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【連載小説】第八夜『王さまお伽草子』(The Sultan’s Otogizōshi)

第八夜
近侍ニザム


 話しが一段落したところで、スルタンの脇に立つニザムがコソコソと耳打ちした。

 それを聞いてニンマリするスルタン。
「用意が出来たか――連れてきてくれ」

 給仕と警備の者たちが一旦下がると、まもなく何やら揉めている小さい者を連れてきた。
 灯籠に照らされていたのは一人の子ども。まだ後ろ手で縛られている。
 __そう彼は。
 倭寇と云われた、あの子どもだった。
 よくよく見れば、なかなかに端正な顔立ちだった。
 ボサボサだった頭はよく洗いきれいにいてある射干玉ぬばたまの髪。蘭奢待ランジャタイのいい香りがする。
 それを後ろで一つに纏めてまるで馬の尻尾だ。
 鉢金の代わりなのか、なぜか銀のティアラ。
 それには風信子石ジルコンが散りばめられて灯籠の灯りでキラキラと光る。
 着ている着物は、スルタンの所蔵であろう白妙しらたえ練絹ねりきぬ。世話した者に着付けの知識がなかったようで、帯の代わりに白なめし革のベルトを締めていた。
 草履やサンダルではなく玉沓たまぐつ。手甲と脚絆などは無粋ぶすいなのでさせなかったと聞いている。
 日に焼けた浅黒い肌。
 見て取れるのは、尖った刃物のように鍛え上げられた、筋肉質の細身の躰。
 白装束と黒い肌と、長い黒髪の対比が余情妖艶よじょうようえん美々びびしい。
 灯籠の灯りでも判る、紅を差していた。

 その風体を見てスルタンは首を傾げた。
「……? 来たか小僧」
 若干、違和感を感じながらも立ち上がり、スルタンが声をかけた。
 倭寇の子どもは黙って鋭い眼差しでスルタンを睨みつけていた。 
 テーブルの席に腰掛けたままの貴族や軍人などは、向き合う二人のことの成り行きを、息を呑んで見守っている。
 倭寇の子どもに、恐らくはスルタンにもその他大勢のことは目に入らない。
 臆することなく二人はともに、ジッとお互いを睨んでいた。その緊張感に周囲は固唾を呑む。


 近侍ハスのニザムは天竺インド出身。
 頭にターバンを巻いている。
 仕立てたシャルワニという上着とパジャマと云われるズボン、そして履いている革靴はいつでもピカピカに磨いている。
 髭の手入れを欠かすこともなく、かっちりとして隙がない。
 その昔に家族でプンダリーカ王国に移り住み、スルタン、アブドゥラ・マリク・シャーの父、つまり先代の王、プトラ・マリク・シャーに若くして目をかけられ仕えていた。
 幼い頃からスルタンの従者ハスとして教育され、間諜シノビとしても鍛えられた。
 主のスルタンにはよく悪態もつくが悪気は一切なく、偉大な先代の王との比較しての小言だと、本人は思っている。
 独身で、その性根は真面目でしなやかでたくましい、しかし皮肉屋で直截な物言いをする近侍だった。

 そのニザムがニヤニヤしている。
 やや小馬鹿にしたような半笑い。

 それに気づいたスルタンは気が気でなく倭寇の子どもから目線を外してニザムに問いかけた。
「なんだ? なにかあったか?」


つづく


<次回、第九夜 倭寇の少女>



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