【ショートショート】文学茶釜
「今日はみなさんも、驚かれるんじゃないですかね」
とある寂びた茶室の中央で、茶釜が湯気を上げている。
「ほう、それは楽しみだ。前回の宮沢賢治先生を越えられますかな?」
茶室の主が蚤の市で手に入れた、古ぼけて煤けた茶釜。
茶釜の汚れを取るのに紙を中に入れて煮出す方法がある。たまたま近くに置いてあった古本のページを破り、湯を沸かした。あれやこれやと雑事を片付け終わり、つい忘れてそのお湯で茶を淹れてしまったのだ。
それを一口飲んだ途端、頭の中に何者かの声が響いた。少ししてから、その本の作者の声だと気付いた主は、面白がってお茶仲間を集めては定期的に茶会を開いていた。
「今日はなんと、千利休の幻の手紙です」
「なんと!利休と言えば言葉を残さなかったことで有名な……そんな貴重なものをいいんですか?」
「利休の声を聞けるのならば、惜しくはありませんよ」
主が点てたお茶を、客人たちはそれぞれズズッと音をたて飲み干した。茶の香りに交じって古い紙の香りが口内に漂う。
茶室に静謐な空気が流れる。聞こえるのは鹿威しの音と小鳥の囀りばかり。利休らしき気配は感じるものの、微かな息遣いのみが各々の頭の中に静かに流れた。
「──さすがは、利休ですな」
400年の時を越え、利休の精神は受け継がれる。
終
初めは三島由紀夫で書いていたのですが、たまたまテレビで千利休の番組を観てしまいこうなりました。これ文学じゃなくね?と気付いたのは書き終わってからでした😅
たらはかにさまの毎週ショートショート【文学茶釜】に参加させて頂きました。
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