ー設計者は何を見ているか #2ー 答えを教えなかったのではない。私が探していたのは、その人の中にある『判断原理』だった。
前回の記事では、
「設計とは、正解を設計する仕事ではなく、判断基準を設計する仕事だ」
という話を書いた。
では、その判断基準はどうやって生まれるのか。
私は人と話すとき、
相手の答えよりも、
「その答えに至る判断の作られ方」
を見ている。
今回は、ある1on1で感じたことを書いてみたい。
部下から相談を受けた。
新しい業務を任され、
「期待に応えたい」
「ちゃんとした資料を作りたい」
そんな悩みだった。
一見すると、仕事の進め方に困っているように見える。
でも私が気になったのは、
資料でも、
説明力でもなかった。
彼が、
何を根拠に判断しているのか。
そこだった。
面談では、
「どうすれば資料が良くなるか」
という話はほとんどしなかった。
代わりに聞いていたのは、過去の話だった。
過去に、
上手くできたこと。
夢中になれたこと。
自然とできていたこと。
なぜそんなことを聞くのか。
人は、今の判断理由は説明できなくても、
過去の経験なら話せるからだ。
そして、その経験の中には、
本人も気づいていない
判断原理
が隠れていることが多い。
話を聞いているうちに、一つ気付いたことがあった。
彼は、未経験の仕事に対して、
最初から経験者と同じレベルの答えを出そうとしていた。
だから止まる。
これは能力の問題ではない。
判断の置き方の問題だった。
もちろん、ここで私が
「経験がないのだから、最初からできなくて当然だよ」
と言うこともできた。
でも、それでは意味がない。
私が欲しかったのは、納得ではなく、
本人の中で判断原理が組み替わることだった。
だから、問い続けた。
しかし、今回は最後まで、
本人の中からその原理は出てこなかった。
そこで私は、自分の話をした。
そして、
彼が一番熱中している
ポケモンカード
に置き換えてみた。
もし、
カードを一枚も知らない人が、
「強いデッキを作って」
と言われたらどうだろう。
作れるはずがない。
でも、何度もカードを触り、
対戦を繰り返すうちに、
「このカードはこう使う」
という感覚が育っていく。
最初から正解を知っていたわけではない。
経験を通して、判断原理が育っていっただけだ。
その話をした瞬間、
彼の表情が変わった。
「ああ、そういうことか。」
その一言で、
私の中では十分だった。
私が変えたかったのは、
気持ちではない。
答えでもない。
判断の置き方
だったからだ。
私は、感情を軽視しているわけではない。
アイデンティティに関わる感情には、
丁寧に向き合う必要があると思っている。
ただ、
普段私が一番見ているのは、
感情そのものではない。
「その人は、どんな判断原理で物事を捉えているのか。」
である。
そして、
もっと重要なのは、
その人自身が、既にうまくできている場面では、
どんな判断原理を使っているのか。
ということだ。
人は、
できない理由よりも、
できている理由
の方が再現性を持っている。
だから私は、
答えを教えることより、
その人の中にある判断原理を一緒に探す。
それが見つかれば、
目の前の仕事だけではない。
次に初めて経験する仕事でも、
自分で考え、
判断し、
動けるようになる。
私は、それが育成だと思っている。
このシリーズでは、設計者が人と向き合うとき、
何を観測し、
何に介入しようとしているのか。
そんな「頭の中」を、
実際の対話をもとに少しずつ言語化していきたい。
