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今日もお江戸は日本晴れ!|第壱幕 恋の打ち水、江戸の夏風|壱(一):冬黒屋、地獄の沙汰も顔次第?

▼前回▼


「あーん、きょうもお団子がおいしいよ~!」
 串団子を幸せ満開に頬張って、桜色の着物の少女は緑茶を一啜り。
「や~ん、お茶もおいし~よ!!」
 赤い布張りの長椅子に座ったまま、足と拳を振りまくる。
「それはどうも。お陽《よう》ちゃん」
 お盆を手に、着板娘が茶店から出てくる。看板娘だけあってか、結構綺麗だ。
 店外の飲食所でお茶を飲み干したお陽は、
「お佐和《さわ》ちゃん!きょーもいい天気だね~!」
 空を指さし破顔する。きょうも元気な青色だ。お日さまも笑顔浮かべて照っている。
「ほんとほんと!  譲壱《ごいち》さんと路月《ろつき》さんも一杯いかがですか?」
 お陽のそばに控えていたならず者ふうの男性二名は、太い声で礼儀正しく申し出を断った。二人とも二十代前半くらいの歳に見える。
「これからまたお仕事ですか? 大変ですね」
「そうなんよ! 恵助《けいすけ》のヤツがきょうは仕事休みだってんでね、きょうこそっ! きょうこそ、金を返してもらうんでぃっっ!」
 挙を天にかざすお陽。大きな瞳はやる気いっぱいモードだ。星を散りばめ煌《きら》めいている。
 護壱はお佐和に金を払った。
「まいどありっ!」
 路月はお陽に手を貸し、椅子から立ち上がらせる。
「さ、お嬢。参りましょう」
「うんうん、行く行くっ!」
「また来てくださいねっ!」
 少女と二名の番犬を手を振って見送って、その姿が見えなくなると、お佐和は人知れずため息をついた。
「恵助さん……か」

「オラオラオラァ! 邪魔するゼ!」
 乱暴に人様のうちに上がり込んで、彼らは彼らの正義を振りかざした。
「恵助さん、本日こそは我が冬黒屋《とうごくや》から借りた金をお返し願いますよ!」
 取り立てだった。悪質な取り立てだ。
 冬黒屋といえば金利の高さがメチャクチャなコトで有名だ。あそこでは金を借りるなと町人たちは口を揃えていう。
「冬黒屋さん……。申し訳ありませんが、なにぶん給料前で、こちらもお支払いできるお金が……」
 少年が床《とこ》に就いた祖父を守るように立ち、甘さの残る低い声でそういう。
「黙らっしゃいっ‼︎」
 甲高い声で冬黒屋の一人娘──お陽は言い放つ。
「とにかく返してもらうわっ‼︎ どれだけ滞納してると思ってるわけ⁈ 差し押さえするわよっ‼︎」
 少年──恵助は顔をしかめ、お陽と護壱と路月に言いすがる。
「しかし、利子だけはなんとかお支払いしています。今月分の利子も、給料さえ出ればお支払いでき──」
「生ぬるいことぬかしてんじゃないわよっ‼︎」
 お陽は恵助に詰め寄ると、いきなり彼の顎を掴んで引き寄せる。
「あんたねぇ、金が払えないなら、いい加減カラダで払いなさいよ‼︎!」
 恵助は眉を寄せ、苦々しい顔をした。
「アンタみたいにチマチマ漬物屋で働いてたって、金なんか返せるわけないじゃないっ!」
「で、でも……」
「アンタ顔だけはヤケにいいんだから、遊郭《ゆうかく》で働きなさいっ! すぐに人気者になれるわよ⁉︎」
「そ、それは……」
「世の中にはね、暇なオバハンがたくさんいるの! 寂しい彼女たちに奉仕し、金を返す! 美しいことじゃない?  職業に貴賎《きせん》はないわ! さあさあさあ、どうよどうよっ⁈」
「…………」」
「なによその反抗的な目⁈  もともと金を返せないそっちが悪いんじゃないっ‼︎ そうよね、護壱、路月‼︎」
「そうでやんす」
「そうっす」
「…………」
「ふーん」
 お陽は恵助の顔をとくと見つめた。さりげに頬が赤くなった。
 彼女は恵助から離れ、ぼろっちい板壁を眺めながらこう続ける。
「……ていうか、アンタの場合、たぶん女よか、男ウケする顔してる気がする……。ていうか、絶対……。そうよね、護壱、路月」
「はぁ」
「いや、俺らはノーマルなんでそういうのはちょっと」
「ところでなんでお嬢は顔が赤いんで?」
「ウ、ウルサ〜イつ!!」
 お嬢パンチが炸裂した。巨漢二名はあっさりヤラれた。目を回して床にキスする。
「細かいことイチイチ気にしてんじゃね〜わよ! ハゲるわよ⁉︎」
 右拳を左の掌に音高くぶつけ、お陽は恵助に向き直った。
「オラァ! 恵助! 金返せ‼︎」
 目を吊り上げ、低い低い声で凄んでみせた。
「お陽さん……」
 黙りこくっていた老人が口を利いた。煎餅《せんべい》布団から半身を起こす。
「じっちゃん! 寝てなきゃだめだよっ!」
「よいよい、恵助。気にするな。……お陽さん、きょうのところはどうか、お引き取り願えませんでしょうか……」
 お陽の顔つきが変わる。眉はハの字。口は波。なんか泣きそうだ。お陽はこの見るからに弱々しい老人が大の苦手だった。
「そ、そんなこといわれても、こっちだって」
「給料が出たらこの孫が必ずご利息をお支払いいたします。滞約分も、必ずいつの日かお返しいたしますゆえ……」
「うぅぅ……」
 敗北寸前だ……この哀れな瞳にはなぜか勝てない。お陽は肩を落とした。てゆーか、いつの日かってなんだよ。しかしこんなことでは金貸し屋の姫なんかやってられない。まなじりを決し、お陽は甲高く喚いた。
「とにかく払って払って払ってよぅっっ‼︎」
「お陽殿……」
 恵助は真摯に頭を下げた。
「申し訳ありません、どうか、きょうのところは……」
 敗北した。お陽は護壱と路月を蹴っ飛ばして起こし、元気なく恵助のうちを後にした。


▼次回▼

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