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物語の欠片 鶯色の芽吹篇 20 駝鳥の骨の謎 解1

-レン-

「時系列で言うと、ことの発端はイベリスがあの駝鳥の部屋へ続く鉱脈を発見したのが始まりです」
 カリンが落ち着いた声で話し始めると、イベリスは言葉のあやではなく本当に椅子から飛び上がって驚いた。
「え? 俺?」
 カリンは僅かにイベリスに笑顔を向けて頷いただけで先を続ける。
「ポハクのお役所にマカニへの移住の問い合わせがあったのはイベリスが駝鳥の部屋を発見する前だけれど、イベリスがそこを鉱脈だと思って掘り進め始めたのは、それより前でしょう?」
「あ、確かに。えっと、確かあそこまで到達するのに五日くらいかかったかな。祝祭日を挟んでいるから実際には七日ほど間がある」
「そう。そこが最初の重要なところで、お役所への問い合わせが先だと思ってしまうと、うまく繋がらないの」
「てことは……」
「イベリスが駝鳥の部屋の方向へ向かって鉱脈を探し始めた。それを何らかの方法で知った人物は、このままではまずいと考えた。そして、急いであの場所へ駝鳥の骨を運んだ」
 今度はレンも驚いて思わず声が出た。
「骨が運ばれたのはそんなに最近なの?」
「とにかく時間が稼ぎたかった。だからあれだけ骨を積み上げて、しかも、わざと異様な雰囲気が出るように頭蓋骨を入り口から見える場所に沢山並べたのだと思う。まるでそれ自体に意味があるかのように」
 レンとイベリスは顔を見合わせるしかなかった。族長とパキラは涼しい顔で話を聞いている。
「このことを計画した人物は、同時にお役所へ、マカニへの移住について問い合わせをした、あるいは、誰かにそれをさせた。パキラ様程の博識であれば、駝鳥とマカニ族を結びつけて考えると考えてのことだと思う」
「随分と買い被ってくれるじゃないか。いや、カリン殿のことではない。首謀者の話だ」
 パキラが機嫌良さそうに合いの手を入れた。
「パキラの反対勢力だったとしても、その有能さは認めざるを得ない、といったところだろう」
「おいエンジュ。お前も買い被りすぎだ」
「さてな。カリン、続けてくれ」
 はい、と微笑んでからカリンは話を続ける。
「骨の山の中に隠した、ということは、隠したかったものも骨、あるいはそれに近いものだと考えるのが普通だと思う」
 それはレンにもなんとなく想像がついた。だからなんだというわけではないし、それ以上は何も分からないのだが。黙って最後まで話を聞こうと思っているレンとは異なり、イベリスは素直に首を捻りながら質問をする。
「そんな面倒なことをするなら、何でその時点でそれを持ち出さなかったんだろう? 持ち出せなかったならまだしも、その後見張りが立った後に、危険を冒してまで持ち出しているんだろう?」
「そう。そこが次の重要な点」
 カリンが言うとイベリスは嬉しそうに「へへへ」と笑った。
「最初は持ち出せなかったのに、後から持ち出したのは何故か。可能性として私が思いつくのは三つ。ひとつ目は、最初はそこから持ち出してはいけないと思っていたけれど、後から考え直して、他人に取られるくらいならば持ち出そうと考え直した。つまり、あの場所にあることで意味をなすもの。たとえば、あの場所がある人たちにとっては神殿のような神聖な場所で、その御神体とか」
「なるほど」
「二つ目は、持ち出したいものはとても目立つもので、隠す場所を準備しなければならなかった。三つ目は、誰かの指示を仰ぐ必要があった。つまり、後の二つはいずれも、時間稼ぎのために面倒なことをした、ということになる」
「ほお。いやあ、言われればなるほどと思うが、自分では思いつかないよなあ。で、結局それのどれなんだ?」
「それはもう少し先になってから話すわ。今は三つの可能性を頭に置いておいて」
「もうひとつ可能性がある」パキラが口を挟み、カリンがはっとしたようにパキラの顔を見る。パキラは愉快そうな表情で続けた。「元々あの場所には何もなかった。しかし、誰かさんは、この機会を利用して、駝鳥の骨をアグィーラに送りたかったと言う可能性だ」
「仰るとおりです。つまりその場合は、見張りが居る場を狙って騒ぎを起こしたのは、元々在った何かが持ち去られたと考えさせるための擬似騒動」
「そういうことになるな。そして我々はまんまと誰かさんの言いなりになったわけだ」
「パキラ様がそれをご存知の上で相手のやり方に乗った、という可能性もありますけれど」
 パキラは声をあげて笑った。
「いや、愉快だ。話の腰を折ってすまない。続けてくれ」
「はい。いずれにせよ、私たちは駝鳥の骨をアグィーラまで運んだ。そこで得られたものはというと、今のところ、あの駝鳥の骨の山が、幾らか他の動物の骨が混ざっているものの、ほとんど駝鳥の骨であるという事実。それから、闇市の情報」
 シェフレラがカリンに闇市の話を聞かせたのはたまたまだと思っていたが、それが首謀者の目的であった、などということは考えられるのだろうか。シェフレラの存在を知っていて考えを読んでいたとすると、相当に対象者が絞られるように思う。
 そこで不意にカリンが、レンとイベリスの顔を交互に見ながら言った。
「あのね。前回、この一連の出来事は、重要な情報と無意味な情報が同じ濃度で混ぜ込まれていて、何が重要で何が意味が無いのかが判り難いと言ったでしょう?」
