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【最終回】ビラ配リスト入門 第5章 私とビラ配り

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前回:第4章 さまざまなビラ配り

ある日すくっとビジネス書っぽいものを書こうと思い立ち、図書館の棚に並んだビジネス書を片っぱしからざくざく読んでいたときのことです。

ビジネス書の著者による、鉄板の自己紹介があることに気づきました。それは、「〇〇に出合う前はこんなに★★だった私は、〇〇に出合ってこんなに☆☆になりました!」というものです。

どん底→〇〇に出合う→ハッピーな人生、とか、うだつの上がらない平社員→〇〇に出合う→イケてる社長、とか、貧乏→〇〇に出合う→お金持ち、とか、コミュ障→〇〇に出合う→成績向上&家庭円満&人脈爆増、とか……。

どのビジネス書の前書きでも、たいていこんな明快なビフォーアフターが示されています。読んでいるだけで、なんとなくモテモテのイケてる金持ち気分になってしまいそう。

それを踏まえて私とビラ配りのこれまでを振り返ってみたものの、残念ながらビラ配りによって華々しく人生が好転した記憶はありません。
ビラ配りができるからといって、たちまち人生がときめくわけでも、大儲けできるわけでも、社会的な地位が爆上がりするわけでもないのです。

それでも、もしビラ配りをしていなかったらこういう人生ではなかったのだろうな、と思うことはいくつもあります。

たとえば、趣味で作った本をイベントで売り始めたこと

もともと私は、コロナ禍の在宅勤務で持て余した時間にエッセイを書き始め、2021年から自費出版でエッセイ集を作り始めました。
noteでつながった人たちに売るだけならネット通販だけで十分だったけれど、せっかくならリアルなイベントでも売ってみようと文学フリマに出店。

そこで作品を販売しながら自作のビラを配ってみたところ、たまたま通りかかって話を聞いてくれた人たちが本を買ってくれ、そのうちの何人かは毎年、本が出るたびに買ってくれるお客様になりました。
書店を経営している方が立ち止まってくれて、その方のお店に私の本を置いていただくという幸運に恵まれたこともありました。

「けっこう書き溜めたから本にしようかな」
「ついでに即売会に出てみよう。私、ビラ配れるし」
「一回出てみたら楽しかったから、また出てみようかな」

一つひとつの選択は、ごくごく軽いものでした。
けれど、ビラ配りに背中を押されて踏み出した即売会への出店は、当時の自分も想像できなかったほどの豊かで愉快な人生をもたらしてくれました。

ビラ配りで小さく変わったこと、その2。
人にものを勧めるのが得意になったこと。

ビラ配りを極めた結果、ビラがなくても商品を勧められるようになりました。
ビラに書かれていそうな情報や、おすすめポイントさえ頭に入ってさえいれば、正直ビラは必要ないのです。
やることはビラがあるときと同様、相手の要望と商品の共通点を探してピンポイントに推すだけです。

たとえば私は、ここ4~5年ぬか漬けに惚れ込んでいます。
きっかけはコロナ禍で不要不急の外出の自粛が求められていたころ、「一人暮らしの部屋で何か生きもの(菌類)を育てて癒やされたい」と願ったことでした。

最初は一人で始めたぬか漬けでしたが、ぬか床のかわいさや漬けてみた食材などをnoteで発信しはじめたところじょじょに人が集まり、さらには私の記事を機にぬか漬けを始めてくれる人まで現れるように。

そのうち私はnoteや書籍で培ったぬか漬けの知識をもとに、友だちや同僚にもぬか漬けを勧めるようになりました。
どうもぬか漬けは認知度は高いものの、始めるには一歩勇気が必要なようです。
ぬか漬けをやっているというと、少なからずぬか漬けに関心を抱いている人からは、「続けるのって大変じゃない?」「容器はどんなものを使っているの?」「腸内環境が整うんだっけ」「一品おかずが増えるのはいいね」「きゅうり以外に漬けるものあるの?」などと反応があります。

