事になり、色々ご教授してもらった。

「ここの神様は本当にすごいパワーです、まず、神様に呼ばれないと神社に辿り着けません。
そして、辿り着いても通常参拝のみで天候不良や時間の問題で入山出来ない人も多いです」
「それはちょくちょく聞きますね」
「ほんまに徹底してます、頂上に行くまでに脱落する人も多いんです」
山の天気は変わりやすいというが、神の気持ちも移ろうのか。
私はそんな神の帝になれるんやろか。
「輝夜姫みたいですね」
「あと、登山中に不思議な体験をする方もいます、神様が住んでいるところにお邪魔してますからね、本当に呼ばれている人しか体験できないそうです」
「山で不思議体験?」
「はい、何かに導かれたり、体がキラキラしたり色々聞きますが、もしも不思議なことを体験しても絶対に他言しないでください。
これが神のルールです」
と、思ったら鶴の恩返しみたいな流れになる。
「分かりました。まぁそもそも辿り着けなかったら「頼るべきは私じゃない」って事ですよね」
「そうですね、その時はまた考えましょう」

こんな事態でなくても、神の門前払いは心が折れる。

不眠症もピークで体力はきつかったが、そんな事言っている余裕はない。
そんな事より心配になったことが、キヨが鳥居をくぐれない可能性があること。

そんな強い神のところまで魔物は来ないだろうし、私にはキヨがベットの下以外のどこにいるんだか全くわからない。
でも「無理」と聞かれると不安がひたひたと駆け寄ってくる。

「一緒に鳥居を潜って神聖な場所に入れないのは、不安ですね」

キヨは視点を変えれば悪霊や魔物の類なのだ。
私達は「魔物」と戦っている気でいるが、そのキヨらしき霊も、本当にキヨなのかの確証もない。
ライオンが去った後に躙り寄るハイエナみたいな、もっと意地の悪い異質なものの可能性もあるのだ。
シュガーさんは私の不安を察知して、言葉を探しながら鼻血を警戒してティッシュの箱を引き寄せた。

「なみさん、ペットが貨物扱いになるのと同じに思えばいいんです」

あ、そっちの心配?
私の連れていけない不安は護ってもらえない不安なのだが。

きっと漫画が大好きなシュガーさんの中で、私とキヨは「うしおととら」みたいに変換されているのかもしれない。
ハンバーガー(とらの好物)を渡されたらいよいよだと思おう。

最終確認で2人で作法などをおさらいし、メモに残す。

「あとは、そう。これは大事です。登山後に寄って欲しい所があります」
シュガーさんはこの神社に年に一度は必ず参拝に行っているので、とても詳しい。
「二の鳥居の手前にある、素麺屋に寄って、釜揚げの温かい素麺を食べてください」
素麺。
まぁ、奈良の名物やしな。
それに、なんか縁起のいい強くなる食べ物?的なあれはよく聞く。
宿儺の指でなければ食おう。
「あと少し下ると、SNSでバズったクレープの自動販売機もあります、デザートにどうぞ」
「はい」
「瓶に入って出てきますので、必ず空瓶を返してください、リサイクルしますので」
「承知しました」
「お土産にするなら、奈良漬!生姜の奈良漬を食べたことありますか?あれは・・・」

『魔物道中!ぶらり奈良県食べ歩きツアー』感出てきたな。

こんな時なのにふふッと笑ってしまう。

「なんか、呑気ですね」
クレープの瓶は返す、とメモをとる文字が震えて歪む。
それを見たシュガーさんは、老眼鏡の奥で微笑んだ。
「それでいいんですよ。いつもと違う場所で、神聖な空気に触れ、お腹いっぱい美味しいもん食べる、登山で疲れて夜はぐっすりです!
生き生きするのが1番の攻撃で防御ですよ。それで無理なら神様がきっと後ろ盾になってくれます」

一理あるな、と思う。

私達は、魔物的な怪異と戦っているつもりになっているが、医学的に見ると明らかなストレスからくる不定愁訴なのだ。
シュガーさんに見えるお化けも、脳科学的に見れば幻覚だし、私の不眠はそれこそ睡眠外来なのだ。
ただ、それでも解消されなくなると、それを怪異や何かに見立ててお祓いを受ける。

結局は、いつもと違う行動や、自分が気になる自分が作り出した「憑き物」を落とすことが大切。

それが体の心配なら、病院、薬。
心なら、カウンセリング、精神科、パーっと遊ぶ。
何かに憑かれたり、よくない事のループにいると思っていたら、神社仏閣、お祓い。

行動すること、誰かを頼ること、思い切ること。

シュガーさんはそれを知っている。
伊達にあの世は見ていない。



私は1人で山を登る。
沢を超すと山小屋があって、そこに沢山の脱落者がいた。
入山してすぐは人も多く、ハイキングコースみたいで麗らかな景色が、そこ以降は神聖になった。

湿度が高いが、お化けが好む重さがない。
川の水と海の水くらいの見た目には解らない重量差が存在する。
苔むした岩を踏むと、そこから自分の肺まで水分を含んだ苔に侵食されてしまいそうだ。
この山を覆っているのは、神でなくこの苔かもしれない。
このまま取り込まれたい、菌が私の鼻や喉の粘膜に取り憑いて息を詰まらせ、飲食をやめてこの子達みたいに光を化学にかえれたらいいのに。

しばらく苔を踏み進んだ。
不意にシュガーさんの声を思い出す。

「未来の変え方を知っていますか?」

「引き寄せの法則なんかは、強く意識して行動を変えることで、自分が思っている方向に自分で世界を変えていきますよね。
そこに神様が加わるともっと不思議なことが起きます」
「人智を越えるんですか?」
「そうです、もう笑ってまうくらいに神は力技で解決します。
何故か解らないけど、どうしても抵抗できずに行った方向に幸せがあったり、命を拾ったりする話、聞くでしょう?
どんなに反発しても、どんなに迷って立ち止まっても、神は救いたい人の意思に反して絶対に人を従わせる力があるんですよ」
「確かに理由はないけど夜中に荷造りをして玄関に置いていたら、夜中に大地震があってすぐに逃れた、とか聞きますね」
「迷って迷ってそうする決断に神はいません。
時間や景色、全てをバッサリ切り捨てて神には強制されます。さっきまで駅でいたのに、なんで今、式場の前にいるの?とか、そのレベルです。
それを味方につけてください、なみさんは出来ます。
そうゆう、人です」


その時の私は、そんなピリオドの向こう側、みたいなことを言われても。と、思っていた。
うまく説明できないことや、何かわからない事は確かにあるが、そんな時空を捻じ曲げるような事起きるのか。

半信半疑もいいとこだった。
実際、私はなんの苦労もなく晴天の中ここに辿り着き、普段の不調も感じずにすらすらと山を順調に登っていっている。

こんな当たり前と思えることも、考えようによっては不思議な事になる。

物事は全て捉えよう、考え方次第。
そう思った時、ここには書けないあることが起きた。

恐ろしく不思議で、神聖な体験だった。

シュガーさんに言われた通り、私はここに書かないし、これは他言をしていない。
神様との秘密にして、死んで仏にあっても言わないつもりだ。


とはいえ。

私とキヨのピリオドの向こう側はまだ遠い。


7「これが夢なら」に続く

#賑やかし帯


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