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『東 京<reprise>』舞台脚本⑧

※作品詳細、Storyは「『東 京<reprise>』舞台脚本①」を参照ください。

※前回のお話

登場人物

遠野 三明(とうの みつあき)(25)
電車に乗ろうとしない男。元バンドマン、現会社員。5年前は大学生。

近野 美嘉(こんの みか)(26)
電車に乗ろうとしない女。

森下 陽子(もりした ようこ)(31)
インフォメーション窓口の職員。5年前も同職。

関 晴海(せき はるみ)(31)
忘れ物承り所の職員。5年前も同職。

吾妻 古都会(あずま ことえ)(27)
東京グランスタのカフェ「Drip Maria」の店長。5年前は同店のアルバイト。

内田 幸夫(うちだ ゆきお)(23)
東京駅勤務のJR職員。5年前は上京したての学生。

高良 マチ(たから まち)(25)
東京在住のOL。はじめに仕事を依頼する。5年前は大学生。

濱 はじめ(はま はじめ)(32)
謎の男。5年前は無職。

江藤ひかる(えとう ひかる)(33)
出版社勤務のライター。5年前は違う出版社に勤めていた。

新橋 京一(しんばし きょういち)(30)
旅行代理店の社員。プロジェクトチームのチーフ。5年前も同職。

荒川 優香(あらかわ ゆうか)(29)
旅行代理店の社員。京一の同期だが部下にあたる。5年前も同職。

月島 アキラ(つきしま あきら)(30)
役者志望の男。今回、夢を諦めることを決意。5年前も同職。

日比谷 周次(ひびや しゅうじ)(45)
タクシーの運転手。5年前は日本中を放浪する自由人。

【脚本⑧】

※この作品は2014年当時の環境や状況をもとに描かれています。

#20 カフェ 

古都会 「人生?」

   『Drip Maria』
   話をしている江藤と古都会。
   離れた席にはマチ。
   そして、京一と優香。

江藤  「はい、あの日を境に、私の人生は大きく変わったんです」

古都会 「そうだったんですか」

江藤  「昔から出版に関わる仕事がしたくて、運良く大手に就職できたんですけど、私がいた部署は忙しさが尋常じゃなくて、追い詰められれば追い詰められるほど、失敗の数が増えていきました」

古都会 「・・・はい」

江藤  「上司に怒鳴られて、同僚に差をつけられていくうちに、自分はなんてダメな人間なんだろうって思うようになったんです」

古都会 「・・・はい」

江藤  「好きな仕事を選んだはずなのに、どうしてこんなにも役に立たないんだろうって」

古都会 「・・・はい」

江藤  「そうやって自分を責め続けた結果、自分は生きている価値がないのかも、って考えちゃったんですね」

古都会 「・・・」

江藤  「そしたらいつの間にか、線路に飛び込んでました」

古都会 「・・・そうだったんですね」

江藤  「この話をすると、みんな鉄板でドン引きするんですけど」

古都会 「いや、ドン引きはしないですけど、なんというか・・・」

江藤  「さっきも言った通り、あの時死にかけたおかげで大きく変われたので、私にとってはいい話なんです」

古都会 「いい話?」

江藤  「はい、仕事を辞めて、ゆっくり自分の事を考える時間が出来て、大事なことに気付けましたから」

古都会 「大事なこと?」

江藤  「私って意外に大したことないんだなって」

古都会 「ええ?」

江藤  「そして、やっぱり雑誌作りたいんだなって」

古都会 「え?」

江藤  「だってそれが私の夢ですから、なんかいつの間にか雑誌を作ることじゃなくて、仕事をこなすことが目的になってたんですよね、それじゃうまくいかないはずですよ」

古都会 「なるほど」

江藤  「そのことに気づいたら、やるべきことは簡単でした」

古都会 「はい」

江藤  「ささやかでも、自分の出来ることをしよう」

古都会 「自分の出来ること」

江藤  「そしたら小さいけどいい出版社に巡り合えたんです」

古都会 「・・・よかったですぅ」

江藤  「この企画、今は飲食店だけですけど、これからはもっといろんな業種の方にインタビューしていきたいなって思ってるんです、どんなにささやかな仕事だとしても、その人にはその人の物語がある、その物語を聞かせてもらいたいんです、そしたら、私もそうですけど、パワーもらえますから」

