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【連載小説】第33話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』

〜これまでのおはなし〜
三奏より海を隔てた大陸の半島東に位置する国、独裁軍事国家『聖クィシン皇国』。
その聖クィシン皇国から派遣された一団は、三奏に侵入し傍若無人に防人たちを殺害し、何も罪のない村人たちを拉致する。
彼らに正義はなく、あるのは冷血な国是のみ。
その企みの真意とは何か。
果たして彼らの侵入を察知したチョウマとイオリは、その進軍を止められるのか。


捜索④ 拉致の理由


傲岸不遜な黒い鎧兜の兵らは
さらなる目的を達成する為に前進する
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩




 聖クィシン皇国の兵たちは、夜間に進軍する。
 なるべく目立たぬように計画を遂行する為だ。
 今はまた、山の中に身を潜めるように山林を駆け抜けていた。

 殿しんがりに控えるのは士官の大男。
 皆、息を切らせず落伍者もいない。
 また支障が生じれば、防人たちにしたように容赦はしない。
 面倒ごとが起きる前に凶行をもってこれに厳格に対処する。
『鉄の掟と冷血の下に導かれし偉大な国』の口上は伊達ではない。

 士官の大男、ビ・アクー将軍は皇上の覚えもよい将校であった。
 魔導汽船に待機する皇上お抱えの高位の妖術師ク・ザメとともに、今回抜擢されたのは計画の陣頭指揮を執るためである。

 彼は軍の精鋭だった。実力で劣ることはない。
 実際、計画は順調過ぎるくらいだ。

 だが、実はビ・アクーには不満があった。
 とは云っても、計画にでも皇上にでもない。      
 ビ・アクーは忠義の家臣である。
 このような些末な計画の指揮を命じられたことが不満だった。

 計画とは要するに『奴隷狩り』

 敵対国に侵入し、奴隷を拉致することが目的である。
 奴隷の必要性は重々承知している。
 女、子どもは皇族や貴族の慰みものとして、男は皇上の死霊を操作する魔導の材料として――奴隷はいずれも必要不可欠なのだ。

 しかしながら、わざわざ骨を折る思いをして敵地に侵入し、奴隷を確保して、果たして見返りはあるのだろうか。

 それがビ・アクーには不満だった。
 武功を重んじる軍属のビ・アクーには奴隷狩りは雑用でしかなかった。

 それでもこれまでのところ、その甲斐はあったと云えよう。首尾は上々。
 こうなるとビ・アクーも我儘わがままを云える立場にはない。
 でなければ、ノコノコと、異国の地まで出向いたりはしない。云うまでもない。

 皇上に誇りを持って奏上できる内容だ。
 胸に付ける勲章の数がまた増えることだろう。
 それは決して大仰おおぎょうなことではなく、ビ・アクーが改めて云わなくても、軍人にとって、聖クィシン皇国臣民にとって、栄誉なことなのだ。

 おもしろいように事が計画通りに運ぶ。
 ビ・アクーの口元には嘲るような、歪んだ笑みが浮かんでいた。
 高揚する気持ちを抑えられずに思わず口走った。
「偉大なる聖クィシン皇国皇上に栄光あれ!!」


 ドドドドドドドドドドドドッ!
「玉吉! うっかり舌を噛まないようにね! 
 本気のチョウマはこんなものじゃないんだから!
 振り落とされないように私にしっかりつかまっていなさい!!」
「――ヒャい」
 森を黄金の牡鹿が奔る。
 燃える焔が後に曳く。
 その姿は伝説の霊獣、炎駒そのもの。
 蒼白い光はその背に跨るイオリと、彼女に正面から抱きついている玉吉を優しく包んでいた。

 ビ・アクーは知らない。
 三奏の心ある者たち__異形なるものは、既にビ・アクーらの動きを察知している。
 それぞれが思惑を持つ、両者の邂逅は近い。


つづく






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