《ファンダ解剖2️⃣》PERという「嘘」——倍率を信じすぎた投資家が消える理由
「PER40倍は割高」という直感は、なぜ危険か
「この株、PER40倍でしょ。高すぎる。買えない」
米国株投資家の会話でよく耳にする言葉だ。しかしこの判断、実は根拠として非常に脆弱だ。
PER(株価収益率)は、投資指標の中で最もよく使われ、最も誤解されている数字のひとつだ。
正しく使えば強力な比較ツールになる。しかし使い方を間違えると、割高な株を「割安」と見せ、割安な株を「割高」と見せる「嘘の指標」になる。
PERが「同じ業種・同じ時代」でしか機較できない理由
PERは株価をEPS(1株当たり利益)で割った数字だ。「何年分の利益に相当する価格を払っているか」を示す。
この指標が意味を持つのは、比較対象が同じ条件にある場合だけだ。
金利が異なれば、PERの適正水準は変わる。金利が低い時代は「今すぐのキャッシュ」の価値が下がるため、将来の成長に高い価格を付けやすくなり、PERは高くなる。逆に金利が高い時代は割引率が上がり、将来キャッシュの現在価値が下がるため、PERは圧縮される。
業種が異なれば、成長率が異なるため、PERの適正水準も変わる。成長率が毎年30%の企業のPER40倍と、成長率ゼロの企業のPER15倍では、前者の方が実質的に「安い」可能性がある。
「PER40倍は割高」という判断は、このどちらの条件も無視している。
「PER50倍が正当化される」状況とは
具体的に考えてみよう。
ある企業が毎年EPS30%成長を続けているとする。現在のEPSが$1だとすると:
来年:$1.30
再来年:$1.69
3年後:$2.20
現在のPERが50倍に見えても、3年後のEPSで割り直すと「実質PER23倍」だ。これは成熟企業の平均的なPERと大差ない。
一方、成長率が5%しかない企業のPER15倍は、3年後のEPSで割り直しても「実質PER13倍」程度にしか下がらない。
現在のPERではなく「将来のEPS成長を加味したPER」が、実質的な割安感の判断に必要だ。
トレーリングPER vs フォワードPER:どちらを使うべきか
PERには2種類ある。
トレーリングPER(TTM P/E): 過去12ヶ月の実績EPSを使う。確定した数字なので正確だが、「過去の結果」を使っている点で「未来の価値」を評価する株式市場と相性が悪い。
フォワードPER: 来期または今後12ヶ月のEPS予想を使う。未来志向で市場の期待に沿っているが、アナリストの予想精度に依存するというリスクがある。
実務的には、フォワードPERを「主」として使い、トレーリングPERとの乖離幅でアナリストの楽観度を把握するという使い方が多い。
フォワードPERがトレーリングPERより大幅に低い場合は、「アナリストが急成長を予想している」か「会社側が強いガイダンスを出している」ことを意味する。その予想が実現するかどうかを、さらに深掘りする必要がある。
PEGレシオ:成長率を組み込んだ「本当の割安感」
PERの弱点である「成長率を考慮しない」問題を解決するために生まれた指標がPEGレシオだ。
計算式はシンプルだ。PERをEPS成長率(%)で割る。
PER40倍 ÷ EPS成長率40% = PEG 1.0
PER20倍 ÷ EPS成長率10% = PEG 2.0
一般にPEG1.0以下が「割安」、2.0以上が「割高」の目安とされる(あくまで参考値)。
この指標を使うと、「PER40倍の高成長株」が「PER20倍の低成長株」より実質的に安いという結論が出ることがある。
ただしPEGにも限界はある。成長率の「予想精度」に大きく左右されること、成長率が負の場合は機能しないこと、業種によって適正水準が異なることには注意が必要だ。
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PERは「出発点」であって「答え」ではない
最終的に強調したいのは、PERは「スクリーニングのツール」であり「最終判断の根拠」にはならないという点だ。
PERが低い銘柄を「割安」と即断する「バリュートラップ」の危険については第9話で詳述するが、PERが高い銘柄を「割高」と即断する「グロース・スルー」の損失もまた、莫大なものがある。
アマゾンのPERは長年「100倍超え」だった。それを「割高」と切り捨てた投資家は、10年で100倍になるリターンを逃した。
PERという数字が出たら、次の問いを立てよ。「この倍率は、この企業の成長率と金利環境の中で、高いのか低いのか」
PERはその問いへの入口に過ぎない。
このシリーズについて
全10話(本総集編含む)で完結です。
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エビデンス:
Investopedia – Price-to-Earnings Ratio (P/E Ratio) : https://www.investopedia.com/terms/p/price-earningsratio.asp
Investopedia – PEG Ratio : https://www.investopedia.com/terms/p/pegratio.asp
Damodaran, A. – Equity Valuation: A Primer (NYU Stern) : https://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/
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