古都会 「うん、素晴らしいお仕事です・・・」

江藤  「古都会さんも」

古都会 「え?」

江藤  「私も古都会さんと一緒で、頑張ってる人を応援したいんです、太陽みたいになれなくても・・・月にだって意味はあるぞって伝えたいんです」

古都会 「そうですね、うん、うん」

江藤  「・・・あれ、なんだかいつの間にか私の話になっちゃいましたね」

古都会 「はっ、本当だ」

江藤  「これだとどっちのインタビューかわからないですね」

古都会 「はは、たしかに、でも良いお話聞かせてもらいました」

江藤  「こちらこそ、色々伺わせていただき、ありがとうございました」

古都会 「ちゃんとお話出来ていたか不安ですが・・・」

江藤  「バッチリでしたよ、あ、最後に何枚かお店の写真撮らせてもらってもいいですか?」

古都会 「あ、もちろんです」

   江藤、手帳やレコーダーを片付け、カメラの準備をし始める。
   それと同時に、京一と優香も立ち上がる。

京一  「よし、そろそろ行くか」

優香  「ええ?まだ早くない?」

京一  「それ、その油断がこういう事態を引き起こしたんだよ」

優香  「まだ言う?どんだけねちっこいの?」

京一  「お前みたいに大雑把じゃないから」

優香  「ほんとそういうとこ、デリカシーの欠片もないんだから」

京一  「お前にデリカシーなんて3世紀早いんだよ!」

優香  「てかさ・・・私のことなんだと思ってるの?」

京一  「え?」

優香  「・・・ごめん、何でもない」

京一  「・・・俺、先行くわ、ゆっくりしてなよ」

優香  「え、ちょっと・・・」

   京一、先に荷物を持って出て行ってしまう。

古都会 「・・・大丈夫なのかな、あの二人」

江藤  「・・・でも、ああいうのが意外と長続きするんですよ」

古都会 「え?そうですかねぇ?」

江藤  「じゃあ、お店の外観から撮らせていただきますね」

古都会 「あ、はい、お願いします」

   江藤、先に席を離れる。

古都会 「・・・(優香を気にする)」

優香  「・・・ばか」

古都会 「・・・(マチの方にも目を向ける)」

   古都会、江藤を追いかけていなくなる。

マチ  「・・・」

   マチの電話が鳴る。
   急いで電話に出るマチ。

マチ  「はい、高良です・・・え、今、ですか?」

#21 タクシー 

日比谷 「今は、(PM)5時前ぐらいですね」

   タクシーの中。

アキラ 「そうですか」

日比谷 「新幹線、時間大丈夫ですか?」

アキラ 「ええ、まだ大丈夫です」

日比谷 「すいませんね、スカイツリーでだいぶ長居しちゃいました」

アキラ 「いえ、僕行ったことなかったんで、良かったです」

日比谷 「東京に住んでると意外に行かないもんですよね、都内の観光地って」

アキラ 「確かに」

日比谷 「スカイツリー、東京タワー、浅草、築地、ヒルズにサンシャインに都庁にお台場・・・プライベートじゃあまり行かないなぁ」

アキラ 「・・・東京駅もそうかもしれません」

日比谷 「え?」

アキラ 「上京の時は何もわからず東京駅を目指しましたけど、住んでみると、別に東京駅である必要がないんですよね、新幹線は上野や品川からも乗れるし」

日比谷 「ああ、確かに・・・でも今日は東京駅から乗るんですよね?」

アキラ 「・・・東京に別れを告げるなら、やっぱり東京駅が良いなって思って」

日比谷 「なるほど」

アキラ 「・・・あの、ありがとうございました」

日比谷 「え?」

アキラ 「話聞いてもらって」

日比谷 「ああ、いえ」

アキラ 「少し気持ちが楽になりました」

日比谷 「それは良かった」

アキラ 「このタクシーに乗れて良かったです」

日比谷 「光栄ですね」

アキラ 「俺、頑張ります」

日比谷 「そうですか」

アキラ 「・・・(暗い表情)」

日比谷 「・・・美嘉さん」