そうした質問に「丈夫に育てれば週1に混ぜるくらいで大丈夫だよ」「私は100均のタッパーで漬けてます」「たしかに便秘は解消したかも」「おかずにもつまみにもなるよ」「ゆで卵や厚揚げもおすすめだよ!」などと自身のぬか漬け経験を答えれば、経験上、高確率でぬか漬けの布教は成功します。
これは私がすごい、ビラ配リストがすごいというよりも、ぬか漬けが偉大なのかもしれませんね。

ぬか漬けのことは置いておいても、日頃から自分が「いいな」と感じたものの魅力を言語化したり、自分には合わなくても「こういう人には合うかもしれないな」と思いを巡らせたりするビラ配り的な訓練は、人との距離を詰める際に非常に役立ちます。
ビラ配りの技術は相手に得をしてもらうだけではなく、商品を通じてお互いの好みを知り、一足飛びに仲よくなれる手段としても使えるのです。

ビラ配りで小さく変わったこと、その3。
それは、仕事や転職に対する姿勢です。

私は社会人になってから二度の転職を経て、現在三つ目の職場で働いています。
正直、自分でも驚いています。
全然こんなつもりじゃなかった。

学生時代のアルバイトは一度始めたら卒業まで続けていたものばかりだったので、一年間のインターンを経て新卒で入った会社を2か月で辞めたときには、これから自分はいったいどうなってしまうのだろうと震えました。

が、深夜2時に即レスを要求してくる上司、日ごとに目が死んでいく同僚、23時退社・朝5時出勤が連続するシフトを前に、「保証された月給のありがたみ」も「石の上にも三年」も「社会人としての自覚と責任感」も無力でした。
気がついたら私は退職届を手に、上司に「近々お時間いただけないでしょうか?」と声をかけていました。

あのときすんなり退職を選択できたのは、ビラ配りがあったからです。

この職場を辞めても、ビラ配りをすれば食いつないでいける。
この職場にいるかぎり上司が入れ替わることはあまり望めないけれど、ビラ配りなら人間関係や職場環境に左右されずに働けるし。
だから、過酷な組織で命を削るくらいなら、個人でほそぼそと生きていこう。
組織を抜けても、お金を稼ぐ手段はある。

学生のうちにそれを経験として得られたことは、私にとってはとても大きなことでした。
しかもビラ配りはこれまで見てきたとおり、特別な資格も、専用の道具も必要なく、ほとんど身ひとつでできる仕事なのです。

私にとってビラ配りは、
自分を含めた誰かが一歩踏み出そうとするのを応援するための技術であり、
自分の好きを言語化して広めていく技術でもあり、
自分の心身の健康を守るお守りでもあります。

これから先も、
自分が新しいことを始めようと思ったとき、あるいは親しい人が一歩踏み出そうとしているときに、「ビラ配りならできるよ!」と言える人でありたいし、
いいなと思うことはどんどんシェアしていきたいし、
とにかく健やかに働き続けていきたいなと願っています。

さて、ここまでお付き合いいただきましたみなさま、本当にありがとうございました。

内容が超ニッチなうえにずんずん字数が膨れ上がってしまい、最後まで生き残るのは誰かな?と邪悪なゲームの主催者みたいな気持ちでここまで書いてきました。2万字越えなんて、普段のエッセイの10倍近い字数になってしまいました。
ここまでたどり着いたみなさまには、私がビラ配りの権威だったら、ビラ配リスト認定証を配ってまわりたいくらいです。
しまった、無資格でできるからビラ配りっていいのだよ、という話をしたばかりでしたね。
少しでも、ビラ配りの楽しさが伝わっていたら幸いです。

ビラの掲載許可をくださった豆千さんと白火夢野さん、それから一緒にイベントに出てくれるとき子さんや、羽ばたくチームのみなさまにもあらためて感謝を。
今後のイベントでも、たくさんの方にビラを届けられるように頑張ってまいります!