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わたしたちのnote〜スキからはじまる心の物語〜第2章

第2章|彼女の過去

「見失いかけた自分」


「ねえ、ママ。今日の夜ごはん、なに?」

夕方のキッチンで、水道から流れる水の音にまぎれて、かき消されそうな声が飛んできた。
「今日はカレーだよ」
そう答えると、子どもの声が弾む。
「やったー!」

その声を聞きながら、彼女は少しだけ微笑んだ。
でも、その笑みの奥には、言いようのない疲れがあった。

忙しさに押し流されるように過ぎていく毎日。
家事、育児、仕事。
感謝されることはあっても、見つめられることはない。

「ママ」と呼ばれることは、うれしい。
「○○さん」と職場で頼られることも、ありがたい。
けれど、どこかに“わたし”という存在が置き去りになっている気がしていた。

夜、子どもを寝かしつけたあとのリビング。
小さな部屋の灯りをひとつだけつけて、彼女はそっとスマホを手に取る。
誰にも邪魔されないこの時間だけが、自分に戻れるひとときだった。

その日、偶然見つけたのが「note」だった。

白い背景に、シンプルな投稿画面。

「タイトル」
「ご自由にお書きください。」

と出ていたが、何も思い浮かばなかった。
とりあえず書いてみた。

今日も、誰にも本当の気持ちは話せなかったけど、生きてます。


誰に見せるつもりもなかった。

だけど、翌朝、スマホに通知がひとつだけ届いていた。

〇〇さんがスキしました!
作品が読者に届いています!


驚いた。
まさか、誰かが読んでくれたなんて。
ほんの一行でさえ、どこかの誰かに届いたのだと思うと、
胸の奥があたたかくなった。

それから、投稿を少しずつ続けた。
いつも夜の静かな時間に。
職場で言えなかったこと。
子どもに強く言ってしまったあとの後悔。
誰にも打ち明けられないような弱さを、noteにそっと置いた。

ある日、見慣れたアイコンからスキが届いていることに気づいた。
数日前も、またその前も。
毎回、その人だけが欠かさず読んでくれている。

「この人は、きっと私の言葉を“読む”だけじゃなく、“受け取って”くれている。」

そう感じるようになった。

コメントは少なかった。
けれど、たまに添えられるその言葉は、どれも静かで、あたたかかった。

「今日の投稿、すごく沁みました」
「お子さんの笑顔が目に浮かぶようです」
「無理しないでくださいね」

彼女は、その人のアカウントをそっと覗いた。
短い日記のような投稿。
誰かに見せようと書いているわけじゃない、
自分と向き合うように綴られた言葉たち。

どこか、似ていると思った。

言葉の向こうに、同じような孤独を感じた。
叫ぶような孤独じゃない。
でも、確かに胸の奥にひっそりと横たわっているもの。

「この人も、きっと自分を見失わないように書いてるんだ。」

そう思ったとき、彼女はふと涙ぐんでいた。

それからというもの、noteは彼女にとって“生活”の一部になった。
朝ごはんを作りながら「これ書こう」と思ったり、
バスの中で見た風景に心が動いたりすると、自然に言葉が浮かぶ。

投稿に対する反応を求めているわけじゃなかった。
でも、やっぱりその人から「スキ」が届くと、少しだけ胸が鳴った。
それは承認欲求なんかじゃない。
「見つけてもらえた」という小さな希望だった。

やがて季節は巡った。
子どもが一つ学年を上がり、仕事の環境も少しずつ変わった。
そんな日々のなかでも、noteはいつも彼女のそばにあった。
疲れた夜、嬉しい出来事があった朝、言葉にしきれない孤独を抱えた日。
ページを開けば、そこには「いつもの場所」が待っていてくれた。

「あなたの言葉には、ひとすじの光がありますね」

その人が、コメントでそう書いてくれたのは、
投稿を始めてしばらく経った頃だった。
そのときの気持ちを、どう表現すればいいのか、今でもうまく言えない。

「書いてよかった」
ただ、それだけだった。
それだけなのに、その言葉は深く染みて、
彼女の中で長く、長く灯っていた。

そして、気がつけば5年が経っていた。
ふと過去の投稿を振り返ったとき、その長さに自分でも驚いた。

その人のコメントは多くを語らない。
でも彼女は知っていた。
その人は、いつも、黙って寄り添ってくれている。

会ったこともない。
声も知らない。
けれど、心だけはずっと交差し続けてきた。


この物語が、あなたの日々にもそっと寄り添えますように。
▶︎次回|「第3章:彼の過去」

――つなぐ|HIROMI🌸


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