【連載小説】第14話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜前回からの続き〜
夜になりチョウマに留守番を依頼された吾作は、
イオリの勧めで布団で寝ていた。
酔いに任せて寝て見たその夢は、夢物語なのか現(うつつ)なのか。
それすらも虚ろに傾いてしまう寝魂(ぬるたま)の夢であった。
不穏③ 夢と現
夢のなかに出てきた異形が二つ
果たして 呪いは真実かそれとも愛か
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
その夜、吾作は珍しい夢を見た。
二匹の怪物に追われる夢。
逃げる吾作を二匹の怪物が執拗に追いかける。
右往左往して
「もうダメだ……!」
というところまで追いつめられて、そこで目が覚めた。
「はぁはぁはぁ」
と息が荒い。
気づくと頭からつま先まで、ビッショリと汗で濡れていた。布団もだ。
「――うぅ? なんだべ?」
眠い目を擦り、気持ちの悪い濡れた布団と髷に気をとられて、夢のことはすっかり忘れた。
眠気が続く。
着ていた着物を脱いで褌一つになる。
そして板の間に横になり腕を組んで目を閉じた。イビキは間もなく響く。
「へっぷし!」
くしゃみを一つ。
イオリはそっと近づき濡れていない掛け布団を掛けてあげた。
板の間の居心地の悪さも気にならなくなった。
時刻は夜半。子の刻四ツを過ぎている。

東の空が白みはじめた。
春の暁降ちは、しっとりと霧に煙る。
間もなく夜明けだ。
裁縫道具を片づけたイオリ。
イビキをかいて熟睡している吾作を尻目に家の扉を開けて外に出てきた。
薄明の空は淡い薄紫に色づいていた。
川の向こう岸、河原に先ほどまで森を駆けていたあの黄金の牡鹿が立っている。
走っていたときと違い今はずいぶん落ち着いているようだ。
嘶くこともせずに、ただじっと立ってイオリを見つめている。
イオリも身じろぎもせず牡鹿を見つめ返す。
日は徐々に高くなっていく。
空を照らし森を照らし地上を明るい光で染めていく。
牡鹿が前足を一歩前に進み家に近づいた。
イオリもまたそっとその牡鹿に歩み寄る。
決して怖気づくことなく視線を逸らさずに。
昼と夜の一日が終わりまた同じ一日が始まる。
吾作も、吾作以外の人も皆が同じように生きている。それぞれの人生を生きている。
チョウマもイオリもそれは同じ。
ただチョウマとイオリには、誰にも知られてはいけない虚ろな陰が隠れていた。
そうして二人は生きてきた。
これからもそう生きていかなければならない。
今は吾作はまだ寝ている。
何も知らずにいる吾作に何も伝えることはできなかった。
つづく
