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【連載小説】第九夜『王さまお伽草子』(The Sultan’s Otogizōshi)

第九夜
倭寇の少女


 ニザムは笑いを堪え忍んでいるように見えた。

「侍女のクロエとヌルが申しておりました。
 大切な話にございます。フフッ!」

 堪えきれずにスルタンに耳打ちした。
「……」

 血相を変えるスルタン。
「なんだぁ!? お・ん・なぁ!?」

 ニザムは大笑いしないように必死に手で口元を抑えていた。
「身体を洗う為に裸にして判ったそうです。
 また後宮が賑やかになりそうですな」

 表情が変わったスルタンが目線を戻す。

 少女のキツい目つきは変わらずそのままだ。

「カァ――ッ! なんだそうか!
 だからこの身形か! 
 気づかなかった、不覚!!」

「とんだ見込み違いで、勘が鈍りましたか?」
「よぉし、鞭打ちさらに五十回!」

 慌てて弁解するニザム。
「わ、私のせいじゃないでしょう!」

「ワハハハ。ざまみろ」
 笑い返すスルタン。生意気な近侍に一矢報いたようだった。

 その一連のやり取りを見て、当の少女がキョトンとしている。

 あらぬ方向を茫然自失に見るニザムに構わずスルタンは少女に向き直り口を開いた。

『お前、俺に黙っていたな?』

 それはマレー語ではなかった。驚く倭寇の少女。

『なんだ、オッサン。倭人の言葉を喋れるのか?!』

『驚くことか。俺の国は貿易商が多い。
 俺が外国語を喋れんでどうする?』
『あゝ、そうなのか。そういうもんか』

 倭言葉で会話を続けるスルタンと倭寇の少女。周りにいた者たちは、耳慣れぬ会話にポカーンとしている。

 ただ、ニザムと外交に携わる役職に就いていた者たちは理解していた。

『その黙っていたって何をだ?』

『女だったってことをだ』
『必要ないじゃないか。オッサンには関係ないことだ』

『オッサン、オッサン云うな! 俺はスルタン国王だぞ!』
『殿さまなのか? 
 通りで羽振りがいいと思った。豪商か何かかと思ってた』

「まぁいい。
 ところでお前はどうなのだ?
 ここ、プンダリーカ王国は海賊が根城にするには倭国からはだいぶ離れている。
 倭言葉が話せるだけでは、どうにもならんと思うがな?」

 スルタンは言葉をマレー語に戻した。

「ぅむむ?」
 と周りが唸る。

 言葉を戻したのは周りに配慮した訳ではなく、少女を試す意図があった。

 彼女はそれを知ってか知らずか
「おれは倭言葉いがいは琉球語と朝鮮語。
 あと客家はっか語の土語どごとマレー語もすこしできる」

 倭寇の少女は、たどたどしいながらもマレー語で答えた。

 それを披露した少女に、スルタンは十二分に合格点を与える気になった。

 周りにいた貴賓たちの緊張も若干緩んだようだ。

 宴の会場では今は皆がお喋りを控え、楽器を演奏する音楽だけが静かに鳴り渡っていた。


つづく


<次回、第二部 最終夜 バサラの大切なもの>



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