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『東 京<reprise>』舞台脚本⑥

※作品詳細、Storyは「『東 京<reprise>』舞台脚本①」を参照ください。

※前回のお話

登場人物

遠野 三明(とうの みつあき)(25)
電車に乗ろうとしない男。元バンドマン、現会社員。5年前は大学生。

近野 美嘉(こんの みか)(26)
電車に乗ろうとしない女。

森下 陽子(もりした ようこ)(31)
インフォメーション窓口の職員。5年前も同職。

関 晴海(せき はるみ)(31)
忘れ物承り所の職員。5年前も同職。

吾妻 古都会(あずま ことえ)(27)
東京グランスタのカフェ「Drip Maria」の店長。5年前は同店のアルバイト。

内田 幸夫(うちだ ゆきお)(23)
東京駅勤務のJR職員。5年前は上京したての学生。

高良 マチ(たから まち)(25)
東京在住のOL。はじめに仕事を依頼する。5年前は大学生。

濱 はじめ(はま はじめ)(32)
謎の男。5年前は無職。

江藤ひかる(えとう ひかる)(33)
出版社勤務のライター。5年前は違う出版社に勤めていた。

新橋 京一(しんばし きょういち)(30)
旅行代理店の社員。プロジェクトチームのチーフ。5年前も同職。

荒川 優香(あらかわ ゆうか)(29)
旅行代理店の社員。京一の同期だが部下にあたる。5年前も同職。

月島 アキラ(つきしま あきら)(30)
役者志望の男。今回、夢を諦めることを決意。5年前も同職。

日比谷 周次(ひびや しゅうじ)(45)
タクシーの運転手。5年前は日本中を放浪する自由人。

【脚本⑥】

※この作品は2014年当時の環境や状況をもとに描かれています。

#13 タクシー 

日比谷 「終わり、ですか?」

   タクシーの中。

アキラ 「はい、あとはいつ諦めるのかっていう生活が続いてました」

日比谷 「そうですか」

アキラ 「・・・東京に出てきた時は、何もかもが自由で、大きく輝いて見えた街並みも、今は全く違って見えます」

日比谷 「それは、どんなふうに?」

アキラ 「人に可能性を感じさせて、夢を見させて、その代償に時間だけをむしり取っていく、無機質な街です」

日比谷 「なるほど」

アキラ 「・・・この街の裏側に、一体どれだけの人間がいるのか、日の目を見れなかった人間がどれだけいるのか・・・それがわかるようになって気付きました、自分には、可能性なんか無かったんだって」

日比谷 「やはり難しいものなんですか、役者を目指すっていうのも」

アキラ 「一応事務所には入ってたんですけどね」

日比谷 「へぇ」

アキラ 「エキストラの仕事だけじゃ給料もほとんど貰えないんです、バイトしながら頑張ってたんですけどね、一向に食えるようにならなくて、役者をやるために生きてるのか、バイトするために生きてるのか、わかんなくなっちゃって」

日比谷 「難しいですねぇ、好きなことやって生きていくのも」

アキラ 「・・・だから諦めて、実家に帰ることにしたんです」

日比谷 「・・・そうですか」

アキラ 「・・・」

日比谷 「本当に、最後に行きたい所はないんですか?」

アキラ 「・・・あったとしても、行けませんよ」

日比谷 「どうしてですか?」

アキラ 「辛くなりますから」

日比谷 「・・・」

アキラ 「本当は諦め切れてないんでしょうね」

日比谷 「え?」

アキラ 「こうやって東京中ぐるぐる回って、何か踏ん切りつくわけじゃないのに」

日比谷 「・・・」

アキラ 「・・・」

日比谷 「もしよかったら、教えてもらえませんか?」

アキラ 「え?」

日比谷 「最後に行きたい場所、本当はあるんでしょ?」

アキラ 「・・・」

日比谷 「無理やり連れてったりしませんから」

アキラ 「・・・場所って言うか」

日比谷 「ええ」

アキラ 「・・・人、ですかね」

日比谷 「人?」

アキラ 「長い間、付き合っていた人がいたんです」

日比谷 「恋人、ですか?」

アキラ 「はい、ずっと一緒にいた人」

日比谷 「へぇ」

アキラ 「・・・いい人でした」

日比谷 「・・・今は?」

アキラ 「別れました」

日比谷 「どうして?」

アキラ 「変なこと言いますけど、僕にとって彼女は太陽みたいな人でした」

日比谷 「太陽?」

アキラ 「・・・僕は月だったんです」

日比谷 「・・・月?」

アキラ 「彼女、決して強い子じゃなかったんですけど、すごく優しくて・・・でもその優しさが辛くて・・・優しくされればされるほどやりきれなくて・・・僕には影が出来ていった・・・思っちゃったんです、僕は、彼女に夢を見させて、彼女の時間をむしり取っているんじゃないかって・・・だから、一方的に別れを告げました」

