【毎週ショートショートnote】惑星総転居
惑星総転居をするらしい。
新しい惑星へ記憶だけを送り個人を再現する。役所からの葉書には、難しい言葉がつらつらと並んでいた。
要は同意書にサインをして返すだけでいいというから、なんとなく署名してポストに投げ入れた。
仕事が忙しくて、それきり忘れてしまった。
その頃は激務だったから、単なる疲れだと思った。
昨日の昼になにを食べたか思い出せない。
取引先の名前が出てこない。
笑ってごまかして、深夜のデスクに顔を伏せて寝た。
少しずつ欠けていった。
子どもの頃の家、親の声、好きだった曲。
気づくと、何をなくしたのかさえも思い出せなくなっていた。
ある夜、久しぶりの布団の中で、自分の名前を思い出そうとした。
舌の奥でなにかが引っかかったが、言葉にならないまま溶けて消えた。
そういえば。
遠い星で、新しい自分が生まれる計画があったような。
最近のわたしは、ただ天井の染みを眺めている。
その形さえ、すぐにぼやけてしまう。
名前はとうに思い出せない。なにかを考えようとするたびに、思考がひとつひとつ剥がれていく。
わたしは、たしかにここにいるのに。
自分が誰なのかも、もうわからない。
(471文字)
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