【毎週ショートショートnote】該当作梨
古い図書館の奥で、「該当作梨」と付箋が貼られた箱を見つけた。
そばにいた司書が、声をかけてくる。
「誰かが伝え先をなくした物語です。読んでみますか?」
促されるまま、箱の中の梨を齧った。
甘さの奥から、言葉が溶けるように滲み出す。
それは誰かの恋心だった。
その気持ちが僕に向けられていたものだと気づいたとき、喉の奥が熱くなった。
息を飲んで、司書に尋ねた。
「これを書いたのは誰ですか。」
司書は目を伏せて首を振る。
「残念ながら、個人情報は教えられません。」
茫然としていると、司書が新しい梨を差し出した。
「宛先のない物語があれば、該当作として預かります」
僕は迷わず梨を削った。
「あなたは誰ですか」
削るはしから、文字は果肉に吸い込まれていく。
白い梨の表面が、わずかに熱を帯びる。
いつかこの梨を、あの誰かが食べに戻ってくるかもしれない。
一縷の望みを託し、箱を閉じた。
(373文字)
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