日比谷 「・・・そうですか」

アキラ 「・・・僕は、大きく欠けた三日月なんです」

#14 お忘れ物承り所 

晴海  「美嘉さん」

   窓口の横に座っている美嘉。
   晴海、近づいて話かける。

美嘉  「・・・」

晴海  「近野美嘉さん」

美嘉  「・・・はい」

晴海  「あの、傘、今日はもう届かないかもしれませんよ」

美嘉  「・・・困ります」

晴海  「大事な傘だったんですか?」

美嘉  「・・・はい」

晴海  「そっかぁ」

美嘉  「大事な人にもらったんです」

晴海  「そうなんですね」

美嘉  「でも大事な人はいなくなってしまったから、私にはあの傘しかないんです」

晴海  「・・・形見とか?」

美嘉  「生きてます」

晴海  「あ、ごめんなさい」

美嘉  「あの傘がないと、私は本当に一人になってしまう、一人でいくのは嫌なんです」

晴海  「これからどこか行くんですか?」

美嘉  「・・・はい」

晴海  「そっかぁ、雨ですしね、傘がないと困りますよねぇ」

美嘉  「困ります」

晴海  「・・・美嘉さんって、優しい人なんですね」

美嘉  「え?」

晴海  「だっていませんよ?そんなに傘を大事にする人」

美嘉  「?」

晴海  「『ひと雨500本』っていう言葉があるんです」

美嘉  「500本?」

晴海  「大都市で雨が降れば、500本の傘が忘れられるって言われてるんです」

美嘉  「そうなんですか?」

晴海  「今はまだ降ってるからそうでもないけど、すごいのは止んだ後、東京駅だけでも100本近い傘が届けられることもあるんですよ?」

美嘉  「そんなに・・・?」

晴海  「びっくりですよね、傘って、人が一番忘れやすい物なんです」

美嘉  「・・・」

晴海  「でも、傘を忘れても、それを見つけようとする人ってものすっごく少ないんです、傘を忘れた人が1000人いたら、取り戻そうとするのはそのうちたったの7人ぐらい」

美嘉  「そんなに少ないんですか?」

晴海  「そう、どうせ傘は戻ってこないだろー、とか、誰かが持って行ってしまっただろー、って諦めてしまう人がほとんどなんです」

美嘉  「・・・」

晴海  「ま、ほとんどは区別のつかないビニール傘だったりするんですけど、それでも、なんか可哀そうじゃないですか、勝手に諦められるって・・・だから美嘉さんは、傘を忘れない、優しい人だなぁって思ったんです」

美嘉  「違います」

晴海  「え?」

美嘉  「忘れられないし、優しく出来ないんです、私は弱いから、本当の意味で人に優しくすることが出来ないんです」

晴海  「本当の意味?」

美嘉  「人から優しくしてもらいたいから、嫌われたくないから優しくするんです、だから結局は相手を傷つけるんです」

晴海  「そうなの?」

美嘉  「だから・・・捨てられたんです」

晴海  「美嘉さん、何かあったの?」

美嘉  「・・・傘」

晴海  「え?」

美嘉  「なくした傘が戻ってくる人って、どれぐらいいるんですか?」

晴海  「えと・・・」

美嘉  「教えてください、忘れた人が1000人いたら、どれぐらいですか?」

晴海  「・・・多くても、3人ぐらい」

美嘉  「・・・」

晴海  「あ、でも届け出を出した人のうち3人って考えれば、半分ぐらいは」

美嘉  「戻ってこないんですね」

晴海  「え?」

美嘉  「・・・わかりました」

   美嘉、立ち上がってどこかへ行こうとする。

晴海  「あの」

美嘉  「私は、一人では輝けない小さな三日月なんです」

   美嘉、どこかへ行ってしまう。

晴海  「・・・戻ってくるといいな」

#15 カフェ(5年前)

