【ショートショート】ネタバレアイウェア
「もう、これ無しでは生きられません」
正はネタバレ眼鏡を人差し指で押し上げながら言う。
この眼鏡はあらゆるものを解析し、これから起こるであろう事象を予測しレンズに表示する。運転しながら使えば道路に飛び出してきそうな小学生を予測し、空を見上げれば夕方に雨が降ることを予測する。
映画館で使えば、これから起こりそうなストーリーを予め教えてくれるので、どんなに驚くシーンでも心臓に悪くない。
「もうこれ無しでは生きられないわ」
怜はネタバレアイマスクを撫でながら言う。
ネタバレ眼鏡のカウンターとして生まれたこの製品は、全てのネタバレをシャットアウトする。
ネタバレしそうな友人が話し出すと、逆位相の音波を発生し音声を遮断する。映画の予告で「そこは見せたらダメでしょう」という余計な情報は、レンズが黒くなりネタバレを回避。もうネタバレに怯えることはない。
正は自宅マンションに帰宅した。ネタバレ眼鏡が「ピピ」と反応し、玄関の異変を知らせる。
『外出時に存在しなかった指紋を検知。友人のN、S、Rのものと一致。妻の朝の言動【今日は何時に帰るの】と照らし合わせると、誕生日のサプライズの可能性大』
正はゴクリと唾を飲み込むと、なるべく自然に聞こえるように「ただいまー」と声を上げた。
再び「ピピ」と音が鳴る。
リビングの暗がりの中、シルエットがレンズに浮かび上がる。
『友人の手にクラッカー、妻の手にはロウソクの立てられたケーキ、3秒後にクラッカーが──』
パーンという音とともに、紙吹雪が正の頭に降りかかる。
正はネタバレ眼鏡を外すと、ゴミ箱に投げ捨てた。
怜は窓の外の夜景をうっとりと眺めた。少し値の張るレストラン。今日は恋人との記念日だ。グラスを鳴らすと恋人が口を開く。
「もうちょっと時間を掛けようとは思ってたんだけど、実は──」
恋人の声が突然聞こえなくなる。無音のままパクパクと口を動かす恋人がポケットから何かを取り出す仕草をすると、怜の目の前は真っ暗になった。
怜はネタバレアイマスクを外すと、テーブルの下で握り潰した。恋人の一世一代のプロポーズを聞き逃した怜は、歯噛みしながらも「喜んで」と応えた。
終
ふたつ要素を入れるとやっぱり長くなりますね。欲しいような欲しくないような、そんなネタバレアイウェアでした。
田原にかさまの毎週ショートショート【ネタバレアイマスク】に参加させて頂きました。
前回のお題はできなかったので、前々回のお題です。
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