「ああ、それは憶えている」
 なあ、とイベリスがレンに同意を求めたので、レンも頷く。そして、ああと思い当たった。
「だからさっきも、三つの可能性を並べただけで次に進んだんだね」
「そう。それらしい回答が見えたからって、最初から結論の道筋だけを説明するよりも、思考の過程を説明した方が伝わりやすいと思ったから」
「うん。整理してもらっても、まだ俺には何も見えないぞ」
 とりあえず飲もう、と言ってイベリスが皆の空いているグラスに葡萄酒を注いで回る。
「それがね。さっきのパキラ様の調査の結果を合わせると、それまでは重要な情報と無意味な情報が混じり合っていたと見えていたものが、結局全部重要だったことに気がつくの。そればかりか、最初に提示した三つの可能性……いえ、パキラ様がご提示くださったものも合わせると四つ、どれかひとつではなく、全部だったんだって。考えた人は、恐ろしく頭の良い人だわ」
「な……全部? え? ええと……」
 イベリスは混乱した表情でレンを見たが、レンも何が何だかさっぱり分からないので首を横に振って応えた。
「レンとイベリスは屍蝋って知ってる?」
「シロウ?」
 レンとイベリスは揃って首を横に振る。
木乃伊みいらは知っているでしょう?」
「おう。それなら知ってるぜ。何せここは乾燥しているポハクだ。そこらじゅうに虫の木乃伊は転がってるし、小動物だって結構見かける」
 イベリスは意気揚々と答えたが、レンは別の意味で気分が悪くなる。あまり遭遇したくない場面だった。魔物相手は苦にならないが、動物の死骸はそれ程得意ではない。勿論任務とあらば触れることも厭わないけれど。
「イベリスの言ったとおり、木乃伊は主に乾燥することによって死骸の腐敗が食い止められるのだけれど、屍蝋というのは、冷たい水の中などで何らかの条件で腐敗せずにいると、死骸が石鹸のように変化してそのまま保存されるの」
「水の中! それで父上は水を探したのか!」
「そう。レンがあの駝鳥の部屋の手前で、背筋に冷たいものを感じたと言ったでしょう? あれは、冷たく湿った風だったの。その元は、あの部屋しか考えられない。イベリスがあの部屋へ到達した時には水は無かったけれど、比較的最近まではあったのかも知れない。族長様は最初にあの部屋へ行った時からそのことに気がついておられて、だから地面に触れていらっしゃったのだわ」
 あの時族長はレンに「その感覚は正しい」と言った。勿論族長も同じものを感じていたのだろうが、レンはその正体など考えもしなかった。こういうところが自分に足りていないところだ、とレンは本筋に関係なく反省した。
「え? じゃあ、あの場所にはその、屍蝋ってやつがあったのか? あ! 分かった。それが不老不死に繋がるわけだな? いや、ん? それは安直か?」
「ふふ。いえ、安直ではないわ。最終的には繋がる」
「そうか。でも、まあ、俺の場合、途中はすっ飛ばしてるからな。繋がる道は全く分からない。まず、さっきの疑問。何故最初から持ち去らなかったのかすら分からない。四つとも正しかった、って言ったよな?」
「そう。ひとつ目はあの場に於いて意味をなすものだったという場合だったけれど、屍蝋というのは先程説明したように、涼しく湿度のある場所が必要なの。下手に暑くて乾燥しているポハクの地上へ持ち出すと、すぐさま崩壊してしまう危険がある」
「おお。確かに成立条件が真逆だもんな。となると、二つ目の隠し場所を探していたってのは、目立つのもそうだが、屍蝋をそのまま維持できる場所を探していたってことか」
「おそらく。そして三つ目は、とにかく前二つが簡単に解決する問題ではないから、誰か然るべき人に相談したのだと思う。駝鳥の骨に関しては、然るべき人の考え方なのか、それとも最初に屍蝋を見つけた人たちの手近にあったのか曖昧だけれど、その先の展開を考えると、駝鳥の骨も然るべき人の案だと思う」
「マカニやワイならともかく、このラプラヤで、そんなに都合良く屍蝋に相応しい隠し場所が見つかるとも思えないもんなあ。主たる理由は屍蝋の隠し場所が見つかるまでの時間稼ぎだな」
「ええ。それに、実際あの駝鳥の骨の処分にも困っていたのだと思う。だから、意味を与えてアグィーラへ送ってしまった。たとえ調査が終わってアグィーラから戻ってきても、あの骨が元の所有者へ戻ることはないでしょう。アグィーラで保管されるか処分されるか、あるいはポハクへ戻ってきてから処分されるかのいずれかだわ」
「ひええ。本当に四つ全部だ。で、誰なんだよ、そんなことを考えたのは」
「それはもう少し置いておいて。次は闇市の話と不老不死の薬の話」
 カリンからお預けを食らったイベリスは肩を竦めたが、顔には楽しい話の先を待ちきれない子供のような表情を浮かべていた。場違いだなと思いながらも、レンはそのイベリスの表情を見て思わず笑いが込み上げてくるのだった。そしてレンは、族長も随分とくつろいだ表情をしていることに気がつく。放浪癖のついた族長は、それはそれで良いのかも知れない。


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鶯色の芽吹篇 21
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