三明  「戻らなくていいよ」

   「Drip Maria」
   テーブルに座り、話をしている三明とマチ。

マチ  「ええ、そう?」

三明  「あの時は良かったとか、過去に戻りたいとか思っちゃったら、そっからの人生真っ暗になっちゃうでしょ」

マチ  「そっか」

三明  「てか、どうせ戻れないんだから、腹くくって今を楽しまないと」

マチ  「まぁ今は楽しいからいいんだけど」

三明  「じゃあいいじゃん」

マチ  「今が楽しすぎて、逆に未来が心配というか」

三明  「今から心配したってしょうがないでしょ」

マチ  「だって私たちもうすぐ大学3年だよ?これから就活だって本格的に始まるし」

三明  「大丈夫だって、マチなら何とかなるよ」

マチ  「そうかな?」

三明  「そう」

マチ  「ていうか三明はどうすんの?」

三明  「俺?」

マチ  「そ、なんか真面目に就活する気もなさそうな・・・」

三明  「そんなことないよ、するする、適当にちゃちゃってやっちゃうよ」

マチ  「そんな簡単にいかないでしょ、ていうかあんなに単位落として、卒業できんの?」

三明  「大丈夫じゃん?去年はほら、バンドが忙しかったから」

マチ  「でも今年も続けるんでしょ?」

三明  「もちろん、そして授業もちゃんと出る、任せろって」

マチ  「はぁ、本当に前向きだよね三明って」

三明  「そこが取り柄っすから」

マチ  「羨ましいよ、私は後悔ばっかだもん」

三明  「そう?」

マチ  「うん、もっと違う道もあったんじゃないかとか、すぐ考えちゃう」

三明  「じゃあ、俺と付き合ったことも後悔してる?」

マチ  「ふふ、それはない、今すごく楽しいから」

三明  「そしたら心配する必要ないっしょ、どんと構えなさいよ」

マチ  「そっか、そうだね」

三明  「結局さ、人間なんて無い物ねだりする生き物なんだよ」

マチ  「え?」

三明  「可能性っていうのは前に進めば進むほど枝分かれしてて、そのどれかを選ぶしかないんだけど、失ったものは戻ってこないって考えると、隣の道が輝いて見えるもんなんだよ」

マチ  「何それ、人生哲学?」

三明  「そう、哲学」

マチ  「じゃあ、隣の道が輝いて見えたらどうしたらいいの?」

三明  「そん時は俺がこう言ってやるよ、安心しろ、お前の道も輝いてるぜって」

マチ  「誰だよあんたは」

三明  「はは、ま、結局は自分で信じるしかないんだって、自分の道をさ」

マチ  「さすが、バンドマンの言うことは違うね、何て恥ずかしいキラキラ発言」

三明  「だろ?」

優香  「ちょっと聞いた?人身事故だって?」

   店内に入ってくる京一と優香。

京一  「ああ、聞いたよ」

優香  「ほら見なさい、早く出なかったら絶対影響受けてたよ、私のおかげで助かったわね、ほら感謝しなさい」

京一  「何が感謝だ、結果オーライになっただけだろ、自分のミスを正当化すんのはやめてもらえます?」

優香  「ミスじゃありません、計画性の無いあんたのためにあえて2時間早めに伝えておいたんです」

京一  「おお今度は開き直りという芸を覚えたか、偉いなゴリラ1号!」

優香  「だれがゴリラ1号よ!」

三明  「ね、アレ凄くない?」
マチ  「うん」

   カウンターに現れる、古都会(あまり慣れていない感じ)。

古都会 「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

京一  「あ、ブレンド一つ、ミディアムサイズで」

古都会 「はい、えーっと、ブレンドがお一つ」

優香  「・・・(メニューを見る)」

京一  「早く決めろよ」

優香  「ちょっと待ってよ」

京一  「すいませんね」

古都会 「あ、いえ」

優香  「えと、東京ミルクコーヒー、ミディアムで」

古都会 「かしこまりました、あ、お会計はご一緒でよろしいですか」

京一  「あ、大丈夫ですよ」

古都会 「ありがとうございます、それでは・・・えー、2点で750円でございます」

京一  「はい(紙幣を渡す)」

古都会 「はい、1000円頂戴いたします、こちらレシートと250円のお返しです」

京一  「ありがとう」

古都会 「ただいまお作りしますので、少々お待ち下さい」

   古都会、ドリンクを作りにいなくなる。

京一  「・・・」

優香  「ちょっと、なんでそんなに急かすのよ」

京一  「店員さん待たせたら悪いだろ」

優香  「私のことは待ってくれないくせに」

京一  「お前と違って可愛いから、あの店員さん」

優香  「・・・死ね!」

京一  「生きる!」

優香  「・・・」

京一  「・・・」

   その様子をなんとなく見ている三明とマチ。

マチ  「あの人たち、付き合ってんのかな?」

三明  「さぁ、でもああはなりたくないよね」

マチ  「え?」

三明  「相手の悪いとこしか見えてないんだよ」

マチ  「うーん、そうかもね」

三明  「もっとお互いの良い所を尊重していかないと」

マチ  「でも長いこと一緒にいたら、私たちもああなっちゃうんじゃない?」

三明  「え?」

マチ  「だって、人ってちょっとずつ変わっていくものじゃん」

三明  「大丈夫だよ」

マチ  「そう?」

三明  「俺たちならその変化を楽しみながら、常に一番輝く道を歩んでいけるって」

マチ  「・・・出た、キラキラ発言」

三明  「安心しろ、お前の道は輝いてるぜ」

   非常停止ボタンのベルの音。
   暗転。

アナウンス『ただいま、人命救助を行っております、白線より離れてお待ちください、ただいま・・・』

#16 ホーム(5年前)

   線路わきの退避スペースにうずくまっている、はじめと江藤。

はじめ 「はぁはぁはぁ・・・」

江藤  「(泣きながら震えている)うっ・・・うっ・・・」

はじめ 「泣くなら飛び込むなっつーの・・・」

江藤  「・・・どうして・・・助けたんですか・・・?」

はじめ 「・・・どうして、飛び込んだんすか?」

江藤  「・・・」

はじめ 「・・・わかんないっすよ」

   電車が動き出す音。
   暗転。


⑦へつづく。

※本作はフィクションです。登場する人物・場所・店名・出来事は実在のものとは関係ありません。

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