【ショートショート】カワウソ字
動物園の人気者、カワウソのカワたんの展示場は今日も人々で賑わっている。カワたんをひと目見ようと、右へ行ったり左へ寄ったり。中には【カワたんしか勝たん】のウチワを振る人間の姿も。
やがて人々のざわめきは消え、動物の気配だけが薄暗い園内に満ちる。飼育員の河合は掃除用具を片手にカワウソの展示場までやってきた。
「カワたん、今日もお疲れさま。大人気……あれ?カワたん?」
展示場の中はもぬけの殻。カワウソのカの字もなかった。河合はプールの中から石の裏まで、目を皿にして探したが、カワたんの姿はどこにも見当たらない。
その代わり見つけたものがひとつ。プールに漂う1枚のチラシ。そこにはカワウソのイラストとともに、こんな言葉が書かれていた。
【動物園のアイドル、カワたんに会いに行こう!】
河合が最近作ったチラシである。裏返してみると、ウネウネと鰻がのたくったような文字が書かれていた。
【河合さん、ごめんなさい。僕はこれ以上みんなを騙せないです。僕は、カワウソなんかじゃない、ウナギイヌですから。ワンワン】
「カワたん……」
がくりと肩を落とした河合の手から、チラシがひらりと舞い落ちる。プールに浮かんだチラシが、水面の月とともに揺れていた。
終
むかし、昭和の頃はウナギイヌというウナギと犬のハーフの生き物がいたんです。ワンワン。
あれ、これはカワウソ字じゃなくてウナギイヌ字では……まあ、これでいいのだ。

たらはかにさまの毎週ショートショート【カワウソ字】に参加させて頂きました。
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