【連載小説】第29話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
帝都に向かう黄色い煉瓦の街道
尊い献身に依る三奏の大動脈
急襲④ 街道
取り敢えず吾作に留守を頼み
チョウマとイオリは不審者を捜す
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
吾作は話しを続ける。
「芋はさ、ほっとくと猪に漁られねぇべか?」
「そうなんだ。それが気になるよね」
「オラが見張っておこうか?」
「いやいや、吾作さんにも自分の畑があるでしょ? そこまでしなくていいから」
「んだか?」
「うん」
チョウマは少し残念そうに答えた。
「まあ、しょうがないって」
「んだか」
「うん」
「――んだば、気をつけてねぇ」
「あゝ、ありがとう。吾作さんも呑み過ぎに気をつけてね」
頭を掻いて吾作は頷いた。顔をクシャクシャにして笑っている。
スッと右手を挙げてチョウマは立ち去る。
「行ってきます」
「はいはい、いってらっしゃい」
「ありがとう。んじゃ」
ひと言返事をしてチョウマは峠に向かう。その背中に声を掛けた吾作。
「土産に春画を買ってきてね!」
チョウマは振り向き笑いながら、
「はぁ――い!」
そして足早に行ってしまった。
その後ろ姿をいつまでも見送ってた吾作は、チョウマが見えなくなると、
「飯食うかぁ~〜」
と家の中に入って布団を畳んで終い、竈に火を起こし支度を始めた。
三奏の地方と首都の帝都を繋ぐ大動脈と云える煉瓦街道は、地方の大名が管理を担当し各町村に整地、整備の普請が命じられている。
敷き詰められた煉瓦はその成果だった。
チョウマはその整備された街道を一人で歩いていた。
今はそこにイオリの姿はない。
街道には起伏の激しいこの山道でも黄色い煉瓦の敷石が敷き詰められている。
どれだけの手と汗が、この一里に携わったのだろうか。それを思うと、この煉瓦の黄色い色が尊いものとなって見える。
今は人通りがなく静かなものだ。お祭りの賑やかさも、ここまではない。
チョウマの陰からヌルんと白い面が現れた。
そして耳元で「キュウイィ――」と、何ごとか囁く。見咎める者など、誰一人としていない。
チョウマが頷く。
「あゝ、昨夜だろう。気がついた。
魔導のにおいが濃くなったからな。
イオリも気がついたか。
クィシンの奴ら、今度は何を企んでやがる?」
そこに吾作と気楽に話していた笑顔はなく、非常に険しい顔のチョウマだった。
背負った振り分け荷物が肩で揺れている。
その足取りは早い。
「とにかく日が暮れるまでは下越に向かって歩こう。夜になったらあとは俺に任せろ」
街道でチョウマと白い面の影は先を急ぐ。
それから日が沈むまでの間、チョウマたちとすれ違った旅人はいなかった。
山を下りたら、それもまた違うだろうか。
宛度のない旅は始まったばかり。
チョウマとイオリの、怪異となって身についた異形の知覚が、その気配を辿る手掛かりとなっていた。