アキラ 「え?」

日比谷 「本当に太陽だったんですかねぇ?」

アキラ 「はい?」

日比谷 「いえ、もしかしたら違うんじゃないかなぁと思いまして」

アキラ 「どういう、ことですか?」

日比谷 「わかりませんけどね、その彼女さんにとっては、あなたが太陽だったんじゃないですか?」

アキラ 「え、俺が?」

日比谷 「なんというか、別にどっちが太陽でも月でもいいんじゃないですかね、男と女、どっちが正しいなんてことはないと思います、太陽だってきっと月に憧れるもんですよ」

アキラ 「・・・」

日比谷 「あなたが思ってる以上に、美嘉さんは幸せだったかもしれませんよ?」

アキラ 「・・・わからないです」

日比谷 「離れてしまったら難しいですが・・・最後にこの街で頑張らなきゃいけないこと、あるんじゃないですか?」

アキラ 「・・・」

日比谷 「お客さん、東京での生活、幸せでした?」

アキラ 「・・・幸せでした」

日比谷 「それを伝えるだけでも、美嘉さんのためになるんじゃないですか?」

アキラ 「・・・」

日比谷 「・・・月島さん」

アキラ 「・・・はい」

日比谷 「見えてきましたよ」

アキラ 「え?」

日比谷 「東京駅」

アキラ 「・・・」

日比谷 「料金、710円で結構ですから」

アキラ 「え、いや、払いますよ」

   日比谷、メーターをリセットする。

アキラ 「ちょっと」

日比谷 「だって考えても見てください、東京駅から東京駅に来ただけですから」

アキラ 「そんな・・・」

日比谷 「ワンメーター以下ですね」

アキラ 「なんで・・・」

   タクシー、停まる。

アキラ 「・・・本当にいいんですか?」

日比谷 「お客さん、ここは終わりの場所じゃないんです」

アキラ 「え?」

日比谷 「ここは、どこへでも行ける場所なんですよ」

アキラ 「・・・本当に・・・ありがとうございました」

日比谷 「あれ?」

アキラ 「・・・?」

日比谷 「雨・・・」

#22 ホーム 

美嘉  「・・・止んじゃった」

   ホームに立つ美嘉。

美嘉  「・・・」

   そこに現れる幸夫。

幸夫  「あ・・・」

#23 インフォメーション 

陽子  「また来た」

   インフォメーションの窓口に座っている陽子。
   そこに現れる優香。
   不安そうにあたりを見渡している。

優香  「・・・」

陽子  「・・・?」

   そこに現れる京一。
   手には、お土産の袋。

京一  「優香」

優香  「・・・どこ行ってたのよ」

京一  「お土産買ってた」

優香  「気遣わなくていいのに」

京一  「そうもいかねぇよ、ご両親に挨拶するんだから」

優香  「・・・」

京一  「行くぞ」

優香  「ねぇ」

京一  「ん?」

優香  「こんなタイミングで聞くのもあれなんだけど」

京一  「なに?」

優香  「本当に私で大丈夫なの?」

京一  「え?」

優香  「これから先、私と一緒に居て、京一はそれで幸せ?」

京一  「なんだそれ、意味わかんねーこと言うなよ」

優香  「・・・もういい」

   優香、京一を抜いて先に行こうとする。

京一  「・・・不幸になってもいいよ」

優香  「え?」

京一  「お前と一緒にいられんなら」

優香  「・・・意味わかんねーこと言うな」

京一  「意味はわかるだろ」

優香  「・・・」

   優香、京一の腕を掴んで引っ張っていこうとする。

優香  「行こう!」

京一  「おい引っ張るなよ」

   京一と優香、仲よさそうに新幹線の改札に向かう。

陽子  「・・・うそぉん」


⑨へつづく。

※本作はフィクションです。登場する人物・場所・店名・出来事は実在のものとは関係ありません。

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