【連載小説】第六夜『王さまお伽草子』 (The Sultan’s Otogizōshi)
第六夜
宵からの宴
チャンドラの名が相応しい、銀色の下の弓張が浮かぶ可惜夜。
離宮では庭園を一望できる大広間で、宴が催されていた。今夜は男子禁制も解禁である。
甘い芳香を放つ花々が灯籠の揺らぐ灯りで照らされて、燐光がボォっと発するように幻想的で美しかった。
遠くから、密林に潜む獣たちの咆哮も、幽かに届いていた。
ただここでは、伝統楽器の打楽器の複雑なリズムと弦楽器の特有な柔らかな音色が、典雅な音楽を奏でていた。
踊り子は、きらびやかな極彩色の民族衣装を装い、リズミカルに踊っている。
詩人は音楽に合わせてスルタン、アブドゥラ・マリク・シャーの永遠なる繁栄を歌う。
聴衆の来賓たちはうっとりと聞き惚れていた。
高床式の涼し気な床にはわざわざペルシャから輸入した絨毯が敷かれ、唐渡りの象嵌細工のテーブルが置いてある。
そこに豪勢な食事が用意されていた。
例えばマレー料理やニョニャ料理など。
マレー料理は炭火で焼いた鶏肉や鹿肉、羊肉などに甘辛いソースをかけていただく串焼。
ナシゴレンとミーゴレン。カリアヤムのチキンカレー。これらは全てハラル料理である。
ニョニャ料理は前菜や魚のすり身の料理。
またスープが数種類ある麺。その他に南国フルーツのマンゴーやドリアン、ランブータンなどが用意された。
ドリンクは、明国からの献上品で松蘿茶か龍井茶。ココナッツミルクや柑橘類のシロップ入りジュース。
イスラムに改宗していない各地の領主には、ビンロウ酒や南欧からの献上品である葡萄酒などが存分に振る舞われた。
テーブルの上座に、スルタンがゆったりした躰が沈み込むようなソファに、胡座をかいて座る。
長いテーブルのスルタンに近い順番から、地位の高い貴族や軍の将校などが座った。
皆がスルタンの長旅の疲れを労い、何ごとも大事なく帰国したことに安堵したと祝辞を述べた。
そうして祝辞を聞くスルタンは、ときに頷きはするものの、手元を見つめたかと思えば悠くを見遣り、終ぞ笑みを見せなかった。
スルタンのその姿をニザムは、チラッと見て、何事か思案を巡らせていた。
誰にも気づかれずに、相談することもなく。
つづく
<次回、第七夜 世界情勢>
