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【ショートショート】記憶の稚魚

 青空の中を泳ぐように、ピンク色の花びらがキラキラと舞い踊る。

 少し緊張した面持ちで、門の前に直立する少年。

「はい、チーズ」という声が、そこかしこから聴こえてくる。

 私の構えたカメラに向かって、少年ははにかみながら微笑んだ。


「はい、お客さん! どの仔にする?」

 色とりどりの魚の入った水槽の前で、私はラベルに書かれた名前をひとつずつ眺めた。

 【結婚式】、【出産】、【県大会優勝】、【武道館ライブ】──

「活きのいいうちに食べてくんなぁ! 幸せはお墨付きだよ!」

 映像を餌に育つ魚がいる。その魚を食べれば、その魚が食べ続けた映像を追体験できるという。

「この、【入学式】を、お願いします」


 私は桜色の魚を口に放り込んだ。口の中に甘酸っぱい香りが広がり、魚が喉を滑り落ちていく。

 

 真っ青な空に桜の花びらが舞う。

 見知らぬ少年が門の前で微笑む。

 ファインダー越しの笑顔がぼやけて霞む。


 きっと、見るはずだった風景。

 きっと、見るはずだった笑顔。


 夢から覚めた私の手の中には、あの子のぼろぼろの靴下が、いつも通り丸くなっていた。


 終


きのうインドカレー屋さんで、初めてチーズナンを食べました。あの衝撃のおいしさは、きっと忘れられないでしょう。

田原にかさまの毎週ショートショート【入学式の養殖】に参加させて頂きました。しかし、お題が難しいです、田原さま!

前回のお題はこちら

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